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留学は日本発見の旅。好奇心がパスポート。

小川 フロランス 小川 フロランス 明治大学 商学部 教授

留学は日本発見の旅。好奇心がパスポート。

好奇心は国境を超える

 東京オリンピックが開催された頃、フランスでも日本が紹介される機会が増えていた。少しずつ日本への興味が深まり、日本に行って自分が惹かれた文化にぜひ触れてみたい、そのためには、まず日本語を真剣に学びたいと思い始めた。しかし、その当時、フランスで日本語を十分に使いこなせる人は30人から40人程度だった。迷わず、言語研究では最高峰のパリ国立東洋言語文化研究所の門をたたいた。
 そこに学んでいたとき、教師が「日本の家は木と紙と稲藁でてきている」と説明した。家の中を撮った写真を見せてもらったが、実際にどのようなものなのかは想像できなかった。こうした些細な疑問に始まって日本文化に対する多くの探求心がますます育っていった。こうなると、やはり現地に行ってみて、そこに暮らしてみないと理解できない。百聞は一見に如かず。私は、好奇心というパスポートを片手に、日本に留学することを決心した。

江戸に魅せられて

 平安時代は、日本の女性が文学で活躍した時代で、文学史でも優れた作品が多いのだが、時代が遠すぎて言葉や時代の様相が分かりにくく、私にとっては興味が湧かなかった。比べて江戸時代の滑稽文学は、現代の感覚でも十分理解できて楽しい。日本の古典文学で『東海道中膝栗毛』は、好きになった作品の一つ。制約が多い江戸時代の社会でも、元気に躍動する庶民の姿がよく描かれている。現代小説では、井上ひさしの『四千万歩の男』(注)が面白い。同じように江戸時代の町人が測量をしながら日本全国を旅した史実を元にした作品で、そこに描かれている庶民感覚には、私が江戸文化の三種の神器と考えている、江戸、旅、ユーモアがある。
 文化として海外でよく受け入れられているのは、江戸時代の感覚である。この背景には、庶民的な親しみやすさと同時に元気な日本人が投影されているような気がする。
 私が体験したように、実際に海外に留学して生活してみないと新たな発見も本当の文化を理解することもできない。最近は日本の学生の留学希望者が少なくなってきている、と言われている。せっかく若くてチャンスが多い年頃なのだから、好奇心を持って積極的に海外で学び、学問だけでなく、文化を理解してきてほしい。それが、自分の成長の糧になるし、日本を知ることにもなる。大切なのは、教科書の記述や先生の見解だけを鵜呑みにしていくのではなく、まずは疑ってみること。自ら体験して、世間での常識に捕らわれずに、自分の知識体系を形成することなのだ。

(注)
江戸時代中期に全国を測量した、伊能忠敬を題材にした長編歴史小説。1986年に単行本として「蝦夷編(上)」「蝦夷編(下)」「伊豆編」の全3巻が刊行された。

掲載内容は2012年8月時点の情報です。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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