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2018.08.07

#3 サイトブロッキングに正当性はない?

#3 サイトブロッキングに正当性はない?
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緊急避難の要件がひとつも当てはまらない

政府は、今回の海賊版サイトのブロッキングについて、緊急避難の要件を満たし得るとしています。緊急避難の要件とは3つあり、①現在の危難 ②補充性 ③法益権衡です。この3つの要件がすべて満たされないと、緊急避難は成り立ちません。ところが、①現在の危難とは、海賊版サイトにより現に莫大な被害があるということです。しかし、コンテンツ海外流通促進機構(CODA)の集計によると、今回名指しされたサイトのひとつ「漫画村」の昨年9月から半年間の訪問者数は延べ6億2千万人、被害金額は推計で約3200億円に達するといいますが、この被害額は正確なものではなく、目安に過ぎないことをCODA自身が認めています。また、サイトブロッキングが実施される前に「漫画村」等は自主閉鎖したとみられ、現在の危難の実情が既にありません。②補充性とは、海賊版サイト運営者相手に訴訟や刑事告訴など、他に考えられるあらゆる手段を行ったものの奏功していないので止むを得ない、ということです。しかし、「漫画村」への大手出版社による刑事告訴が受理されたのは、政府がサイトブロッキングを要請した後であることが判明するなど、他に考えられるあらゆる手段を追求したのかどうかについて疑いがあります。③法益権衡については、私は、接続遮断による全ユーザーの通信の秘密の侵害による害は、著作権侵害による権利者の財産的被害を超えることは明らかであり、そもそも比較が成り立ち得ないと考えています。

このように見てくると、緊急避難の要件をすべて満たしているどころか、ひとつも満たしていないことがわかります。つまり、今回、政府は国民の権利と自由を侵害する施策を国会に諮らず(法の根拠なく)、進めていることになります。これは、法治国家の基本的原則である「法の支配」に明らかに反しています。しかも、政府はあくまでISPが自主的に接続遮断を実施できる環境を整えただけであるとし、自らの手を汚さず、ISPが通信の秘密侵害罪のリスクを負ってまで実施することを期待しているだけであると言うのです。

さて、みなさんは、今回の政府の対応をどう見るでしょうか。もちろん、著作権侵害のデータをアップロードする海賊版サイトには、擁護すべき点はひとつもありませんが、サイトブロッキングありきの政府の対応は、一部の利害関係者の意向を汲むための、迅速というより性急というべき、お粗末な対応である、といわざるを得ないのではないでしょうか。

次回は、海外の海賊版サイト対策について解説します。

#1 サイトブロッキングってなに?
#2 サイトブロッキングは違法行為?
#3 サイトブロッキングに正当性はない?
#4 アメリカはサイトブロッキングをしない?
#5 サイトブロッキングの実効性は低い?

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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