2024.03.21
- 2017年5月23日
- リレーコラム
#5 日本のファッションの常識は世界の非常識?
中野 香織 明治大学 国際日本学部 特任教授(退任)海外に行く際は、文化や習慣の違いにも注意が必要。
日本の常識は世界の非常識ということが、ファッションの分野にもあります。例えば、昼間のビジネス時に、黒いスーツを着ているのはほぼ日本だけです。欧米で黒を着るのはモード界で働く人くらいで、ふつうは夜のパーティーと喪の場のみです。昼間のビジネス時は、ネイビーかダークグレーです。イギリスの都市部では、ブラウンもほとんど着ません。日本では、黒がリクルートスーツの主流になってしまったため、黒いスーツに違和感がないのですが、欧米ではかなり奇異に見られます。海外赴任される方は気をつけた方が良いでしょう。また、結婚式に、黒いスーツと白いネクタイをするのも日本だけです。紋付き袴の伝統の名残ですね。欧米には、そもそも白いネクタイがほとんどありません。あるのは、燕尾服に合わせる白い蝶ネクタイくらいです。結婚式では、グレーとか白の明るいベストを着て、華やかさを演出します。このようなベストをオッド・ベストといいます。スーツに付属するものとは別の、“揃いではない”ベストという意味で、非日常の華やかさを醸し出します。言葉の使い方も要注意です。「ダンディ」は、日本では素敵にスーツを着こなす人という褒め言葉で使いますが、欧米では「ちょっとエキセントリックなナルシスト」というニュアンスを込め、否定的なイメージで使うことが多いのです。間違っても、面と向かって「dandy」などとは言わないほうが良いでしょう。
もっとナイーブな問題としては、文化の盗用(cultural appropriation)があります。2年前にボストン美術館で起きた「着物ウェンズデー事件」は有名です。これは、モネの絵画「ラ・ジャポネーズ」の前で、白人の人たちが日本の着物を着て写真を撮るというイベントだったのですが、日本人ではないアジア人の団体が抗議して中止になりました。当の日本人は、何が問題なのかキョトンとしてしまいますが、いまアメリカでは、先住民や、アジア、アフリカの伝統的な衣装を白人がコスプレすることに対して、文化の盗用、文化の冒涜であると神経を尖らせているのです。背景には、日頃差別を受けているマイノリティの人たちの複雑な感情があります。アメリカに行く際は、そのような動きがあることを頭の片隅に置いておくと、余計な摩擦を生むことが少なくなると思います。
次回は、今後注目のファッションについて紹介します。
#1 ファッションセンスを磨くには、どうしたら良いの?
#2 自分の欠点を隠す必要はない!?
#3 自分を印象づけるシグネチャーとは?
#4 プラスワン・アイテムの効果とは?
#5 日本のファッションの常識は世界の非常識?
#6 次に来るのは、モデスト・ファッション?
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。