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2018.06.08

#4 漫画を研究するポイントって?

#4 漫画を研究するポイントって?
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「何を」表現しているかより、「どう」表現しているか

大学で漫画やアニメーションの研究や授業をしていると言うと、どんなことをしてるんですかと聞かれます。もちろん研究や授業の目的によって、いろんなやり方があるのですが、私の場合、まずは作品そのものの表現の分析から始めます。

表現の分析というとき、二つの側面があります。その作品が何を表現しているかという側面と、どう表現しているかという側面です。同じお芝居の同じ場面でも、違う役者さんが演じれば、観客が受ける印象は違ってきます。脚本に書いてあるト書きやせりふは同じでも、役者が違ったり、演出家が違ったりすると、その伝わり方や説得力は変わるのが普通です。「おはよう」のあいさつ一つでも、声の出し方やそのときの表情で、印象は全然違ってきますよね。ある作品が多くの人を夢中にさせているとき、その夢中にさせる力は、何を表現しているかより、どう表現しているかの方に、宿っていることが多いのです。それなのに、漫画やアニメーションを論じるというとき、学生たちがまず思い浮かべるのはいわゆる「テーマ」や「メッセージ」であることがほとんどです。まずこの習慣から自由になってもらう必要があります。

例えば漫画は、大きく分けて絵と言葉とコマから成り立っています。そのそれぞれについて、どんな絵柄なのか、絵を構成する描線は太いのか細いのか荒々しいのか端正なのか、セリフの量は多いのか少ないのか、声には出さない内面の言葉は多いのか少ないのか、誰の内面の言葉が読者に聞こえて、誰の内面の言葉は読者に聞こえないのか、コマの割り方はどうなっているのか、等々、表現上の特徴を分析的に見ていくことができます。

授業では、学生たちを数名ずつのグループに分けて、特定の作品を上のような観点から分析し、発表してもらっています。「どう」表現されているかを分析する力を身につけてもらうためです。こうした分析力は、社会人として生きていくうえでも重要な読解力につながるはずです。この人の言うことにはなぜ説得力があるのか、このメディアの情報はなぜうさんくさいと感じるのか、自分でその根拠を挙げることができるようになれば、自分自身の判断を誤らずに済むだけでなく、周りにもその判断理由を説明することができます。

というわけで、4回に分けて、私が大学で研究者として教育者として、どのようなことをしているのか、お話ししてきました。みなさんの心に引っかかるものが少しでもあれば幸いです。

#1 サブカルチャーを研究する意味とは?
#2 漫画の始まりはいつ?
#3 手塚治虫以前には、どんな漫画があったの?
#4 漫画を研究するポイントって?

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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