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緊急提言、人口減少社会に歯止めをかける ―方策は少子化対策、社会保障改革、地方創生にあり―

  • 明治大学 政治経済学部 教授
  • 加藤 久和

日本は「少子高齢化」が進み、「人口減少社会」に突入した。人口減少は社会保障をはじめ、経済全般に負のインパクトをもたらす深刻な問題である。私たちは、この危機的状況にいかに対処すればいいのだろうか。現状を検証し、長期的視点に立った筆者なりの具体的対策を提起してみたい。

国家の方向性として打ち出した人口の維持目標1億人

加藤久和教授 私が専門の一つとする人口経済学は、人口と経済の相互関係を定量的に分析する学問である。現在、この人口経済学が取り組むべき喫緊の課題は「少子高齢化」「人口減少社会」問題にほかならない。人口が減少し高齢化が進展することで、労働力(働き手)が減少し、さらに資本ストックの源泉となる貯蓄率の低下につながる。加えて高齢化は生産性を低下させる可能性があり、潜在的な経済成長率を鈍化させると考えられる。また年金、医療、介護といった社会保障制度の持続可能性が困難になるなど、社会全体に負のインパクトを与える。「少子高齢化」「人口減少社会」は経済力の衰退、ひいては国力を減退させる原因となるのだ。
従来から、日本が人口減少社会に移行することは指摘されてきたが、今まさにそれが現実のものとなってきている。2010年から毎年およそ25万人の人口が減少しており、最新の将来人口予測にしたがうと、2060年には日本の人口は約8,700万人にまで落ち込む。安倍内閣はアベノミクスと呼ばれる「三本の矢」を打ち出したが、これまでのアベノミクスは、物価上昇や株価の上昇など短期的な目標に力を注ぐ近視眼的ものと言わざるを得ない。「少子高齢化」「人口減少社会」に立ち向かうには、長期的視点で政策を立案、実行する必要がある。これに関し、最近、政府がいわゆる「骨太の方針2014」において、人口の維持目標として初めて1億人という具体的な数字を提示したことに注目している。人口減少という、日本の未来に暗雲を投げかける問題が、議論の俎上に上がったことは評価できると思う。人口維持には出生率引き上げが不可欠である。出生行動は個人の選択に委ねられるものであり、政府が干渉すべきではないという考え方から、人口目標を設定することには慎重な意見が多かった。子どもを持つかどうかはもちろん個人の選択によるものでなければならないが、しかし、人口減少がもたらす社会への多大なインパクトを考えれば、国家の方向性としてこうした目標を設定することは必要なことであると考える。

出生率の低下と日本の「少子化対策」の現状

人口の超長期推計結果 人口1億人を維持する、すなわち長期的に人口減少に歯止めをかけるには何が必要か。そのためには合計特殊出生率(一人の女性が一生の間に生む子どもの数の目安)の上昇が必要である。2013年の合計特殊出生率は1.43であったが、これを2030年までに2.1程度まで引き上げることができれば、2090年ころに総人口は約9,700万人となり、これに高度人材を中心に海外からの移民が加わればおよそ1億人となる。1億人はひとつの目安であり、その水準自体にはあまり意味はない。しかし、これは相当に厳しいハードルだ。日本の「少子化」はおよそ40年前から始まっており、1990年代以降、政府はさまざまな対応策を打ち出してきたが、目立った成果は出ていない。出生率の低下に歯止めがかからないのが何よりの証拠だ(正確には2005年に合計特殊出生率は1.26にまで低下、それから若干の回復が見られるが、人口維持には程遠い)。
日本の少子化対策に関する支出をみると、GDPに占める割合は1%程度で、ヨーロッパ諸国と比較して低い水準にある。スウェーデンやフランスはGDPの2.5~3%を支出しており、その政策の効果として合計特殊出生率が2.0前後の高い水準にあると考えられる。重要な少子化対策は、女性が働きながら子どもを産め、育児ができる環境を整備するということであり、その推進に異論はないと思う。そしてそのためには少子化対策のための財政支出が求められてくるが、GDPの230%にのぼる莫大な政府債務を負っている日本には、今のままでは歳出増の余裕はない。では、どうすればいいのか。

社会保障の構造転換と消費税率引き上げが必要

社会支出の国際比較(2009年, 対GDP比) 一つの方策は、社会保障全体の構造を抜本的に見直すことだ。端的に言えば、高齢者に対する社会保障支出を見直し、子育て世代の給付を増やす仕組みを作ることである。もちろん、すべての高齢者に対して年金や医療といった社会保障給付を減らすという話ではない。高齢者の中には高い所得や豊かな資産を保有している人もいれば、収入も限られ生活が厳しい人もいる。所得や資産の状態を考慮した給付を可能とする仕組みに転換するということである。実際には資産等の捕捉が難しいという課題があるが、それによって子育て世代に予算が回り、「少子化対策」に関連する支出が増え、出生率上昇に寄与すると考えられる。
もう一つ考えておくべきことは、消費税の活用である。社会保障制度の財政を維持するには消費税率の引き上げは不可欠である。少子化対策に関して言えば、GDP比で2.5%程度の少子化対策支出を確保するには消費税率換算でおよそ5%程度が必要となる。
今回の消費税率引き上げを巡っては、直近の消費低迷によって、来年10月からの10%への引き上げ論議が迷走しつつある。経済動向を観測しつつ、8%から10%への消費税率引き上げを検討するといわれているが、そんな悠長な状況ではない。消費税の増税に反対の人も少なくなく、税金は少なくない方がいいというのが一般的な感情だろう。しかし、まず10%への引き上げを延期するわけにはいかない。10%への引き上げはいわば国際公約であり、仮に増税が延期されれば、国の信用を失い、最悪の場合、国債の投げ売りによる国債価格の暴落というシナリオも否定できない。国債が暴落すれば、その多くを保有する日本の金融機関の痛手は甚大なものになり、それは日本の経済、さらに国民の生活に深刻な影響を及ぼす。10%への税率引き上げは短期的な消費の落ち込みをもたらすかもしれないが、それは短期的なもので、より長期的な視点から実施すべきである。

