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2013.09.01

誰もが生きやすい社会の構築に向けて ―経済政策からの考察―

誰もが生きやすい社会の構築に向けて ―経済政策からの考察―
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「70点」を目指す経済政策

飯田泰之准教授 私はマクロ経済政策の計量的分析を研究対象としている。マクロ経済学は、経済主体の最小単位である家計(消費者)、生産者である企業などを分析対象とするミクロ経済学とあわせて、経済理論の核となる部分である。国民所得や失業率、インフレーション、貿易収支など、経済全体に共通するマクロ経済変数の決定と変動に注目し、適切な経済指標、望ましい経済政策等、一国経済全体を考察するのが主な研究分野だ。
 マクロ経済学に限らず、現代の社会科学の前提となるのが、実証分析であり検証可能性である。つまり、理論的仮説をデータや経験で確認すること、それによって理論の取捨選択を行うことが出来ることが「研究」であるための条件となっている。極端に言ってしまえば、理論だけであれば何とでも言える。たとえば税金を上げれば景気が良くなるということを理論化することも、悪くなるというモデルを作ることも簡単だ。経済政策に限らず政策すべてにおいて、計量的にデータで確かめられないものは「あやしい」と言わざるを得ない。
 もちろん、過去の歴史においては、実証分析を経た研究結果を参考にしたわけではなく、天才的な直感や勘で一時代を切り拓いた人もいる。しかし経済学を含む社会科学一般が目指すのは、天才ではなくても“70点”程度の政策運用ができるマニュアルを作ることではないかと考えている。天才依存の政策はその人が引退すれば、終わってしまう。現在注目されている、インフレーション・ターゲットや名目GDPターゲットといった経済政策は、天才的な中銀マンがいなくても運用可能なシステムとして考案された。仮説を設定しデータで検証し“70点”の解答を導くこと。ファーストベストではなくセカンドベストを目指すことが、安全で安定的な経済政策の運用につながると考えている。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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