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いのちを守り、生活を守る。 支援の心と、地震への備えを、いま。

  • 明治大学大学院 政治経済学研究科 特任教授
  • 中林 一樹

南海トラフ巨大地震、首都直下地震への対策が急がれるなか、4月に発生した熊本地震もまた大きな被害をもたらしました。被災地の1日も早い復興を助けるため、そして、次にどこで起きるか予測できない地震に備えるため、私たちにできることを再確認したいと思います。

避難期は震災関連死の防止が急務

中林 一樹 熊本の震災は地震自体が特殊でした。地震の揺れの大きさを表す震度は最大が7で、公式に初めて記録された阪神・淡路大震災以来21年のあいだに、熊本を含めて4回起きています。しかし、熊本のように続けて2回起きるのは前例がありません。最初の一撃には耐えた住居も2回目の揺れには耐えられず、被害が拡大してしまいました。また、余震が極めて多いことも特徴で、震度1以上の余震は1200回を超えています(5月7日現在)。このことが人々の心理に大きく影響して、避難者が増え、避難期間が長くなることが予想されています。

 喫緊の課題は災害時要配慮者への配慮です。高齢者をはじめとする要配慮者は、災害によって、さらに生活上の困難にさらされます。最悪の結果である震災関連死も徐々に増えているため、何とかしてこれを防がなければなりません。そのためには、見守りやコミュニケーションが重要ですから、体育館などの避難所でも、集落などのコミュニティを維持して生活することが大切です。よく見知った隣近所の人が気持ちを支え合うことで、共同生活によるストレスも、多少は軽減されるでしょう。

仮設住宅は復興の拠点でありたい

 私は東日本大震災の被災地で、2012年から毎年復興に関する調査を行っています。そのなかで1.食生活が以前に戻ること、2.仕事や収入が回復すること、3.住宅再建の見通しが立つこと、4.街が復興していくこと、の4つのステップを経て被災者の「生活復興感」が高まることが分かってきました。

 食生活に関しては、仮設住宅での生活に移行するとき、自分で料理ができるように、周辺で食材が買える環境も必要になります。また仮設住宅の生活は自立ですから、被災者が収入を得るために、支援を必要としている人の実態を調べ、収入の道を確保することが急がれます。東日本大震災では、がれきの撤去作業に日当が支払われ、その収入で日々の生活をまかなうこともできました。新潟県中越地震では農道やあぜ道の修復などを被災者自身が行い、復興基金で賃金を払って、農業の復興と生活費の心配の両方が解消でき、回復を急ぐことができました。熊本もそうした事例に学んで、被災者の収入の道を確保することが重要です。

 住宅の再建と街の復興については熟慮が必要です。街に活断層がある以上、いつかまた地震は起きます。どうすれば安全と言えるのか、住宅にはどの程度の強度が必要か、議論し、地域の人の声もよく聞いて、当事者間で街づくりのイメージを一致させることが欠かせません。街づくりの方向が定まらなければ、結果的に住宅の再建も遅れます。
以上4つのステップをすみやかに動かしていくために、復興基金をぜひ立ち上げてほしいと思います。そして、被災地域に自由な裁量を与え、柔軟な対応を可能にする仕組みが望まれます。

家と家族を守るために、いまできること

中林 一樹 一方で、被災地以外に暮らす私たちに、いまできることは何でしょう。支援の心、ボランティア心(ごころ)を忘れないことは誰にでもできます。東日本大震災の被災地もようやく土木工事が終わったばかりですから、熊本にも東日本にも、さまざまな支援が必要です。小さなことかもしれませんが、野菜は熊本と福島産、魚は宮城と岩手産を選ぶといったように、現地に行かなくても同時に支援を行う方法はいくらでもあります。義援金や支援金も、どこにいてもできる支援の一つです。

 そのうえで、次に起きる地震を自らの問題として考え、備えることを期待します。首都圏も、30年以内に70%の確率で首都直下地震が発生すると言われています。首都圏だけではなく日本のどこに住んでいても、他人事ではなく、自分事として真剣にその備えを考えなければなりません。いまがそのときではないでしょうか。

 私たちのすべきことをひと言で言えば「被災者にならないための準備」です。最優先の課題は「家を一瞬で壊さないこと」。新耐震基準が施行(1981年)される以前の住宅は、自治体が無料で行っている耐震診断を受け、補強の必要があれば、自治体の助成制度などを活用して、耐震改修を行いましょう。マンションの場合は管理組合の合意が必要ですが、行政の支援はあります。地震で死傷しないためには、自宅を強くし、さらに家具を固定する、あるいは家具部屋をつくるなどして、我が家にも安全空間を確保することがポイントです。

「自助なくして共助なし」それを忘れないでください

 自宅が無事であれば、地震がおさまった後、帰宅して生活できます。ライフラインが止まっている可能性はありますが、調理を多めにつくり、一食ずつでも冷凍しておけば、それが災害備蓄になるのです。仮に避難所を利用するとしても、少しでも水や食料を持って避難すれば、行政が対応する時間がかせげます。毎日の食事を冷凍して確保し、消耗品などは少し余分に買って使うたびに買い増しすると、賞味期限切れになる心配がありません。こうして備えておけば避難所の食事の列に並ばずにすみ、どうしても自宅での生活が難しい人に、避難生活の場を譲ることができます。また、地域で顔見知りを増やしておくことも大事なことです。隣近所とあいさつを交わし『この人は、この地域の人だ』と認識しあうことが、防災・減災はもちろん、被災後の防犯にもつながります。

 災害時には「共助」の社会が求められます。しかし、自分や家族が被害を受けたり、ケガをしたりすれば、ほかを助ける余裕はなくなります。このことは企業でも同様です。BCP(事業継続計画)の重要性が言われていますが、会社で重要なポジションにいる人こそ、被害を受けてはいけません。一人ひとりが「自助」で備えることで、災害時に周りを助ける「共助」の手になれるのです。『自助なくして共助なし』そのことをいま一度、確認していただきたいと強く願います。

※M's Opinionの記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

プロフィール

中林 一樹

明治大学大学院 政治経済学研究科 特任教授

研究分野
都市防災論、災害復興論、都市計画論
学位
工学博士
経歴
1947年 福井県生まれ。
1975年 東京都立大学工学研究科退学後、同大学助手・助教授。
1993年 同大学都市研究所教授。
1999年 同大学都市科学研究科教授・研究科長。
2005年 首都大学東京に改組し都市環境学部教授、2011年より現職。
主な著書・論文
  • 近著に「危機管理学」(第1法規、共著、2014年)
  • 「市町村合併と地域防災力の空洞化」(ミネルヴァ書房、共著、2013年)
  • 「あなたの都市に地震が来たらどうしますか」(マガジンハウス、2012年)
  • その他著書・論文多数。2014年 防災功労者内閣総理大臣表彰。

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