数学モデルの限界とリスク管理

 「人口減少社会」に歯止めをかけるキーワードの一つが、「地方創生」である。私もメンバーとして参加した「日本創成会議・人口減少問題検討分科会」は、今年5月、2040年には全国の896の自治体が消滅するといったレポートを公表した。自治体の消滅は、物理的な意味ではなく、20歳から39歳の女性人口が半減すると定義したものである。女性人口の減少は人口全体の減少を加速させ、引いては行政機能の自立・維持を困難にさせる。これは事実上の自治体の消滅である。地方の若年女性の東京圏などへの流出は、その地方を存亡の危機に陥らせるのだ。すでに、そうした傾向は現れつつある。多くの若者が地方から教育や雇用を求めて東京圏に移動する。しかし東京は結婚をして、家庭を持ち、かつ子どもを産み育てるには適切な環境であるとは言いがたい。このことは、東京が47都道府県の中で最も出生率が低い事実(2013年の合計特殊出生率は1.13)が物語っている。若い人が東京に集中し、ブラックホールのように吸い込まれ、人口の再生産ができないまま総人口が縮減していく「極点社会」が到来しているといっても過言ではない。この状況を改革することが、人口減少の歯止めの一つになると考えられる。大事なメッセージのひとつは東京における少子化対策を拡充させることである。
そのためには、若い人が東京を目指すのではなく、地方で就職し、家族を形成して子どもを生み育てる環境を構築する必要がある。地方から東京への人口移動を誘因する要素は「教育(大学)」と「雇用」である。私が提案したいのは、地方に若者を引き寄せる魅力のある拠点都市を整備することだ。政令指定都市など一定規模の都市に資源を集中し、地方の拠点とする。拠点都市にある大学には集中的に予算を投下し、地方企業のグローバルな活躍を支援する政策を支援するなど、魅力ある地方の拠点都市が東京一極集中の流れを変えると考えている。そのためのポイントが一つある。高学歴の若い女性が住みたいと思える都市づくりを進めるというものだ。大学教育を受けた女性の多くは、受けた教育を活かした仕事をしたいと思うだろう。彼女らが働ける場を拠点都市に広げることができれば、地方に残る女性も増え、自然の流れとして男性も地方に残る確率が高くなる。今年9月の安倍改造内閣で、地方創生大臣が新設され「まち・ひと・しごと創生本部」が始動したことにも期待したい。

次世代のために痛みを分かち合う その覚悟が、今求められている

加藤久和教授 ここまで述べてきたことは、いずれも重大で深刻な問題であり、解決は容易なことではない。ただ、はっきりしていることがある。少子化に歯止めをかけ、人口減少社会を食い止め、次の世代に持続可能な社会を残していくには、国民の負担と痛みが伴うことは避けられないということだ。経済・社会問題の多くは、「危ない」と直接的に感じた時にはすでに取り返しのつかない事態に陥っている場合が多い。現在のところ、日本社会を包む空気に危機感や逼迫感は小さいが、それが心配である。日本社会が危機的状況に向かっていることは確かである。それを回避するには、短期的な視点で物事を判断するのではなく、長期的な視点に立つことが求められている。長期というのは20~30年という時間軸だけでなく、将来世代の生涯をも見据えた超長期も意味する。時間は不可逆的であって、過去の失敗は取り戻せない。私たち国民一人ひとりが痛みを分かち合うことで、「人口減少」という難局を乗り越えていけると考える。その覚悟が、いま求められている。

※掲載内容は2014年9月時点の情報です。

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少子化
人口減少
出生率
高齢化
社会保障
地方創生

※M's Opinionの記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

プロフィール

加藤 久和

明治大学 政治経済学部 教授

研究分野
人口経済学、社会保障論、計量経済学
学位
博士(経済学)
経歴
1958年 東京都生まれ。
1981年 慶應義塾大学経済学部卒業。
1988年 筑波大学大学院経営・政策科学研究科修了。
(財)電力中央研究所研究員、国立社会保障・人口問題研究所室長、明治大学政治経済学部専任助教授を経て、2006年より現職。
主な著書・論文
  • 「社会政策を問う—国際比較からのアプローチ」(明治大学出版会・2014年)
  • 「世代間格差-人口減少社会を問いなおす」(ちくま新書・2011年)
  • 「人口経済学」(日経文庫・2007年)
  • 「年金改革の経済分析-数量モデルによる評価」(共編著・日本評論社・2006年)など。

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