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人口減社会における地域社会のあり方 ―個を大切にするとともに、輪をつくろう―

  • 明治大学 法科大学院 教授
  • 碓井 光明

“姉妹都市”や”二重住民”によって、都市と農山村の関係を密にする

碓井光明教授 人口減少問題は、私が諮問を受けている地方制度調査会でも、重要な問題の一つとして考えさせられる立場にある。そこで思うのは、人口減少問題の解決に特効薬はないが、都市と農山村との連携に一つの可能性を見いだすことができるのではないかということだ。
例えば、都市と農山村の自治体の”姉妹都市”のような関係を築き、住民も日常的に交流するようになれば、高齢になったら自然の中でのんびり暮らそう、自分の子どもたちは自然の中でノビノビと育てよう、といったことが起こりうるようになるだろう。すでに災害対策などで協定を結んでいる自治体はある。”姉妹都市”のような関係つくることはコストのかかることではないが、どのようにして交流を実現するかについては知恵を絞る必要がある。
さらに、二重国籍のように、東京都の住民であると同時に島根県の住民であるといった”二重住民”を認めるケースもあって良いのではないかと考える。選挙権や税金などの問題もあるが、夏の間だけ別荘で過ごすというように、片手間に肩身の狭い状態で農山村に暮らすのではなく、堂々と両方で暮らせるのが良いだろう。昔、山梨県高根町では、条例をつくって別荘の所有者から高い水道料金を徴収していたが、最高裁判所で無効判決になったことがある。高根町では、別荘を利用する人が夏の間に使う水のために、水道の容量を確保しなくてはならないという不都合が生じていたため、特別な条例をつくらざるを得なかったからだ。そうではなく、一人の人間が、都市部と農山村部で同じ意識を持って暮らせるようになることが大事であり、これによって、都市部での暮らしの輪と、農山村部での暮らしの輪をもつことが可能になると考える。
“姉妹都市”や”二重住民”によって住民の往来が始まり、カップルが増えることで、人口減少の解決につながることが期待されるが、これは長い目で見る必要があると思う。暮らしの輪をもつということは、コミュニティに受け入れられるということであり、特に農山村部では、役場だけでなく地域の人がコミュニティを運営している部分も多いため、それなりの役割を負担しないと仲間に入れてもらえない面がある。農山村の生活に憧れる人も増えているが、実際には不安材料が多いため、行く側、受け入れる側の両者ともに、足並みを揃えるためのウォーミングアップの時間が必要だと思う。

個人はお金だけで動くものではない。価値観の多様化が進んでいく

 都市と農山村の両方に働く場がなければ、”二重住民”の実現は難しいかもしれないと考える人もいるだろう。働く場について考えるとき、企業の工場誘致などにはもはや期待できない。企業とは利益を追求する存在であり、国内はもちろんグローバルに動き、利益が生み出せないと撤退してしまうこともあるからだ。一方、個人は、お金だけで動くのではない。基本にあるのは、お金を稼ぐという単一の価値観から、私たちの価値観が多様化していかなくてはならないということである。価値観の転換である。収入は比較的少なくても幸せだと感じる人は増えてきているのではないだろうか。
お金を得る手段については、その土地で暮らせば、自然に生まれてくる可能性があるのではないだろうか。その土地にあった農業、漁業、地元にある資源を使った観光など、工夫をすれば、地域に根ざして、しかも収益をあげられるものがあると思われる。地元の人は、地元を知っているようで知らない。そこら辺にあるものが売れるはずがないと思っていたりするため、その地域にある価値を見逃している可能性がある。都市からきた人が、それに気付くことがあるかもしれない。違う目を持った人が入ってくることで、新しい産業が生まれる可能性はあるだろう。

働き方が多様化する。議会での働き方も例外ではない

 地域のあり方を考えるとき、私の現在の研究分野である行政法の観点からみると、議会のガバナンスのあり方も課題になってくる。企業などでは多様な働き方を認めるようになってきているが、地域の議会においても働き方の多様化を進めるべきであろう。
例えば、フルタイムで働く議員と、非常勤で参加する議員に分けることも、よりよい地域社会をつくるための一つの方策になると思う。現在は、非常勤の建前でありながら、県や大都市の議会にあっては、事実上、フルタイムで働ける者でなければ議員にはなれないが、サラリーマンや自営業の人など、日中は別の仕事をしている人や主婦なども議会に加わることができる仕組みをつくることである。フルタイムの議員に対して、住民からの監視だけでなく、非常勤の議員からの監視も働くようになる。議員も、選挙に勝つことだけを考えるのではなく、本当に政策をつくることに専念するようになるし、議員に要する費用も少なくすることができる。いい意味での緊張感が生まれ、オープンでいい自治体ができるのではないだろうか。

都市でも農山村でも、コミュニティがオープンになることが重要

碓井光明教授 都市と農山村の関係が密になるには、それぞれのコミュニティがオープンになる必要がある。ここまで農山村のコミュニティについて論じてきたが、実は問題となるのは、都市のコミュニティである。農山村のコミュニティも閉鎖的だが、都市においては、閉鎖的というよりも、コミュニティがないといった方が正確かもしれない。そこで行政は、マンションに集会場をつくりましょう、子育てマンションを認定しましょうと、条例などによってコミュニティづくりを促進しようとしている。
都市部の人口の多くを占める会社員の間では、会社がコミュニティになっている。会社の輪は、会社の輪で結構だし、スポーツや文化活動などの輪もある。都市の中でも数多くのコミュニティが機能すれば、交流するチャンスが増え、カップルも増えるだろう。都市にも農山村にも輪が増え、輪が絡まり合っていけば、人口問題の解決にも貢献するかもしれない。都市における人々の孤独をどのように解消するかという問題も、都市と農山村の交流の輪の中に、解決の糸口が見つかると思われる。
人口問題に特効薬はないだろう。だから自然体で無理をせず、だけどちょっぴり新たな関係づくりへと努力することが大切だと考える。人口が減少しても、個を大切に、輪をつくり、輪の中で楽しんで、幸せを感じていける社会の実現こそが、いま一番求められているのではないだろうか。

※掲載内容は2014年10月時点の情報です。

※M's Opinionの記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

プロフィール

碓井 光明

明治大学 法科大学院 教授

研究分野
行政不服審査制度論、行政契約、資金交付行政
研究テーマ・活動実績
行政不服審査機関のあり方、いわゆる行政の民間化に伴う法律問題、政府経費の法的統制
学位
博士(法学)
主な著書・論文
  • 『都市行政法精義Ⅱ』(信山社、2014年)
  • 『都市行政法精義Ⅰ』(信山社、2013年)
  • 『行政契約精義』(信山社、2011年)
  • 『社会保障財政法精義』(信山社、2009年)
  • 『政府経費法精義』(信山社、2008年)
  • 『公的資金助成法精義』(信山社、2007年)
  • 『公共契約法精義』(信山社、2005年)
  • 『要説自治体財政・財務法』(学陽書房)
  • 『要説住民訴訟と自治体財務〔改訂版〕』(学陽書房、2002年)ほか

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