民主主義の国家は財政再建が遅れがちになる
1960年代の末くらいに、アメリカで公共選択学派といわれる経済学のグループが出てきました。彼らの主張は、民主主義的な政府は財政再建が遅れがちになる、というものです。
どういうことかというと、民主主義国家には複数の政党があり、それぞれの政党には支持者がいます。財政支出の削減を考えるとき、各政党は自分たちの支持者の利益となる支出は減らしたくありません。
例えば、自民党は公共事業や農業関連の補助金は減らしたくないでしょう。野党の中には、福祉関連の支出を減らしたくない党もあります。なぜなら、支持者の既得権益を失わせるような政策を行うと支持を失い、選挙で負けてしまう恐れがあるからです。
すると、だれも財政支出を減らそうとしなくなってきます。しかも、増税は最も不人気な政策です。安倍政権も、消費税のアップを打ち出しながら、様子見してきました。また、もともと法人税が高かった日本では、下げたことによってようやく世界水準に近づいてきたので、これを再び上げることはできないでしょう。
つまり、前回解説したように、財政再建に成功した国のモデルケースとは逆なのが、日本なのです。むしろ、民主主義とは赤字漬けの体質だ、という公共選択学派の主張通りなのが、日本です。
では、日本に財政再建の力はないのかといえば、決してそんなことはないと思います。例えば、財政支出の削減は、まず、全体の大枠を決め、その中で個別の予算を組む方法があります。これなら、個別の政策を狙い撃ちにして削減しているイメージは起きにくいでしょう。
実際、1997年には、公共事業や社会保障を含む主要経費の削減目標値を定めることなどを柱とした、財政構造改革法が制定されています。このときは景気回復を優先させるという理由から、翌年、凍結されましたが、このような法案をあらためて検討する価値はあると思います。
また、日本の財政再建を消費税だけでやろうとしたら、30%くらい必要だという試算があります。これを、とんでもない数字だと思うでしょうか。
確かに、1万円のものを買うと3千円の税金がかかるのですから、大変な負担です。しかし、ヨーロッパには消費税が25%に達している国もあります。それは、充実した社会保障制度を維持するために、国民が相応の負担をすることに理解と納得があるからです。
日本の場合は、借金返済が目的となると、理解はなかなか得られないかもしれません。しかし、将来の世代のことを考えると、私たちにもすべきことがあると思うのです。
次回は、私たち国民ができることについて解説します。
#1 日本政府の借金って、どういう状態なの?
#2 日本政府の借金はなぜこんなに膨らんだの?
#3 PBの黒字化って、借金が減るということ?
#4 財政再建が難しいのはなぜ?
#5 財政再建を実現する方法って、あるの?
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。