明治大学の教授陣が社会のあらゆるテーマと向き合う、大学独自の情報発信サイト

行動経済学を基にした政策制度の立案は、世界ではもう始まっている

みなさんは、運転免許証や保険証の裏に、自分の死後の臓器提供意思表示欄があることをご存じでしょうか。日本では、意志を記入している人は1割にも達していません。しかし、世界には、臓器を提供するという表示が9割に達している国もあります。なんと慈悲深い国民ばかりの国だと思ってしまいますが、実は、これには一種のからくりがあります。最初から臓器提供をする表示になっていて、それが嫌な人は、拒否に印をつけるシステムになっているのです。日本では逆に、初期設定は「臓器を提供しない」であり,希望者は印をつけることになっています。つまり、日本であれ、世界各国であれ、ほとんどの人は臓器提供の意思表示に対しても、理性的判断を下していないということなのです。おそらく、臓器提供意思表示欄を読むことすら、面倒という感情に流されて、目も通していないのが実状でしょう。

人間の、この行動パターンを政策に活かした例があります。アメリカの年金政策です。アメリカの年金制度は日本とは異なり、様々なファンドの中から各個人が自分で選び、積み立てるシステムです。すると、ファンドを選択して年金に加入する人は国民の5割にも達せず、老後に破産する人が続出し、社会問題となっていました。そこで、会社に勤めた人は自動的にひとつのファンドに加入し、積立金は給料から天引きとし、そのファンドを変えたければ自分で手続きするシステムに変えたところ、加入者は9割近くにまで跳ね上がったのです。実は、この制度を立案するチームに、セイラー教授も加わっています。行動経済学を応用して、感情に影響される人間の行動パターンを捉えれば、政策をより有効に実施する制度をつくることができたわけです。

アメリカやイギリスでは、政府の中に行動経済学や行動科学を基に政策を考えるチームができています。科学的な研究の成果を迅速に取り入れる柔軟性があるのです。ところが、日本ではまったく取り入れられていません。旧態依然の政策制度の設計が行き詰まっているのは、明らかだと思うのですが。

次回は、企業などの経済活動にも行動経済学を活かすことについて解説します。

#1 いま注目の行動経済学って、なに?
#2 行動経済学で賢い消費者になれる?
#3 失敗しない買物テクニックとは?
#4 行動経済学で政策も成功する?
#5 行動経済学で企業経営も成功する?

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

  • Facebook
  • Twitter
  • Google+
  • Hatena

連載コラムの関連記事

時代や民族を超えて共有される普遍性を見出そう

2018.9.13

時代や民族を超えて共有される普遍性を見出そう

  • 明治大学 野生の科学研究所 所長
  • 中沢 新一
#5 日本に民泊は定着する?

2018.9.11

#5 日本に民泊は定着する?

  • 明治大学 商学部 教授
  • 藤井 秀登
#4 P2P型には、B2C型の民泊にはない魅力がある?

2018.9.7

#4 P2P型には、B2C型の民泊にはない魅力がある?

  • 明治大学 商学部 教授
  • 藤井 秀登
現状を相対的に捉え、自分らしさを貫く勇気を持とう

2018.9.6

現状を相対的に捉え、自分らしさを貫く勇気を持とう

  • 明治大学 文学部 准教授
  • 関根 宏朗
#3 民泊を規制する地方公共団体の条例は法律と対立する?

2018.9.4

#3 民泊を規制する地方公共団体の条例は法律と対立する?

  • 明治大学 商学部 教授
  • 藤井 秀登

Meiji.netとは

新聞広告連動企画

新着記事

2018.09.19

「司法取引」で名前を出されただけで逮捕されることもある

2018.09.12

日本は、女性の政治参画「後進国」から脱却できるか

2018.09.05

ゲームで一人勝ちは楽しくないことを、実は、みんな知っている

2018.08.29

「道徳科」導入の現在、その是非を超えて

2018.08.22

宇宙開発に貢献した「折紙」は人間の未来も救う!?

人気記事ランキング

1

2014.09.01

緊急提言、人口減少社会に歯止めをかける ―方策は少子化対策、社会…

2

2018.09.05

ゲームで一人勝ちは楽しくないことを、実は、みんな知っている

3

2017.10.04

精神鑑定は犯人救済のために行うのではない

4

2018.09.12

日本は、女性の政治参画「後進国」から脱却できるか

5

2018.05.23

衰える結婚、止まらぬ無子化 ――このままでは日本の未来が失われる

Meiji.net注目キーワード

【注目!】連載コラム