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人口減少社会と移民政策 ―多文化共生社会の構築に向けて―

山脇 啓造 山脇 啓造 明治大学 国際日本学部 教授

多様性の受容は時代の要請

山脇啓造教授 私は国内の大学を卒業後、アメリカ・ニューヨークの大学院に2年間留学した。1980年代半ばの頃である。ニューヨークはアメリカの中でも最も多様な文化が存在する、多民族が暮らしている街。そこで暮らしていく中で、世界中から集まった多様な人たちと出会い、多民族社会に大きな魅力を感じた。当時日本は、経済大国として絶頂期にあり外国人労働者が急増した時期だった。私は、いずれ東京もニューヨークのように、世界中から多様な人たちが集まる社会になるのではと考え、多文化共生社会の研究を始めた。
多文化共生社会は、女性や高齢者そして外国人も含めた多様な人々が活躍する社会であり、多様性が受け入れられている社会である。現在の日本は、国際関係の緊張によって、多様性を歓迎しない空気が少なからず感じられる。しかしここへきて、多様性を受け入れることは避けて通れない局面を迎えている。それは日本がすでに人口減少社会に突入し、超高齢化社会を迎えようとしているからであり、グローバル化も進む中で、このままでは日本経済そして社会が衰退していくことは明らかだからだ。

50年後に人口1億人維持は可能か

 政府の最新の将来推計では、現在1億2800万人の人口が50年後は3割(約4000万人)減少して、8700万人になり、総人口に占める65歳以上の割合は4割に達するという。さらに民間の有識者会議は、2040年に全国の市町村の半数が消滅する可能性を示唆した。こうした事態を受け、政府は今年の「骨太の方針」(2014年6月)で、50年後の人口1億人維持という目標を打ち出した。そのために、現在1.4の出生率を2.1に引き上げることをめざすという。しかし出生率2.1の達成は至難の業であり、ほとんど不可能といっていい。そこで注目されるのが移民の受け入れである。ところが、政府は外国人を積極的に活用するが、移民政策はとらないことを明言している。外国人の活用とは数年で帰国するゲスト・ワーカーとしての受け入れであり、移民ではないという。これは2つの意味で問題である。まず、日本政府はすでに日系人に加えて、高度人材や留学生などの受入れも積極的に進め、定住化を促し、事実上、移民政策を進めている。また、諸外国では、ゲスト・ワーカーとして受け入れたはずの外国人が定住化する例が少なくない。

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