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教室を出よ、世界に向かってコミュニケーションしよう

海野 素央 海野 素央 明治大学 政治経済学部 教授

教室を出よ、世界に向かってコミュニケーションしよう

アメリカの大統領選挙は、異文化間コミュニケーションの縮図

 研究の一環として、2008年、2012年の2回、約1年にわたってアメリカの大統領選挙にオバマ陣営に草の根運動員として参加した。そこではっきりと理解できたのは、大統領選挙が異文化間コミュニケーションそのものだ、ということである。
 2012年の選挙は、ロムニー陣営が多額の費用をかけてマスメディアを駆使したのに対して、オバマ陣営は戸別訪問を展開した。アメリカでは戸別訪問が投票日まで許されているので、運動員は有権者のニーズを把握して説得するために、説得のトレーニングを受ける。前回と異なって、オバマ陣営は守勢に立たされた。そのため、多くの説得の言葉を必要とした。同時に、できるだけ細かく対象を絞って、その集団ごとの関心事に合わせて討論していかなければならなかった。例えば、白人、ヒスパニック、アジア系、アフリカ系などといった大まかな集団の分類のほかに、所得階層、職業、性別などなど、組み合わせると無数の集団が存在する。これらに対してそれぞれにテーマを選び、適切な論理を展開していく必要がある。
 私が担当したのは、ワシントンD.C.に隣接したバージニア州北部。2回の大統領選挙と中間選挙を通じて合計で4,200軒を戸別訪問した。この州は、いくつかある激戦州のなかでもとりわけ激しい選挙戦が展開された地域である。2008年の大統領選では、オバマが44年ぶりに共和党に勝利した州でもある。共和党の赤と民主党の青が拮抗するので、2つの色が混じり合うパープルステイトなどとも呼ばれる。民主党が2012年にここを死守できるかどうかは、選挙戦全体の帰趨を決するほどの大きな意味があった。
 そこでオバマ陣営がとった戦術は、コミュニティーの性格に合わせて細かく選挙スタッフを用意して戸別訪問を展開することだった。単にヒスパニック系というだけでなく、同じスペイン語を母なる言葉とする家庭でも、文化的背景は必ずしも一様ではない。呼びかける対象に合わせて、実にきめ細かく運動員を確保して対応させた。こうすることで、より濃密なコミュニケーションが成立するというわけである。

それはエレベーターの中から始まった

 若い時分、私は家具デザイナーを志していた。ニューヨークにある「International House」(注1)に滞在していた。そこのエレベーターで乗り合わせたアメリカ人の少年を野球に誘ってみた。チームができると、隣接する「サクラ・パーク」(注2)でゲームが始まった。ところが、野球の基本的ルールを知っているのはアメリカ人と日本人ぐらい。ほかの国々の人間は、ゲームにはならず、喧嘩が起こりそうになる。
 後日、エレベーターの少年の家のご両親と食事をした際に、その出来事を話しているうちに、ご両親がCrosscultural Communicationを専門とする大学教授だということが分かった。その当時、日本では異文化間コミュニケーション(Intercultural Communication)という学問は一般的ではなかった。そこで話しているうちに、異なる文化を背景にもつ者どうしがどのようにして意思疎通を図っていくかに興味をもち、この道に入った。

今こそ求められる異文化間コミュニケーション

 異文化間コミュニケーション、というのは何も国や宗教の違いだけではない。合併した企業、市町村、さまざまな形で異文化が衝突する場面はある。
 最近、電車の中で「キレる」とか「ムカつく」という言葉を耳にする。そもそも文化的背景を異にする集団はどこにでもあって、日々互いに接触している。そのような状況に、いちいち嫌悪感を抱いていては社会生活が円滑になるわけがない。異文化間コミュニケーションは、いわば皮膚感覚で学ぶものだと思う。文字や講義だけで完結する学問ではない。実際に異質の文化の中に身を置いて、その中で方法を試し、フィードバックを重ねながらスキルを磨いていくものである。できるだけ早く、教室から外に出て本当の学びを進めてもらいたい。

(注1)
ニューヨークにある施設で、日本語訳は「国際文化会館」という。現在は約100の国々から約700人が滞在している。
(注2)
Sakura Parkは、元は「クレアモント・パーク」と呼ばれていたが、ニューヨークの日本人居住者委員会が1912年に、およそ2500本の桜を市に寄贈したことから、現在の名になった。

選挙戦の模様は下記サイトなど
【日経新聞】
http://www.nikkei.com/article/DGXNASGN0602K_W2A101C1000000/
【47NEWS】
http://www.47news.jp/movie/president2012/
【YOUTUBE】
http://www.youtube.com/watch?feature=fvwp&v=QjzlGIzXBAo&NR=1
http://www.youtube.com/watch?v=QjzlGIzXBAo
http://www.youtube.com/watch?v=rf89OC16MxQ

掲載内容は2013年6月時点の情報です。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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