2024.03.21
- 2018年8月10日
- リレーコラム
#4 アメリカはサイトブロッキングをしない?
丸橋 透 明治大学 法学部 教授サイトブロッキング以外の方法でも海賊版サイトに対応できる
著作権侵害のデータをアップロードする海賊版サイトに頭を悩ますのは、日本ばかりではありません。その対策としてサイトブロッキングを行っている国はヨーロッパに多くあります。しかし、立法化されているか、裁判所が命令を下す仕組みになっています。日本のように緊急的処置として行っている国はありません。また、アメリカでは、デジタルミレニアム著作権法(DMCA)があり、海外の著作権侵害サイトについては差止命令、つまり裁判所の命令によるサイトブロッキングの可能性は否定されていないものの、これまでブロッキング命令が出されたことは一度もありません。良く知られているDMCAのNotice & Takedownとは、著作権侵害のデータを見つけた場合、権利者がISPに対してDMCAのルールに則った正式な削除要請通知(Notice)を出すと、ISPはそのサイトをとにかく一旦削除(Takedown)しなければいけない仕組みです。しかし、サイト側が、要請に応じた削除は誤りによるものと反論した場合は、今度はそのサイトを復活させなければなりません。そこで、権利者がサイトの復活に不満がある場合は、復活を差止めるよう裁判所に申し立て、裁判所の裁定を仰ぐことになります。ある意味、当事者同士で結論を出し、第三者である一般のネットユーザーの権利利益には直接影響が及ぶことがない仕組みになっているといえます。
実は、アメリカのこのDMCAに似た仕組みは日本にもあるのです。通信事業者と権利者の間で作っているガイドラインには、権利者がデッドコピー(dead copy 丸写し)のデータを見つけた場合、ISPに合理的に説明すれば、それをアップロードした人の意見を聞かなくとも、まず削除するという取り決めがあります。煩雑な手続きを踏まなくても、削除が行えるルートがあるのです。しかし、それは国内のガイドラインであり、海外にサーバーがある場合は適用されません。ところが、オリジナルサーバーが海外にある場合でも、国内にキャッシュサーバーが分散配置され、アクセスしてきたユーザーに最も近いサーバーから配信するコンテンツ・デリバリー事業者(CDN)が間に入るケースがあります。例えば、今回の「漫画村」もそうでした。その場合、国内にサーバーを置くCDNに対しては、日本のガイドラインに当てはめることが可能です。また、権利者が申し立てれば、おそらく、裁判所は削除の仮処分命令を出すのではないかと思います。ただし、こうした要請が出されたことはありません。(なお、報道によれば、4月下旬に「漫画村」のCDNに対する発信者情報の開示請求訴訟は起こされているようです。)
前回も説明しましたが、サイトブロッキングを緊急的処置とするには、このような手段も行った上で、奏功しない場合に限られる(②補充性)べきなのです。
次回は、サイトブロッキングの法整備について解説します。
#1 サイトブロッキングってなに?
#2 サイトブロッキングは違法行為?
#3 サイトブロッキングに正当性はない?
#4 アメリカはサイトブロッキングをしない?
#5 サイトブロッキングの実効性は低い?
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。