明治大学の教授陣が社会のあらゆるテーマと向き合う、大学独自の情報発信サイト

中世がもつ豊かさをタイムハンティングせよ

明治大学 商学部 准教授 清水 克行

中世がもつ豊かさをタイムハンティングせよ

中世をしたたかに生きた民衆の活力

 戦国時代には、ともすると、織田信長や武田信玄といった戦国大名、戦国武将が華々しく繰り広げる合戦絵巻のイメージがあるが、私はそうしたなかで、あえて、強(したた)かに生き抜いていった庶民の活力のある生き様を探求している。
 実はこの時代は、政治権力が分裂し社会の混迷が深まっていった一方で、各所で民衆が自立した動きを見せるようになっていった時代でもある。
 そうした民衆が得た活力によって、各地で大小の騒乱も起きる。ただその一方で、同時に些細な紛争が大きな動乱を引き起こさないようにするための慣習も成立してくる。「喧嘩両成敗」という、今でも実際にしばしば耳にする日本独特の問題解決策の根元は、室町時代の人々が作り出した慣習法にあった。
 ほかにも今から見ると少々奇異な問題解決法がある。たとえば、訴訟に及んだ双方が焼けた鉄棒を握って火傷をしたほう、あるいはより重傷を負ったほうが有罪となるという裁判(鉄火裁判)や、夫を奪われた妻が友だちをひきつれて後妻を袋叩きにして復讐する物騒な習俗(うわなりうち)など。私たちから500年以上も昔のご先祖さまの生き様は、想像以上にダイナミックなものだった。

安土城焼失をタイムスクープハンティング

 NHK総合の歴史番組「タイムスクープハンター」の劇場版(注1)が、8月31日(2013年)から全国上映されているが、この映画の時代考証を担当している。元の番組は、NHK総合テレビのドキュメンタリー・ドラマ風歴史教養番組で、未来から来た「時空ジャーナリスト」が時空を飛び越えて歴史の現場に密着して、さまざまな時代の日本社会での民衆の生き様や風俗などを、リアルに描き出すというものである。「名もなき庶民の生活に密着する」という、この番組のコンセプトは、私自身の歴史をみる視座とも一致しており、テレビ版以来、時代考証という立場でお手伝いをさせてもらっている。
 劇場版の舞台になる安土城は、言うまでもなく織田信長によって築城されたものだが、本能寺の変後まもなくして焼失して、その後廃城となった。今に至るまで、この焼失の真相は明らかになっていない。ここに潜入して事件の真相に迫ろうという物語である。これだけ聞くと、とても「名もなき庶民」の話とは無縁のようだが、劇場版ではかなり凝った設定でテレビ版の良さを継承している。ぜひご覧いただきたい。

現代にもつながる「合理性」

 後世の歴史観からすると奇異なことも多く行われていた中世だが、現代に通じる制度も生み出されている。
 例えば山田羽書(やまだはがき)というのは、日本最古の紙幣で、1600年頃、伊勢国(現三重県)山田の商人たちによって発明され使用され始めた。当初は銀貨の釣銭の代わりとして使用されが、しだいに一般の通貨として広まり、江戸時代を通じて山田地方周辺で使用された。これは、現代でいう地域限定商品券である。あるいは、遊園地の中だけで貨幣としての価値をもつチケットとも考えられる。鎌倉時代から室町時代にかけては、熊野大社や伊勢神宮に所属する御師とよばれる参詣案内人も全国で活躍した。これは現代のツアーエージェント(旅行代理店)、パックツアーの元祖である。中世は、現代にもつながるような、さまざまな創意が社会の随所に見られて、非常に興味深い。

異文化体験は、歴史に触れることからもできる

 翻って現代。「進歩」や「豊かさ」、「発展」という近代社会でプラスの価値を与えられてきたものが、決して自明のものではなくなってきている。私たちは、どのような新しい価値を創造していけばよいのか。そう考える時、かつて私たちの先祖が切り捨ててしまった物事の中から「失われた可能性」を拾い出すことで、まったく新しい展望を見出すことができるかもしれない。
 教科書には登場しない中世の庶民の言動にも、一定の「合理的」な思想が隠れている。そうした人々の論理や価値観に触れることで、目の前にある現代社会の価値観だけが唯一無二のものではないことに、きっと気づかされることだろう。「異文化体験」は、外国旅行でしか得られないわけではなく、歴史に触れることからも可能であり、そこから混沌とした現代の問題解決につながるヒントを見いだすことができるかもしれない。

(注1) 配給=ギャガ、監督=中尾浩之

掲載内容は2013年10月時点の情報です。

雑誌『ユリイカ』掲載「明治大学ソリューション」の関連記事

日本のこころへ目を向けよう ―お地蔵さんが語るもの

2014.3.1

日本のこころへ目を向けよう ―お地蔵さんが語るもの

  • 明治大学 国際日本学部 教授
  • 渡 浩一
境界線(ボーダー)の向こうから来る精霊たち

2014.2.1

境界線(ボーダー)の向こうから来る精霊たち

  • 明治大学 文学部 教授
  • 越川 芳明
暮らしに耳を傾ける そこからコミュニケーションは始まる

2013.12.1

暮らしに耳を傾ける そこからコミュニケーションは始まる

  • 明治大学 農学部 准教授
  • 高瀬 智子
社会に応答(レスポンス)する市民へ ―革命を超えて

2013.12.1

社会に応答(レスポンス)する市民へ ―革命を超えて

  • 明治大学 経営学部 准教授
  • 折方 のぞみ
共時的に現れる感性の変容に気づくために

2013.11.1

共時的に現れる感性の変容に気づくために

  • 明治大学 法学部 准教授
  • 大楠 栄三

Meiji.netとは

新聞広告連動企画

新着記事

2019.08.21

地方自治の権限の拡大によって、現代型民主主義は進化する

2019.08.07

生物化学は、「より良く生きるための医療」に貢献する

2019.07.31

万葉集に由来する「令和」に込められた、時代にふさわしい願い

2019.07.24

使い心地の良い道具は、道具ではなくなる

2019.07.17

フランス人はなぜデモを続けるのか

人気記事ランキング

1

2018.05.23

衰える結婚、止まらぬ無子化 ――このままでは日本の未来が失われる

2

2019.08.07

生物化学は、「より良く生きるための医療」に貢献する

3

2019.08.21

地方自治の権限の拡大によって、現代型民主主義は進化する

4

2015.10.21

うつ病の対処に必要な「援助希求」という能力

5

2014.09.01

緊急提言、人口減少社会に歯止めをかける ―方策は少子化対策、社会…

Meiji.net注目キーワード

【注目!】連載コラム