明治大学の教授陣が社会のあらゆるテーマと向き合う、大学独自の情報発信サイト

異質な者を受け入れる社会へ ー少年法・厳罰化の動きをめぐってー

上野 正雄 上野 正雄 明治大学 法学部 教授

少年法の理念とは何か

上野正雄教授 私は司法修習の後、裁判官として9年間勤務した。その間、数多くの刑事事件や少年事件を担当してきた。その過程で自分の仕事を理論的・原理的に研究したいという想いが強くなり、2003年に明治大学の教員に転職。以来、犯罪学・犯罪者処遇法・少年法を研究対象として取り組んでいる。特に、少年法には裁判官時代から強い関心を持っていた。その一つの契機ともいえるのが、2000年に成立した改正少年法である。少年に対して刑罰を科す場合、家庭裁判所が事件を検察官に送致して、検察官が刑事裁判所に訴追するという手続きが取られる。従来、16歳以上であった検察官送致年齢を、改正少年法は14歳以上とした。厳罰化の一つの現れであるが、わたしはこの方向に疑問を感じざるを得ない。少年法も刑法も同じく犯罪を抑止することによって、犯罪から社会を守るための法制度であるが、刑法は犯罪者に“応報”としての刑罰を科すことによって犯罪を抑止しようとするのに対して、少年法はその理念自体がそれとは全く異なるものだからだ。
 少年法の第1条には「この法律は、少年の健全な育成を期し、非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行う」とある。さらに第22条には「審判は懇切を旨として、和やかに行うとともに、非行のある少年に対し自己の非行について内省を促すものとしなければならない」とある。すなわち、少年の更生・立ち直りのためにあるのが少年法であり少年審判なのだ。事件を起こした少年に対して強制的に教育を受けさせることによって、少年の更生を図る、それによって犯罪を抑止し社会の安全を維持するというのが少年法の理念なのである。成人にはない、少年の可塑性(変わる力)の高さを考えると非常に合理的な理念であると私は考える。他方、犯した行為に対する“応報”のような厳罰化の動きは、このような少年法の理念に合致するとは思えず、少年の更生にとっても、ひいては社会の安全にとっても決して有効とは思えないのである。

社会・ライフの関連記事

「道の駅」には、地域活性化の拠点となるポテンシャルがある

2024.3.14

「道の駅」には、地域活性化の拠点となるポテンシャルがある

  • 明治大学 商学部 特任准教授
  • 松尾 隆策
行政法学で見る「AIの現在地」~規制と利活用の両面から

2024.3.7

行政法学で見る「AIの現在地」~規制と利活用の両面から

  • 明治大学 法学部 教授
  • 横田 明美
LGBTQ問題の法整備の遅れと最高裁の視点

2024.2.29

LGBTQ問題の法整備の遅れと最高裁の視点

  • 明治大学 専門職大学院 法務研究科 教授
  • 清野 幾久子
地球のエネルギー問題・環境問題を解決へと導く人工光合成

2024.2.22

地球のエネルギー問題・環境問題を解決へと導く人工光合成

  • 明治大学 理工学部 准教授
  • 岩瀬 顕秀
COVID-19による経済への影響と支援策から見えた、日本の危機

2024.2.15

COVID-19による経済への影響と支援策から見えた、日本の危機

  • 明治大学 専門職大学院 ガバナンス研究科 教授
  • 加藤 竜太

新着記事

2024.03.21

ポストコロナ時代における地方金融機関の「新ビジネス」とは

2024.03.20

就職氷河期で変わった「当たり前の未来」

2024.03.14

「道の駅」には、地域活性化の拠点となるポテンシャルがある

2024.03.13

興味関心を深めて体系化させれば「道の駅」も学問になる

2024.03.07

行政法学で見る「AIの現在地」~規制と利活用の両面から

人気記事ランキング

1

2020.04.01

歴史を紐解くと見えてくる、台湾の親日の複雑な思い

2

2023.12.20

漆の研究でコーヒーを科学する。異色の共同研究から考える、これか…

3

2023.09.12

【徹底討論】大人をしあわせにする、“学び続ける力”と“学び続けられ…

4

2023.12.25

【QuizKnock須貝さんと学ぶ】「愛ある金融」で社会が変わる、もっと…

5

2023.09.27

百聞は“一食”にしかず!藤森慎吾さんが衝撃体験した味覚メディアの…

連載記事