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国土の周辺から日本社会を見る地域が変わると、日本の社会が変わる。

  • 明治大学 商学部 教授
  • 中川 秀一

地域からの立地戦略

中川秀一教授 どのような産業が立地するかによって、地域はさまざまな影響を受ける。雇用はもちろんのこと、地域資源の利活用、土地利用をはじめとする周辺環境への影響など、地域経済や社会生活に大きな変化がもたらされることも少なくない。もちろん企業活動においても立地戦略は重要な位置を占めている。立地戦略は、人材確保や技術革新、コストなど、さまざまな要件に大きな影響を与えるためである。一方、地域に根ざした産業は、与えられた立地条件の中で新たな戦略の構築に迫られている。
 経済地理学は、地域政策、産業立地・配置、まちづくり・むらおこしなどの地域における実践的諸活動を直接研究対象とする分野である。つまり、経済現象を地域的な観点から分析する学問であり、中でも私がテーマにしているのは山村地域論である。山間の地域社会がどのように経済基盤を確立し、生活を維持・向上させることができるかを、現場での観察や調査(フィールドワーク)に基づいて研究している。

今、欠けているのは、ローカルの人の声に耳を傾けること

 災害は地域社会が置かれている問題を示唆している。伊豆大島の今回の台風による災害もその一例である。伊豆大島は台風だけでなく、火山の噴火もあり、地震も頻発している。島の人々は、1986年の三原山噴火のときには、島民同士が協力しあって避難することで、一人も死者が出なかったことを誇りにしている。日頃の防災訓練も熱心に行われており、いわば「防災の島」だったのだ。
 私は、しばしば学生たちとともに伊豆大島を訪れており、この夏も防災の町づくりをテーマに調査合宿を行った。3.11東日本大震災を受けて、大島町の防災課では、都の防災計画見直しへの対応に追われていた。地震と津波への対策を中心に走り回っていた。また、同時に家庭内に設置する防災無線の普及にも取り組んでいた。まちでは、いつも訪ねている椿油製造業者さんに話を聞いた。椿が利用されないと山の管理がおろそかになることを学生たちに分かりやすく話してくれた。そして、木の根が深く張らず、地崩れが起きやすくなっているのではないかと懸念していた。資源管理が十全ではない状況を知悉していたのだ。そこにやってきたのが近年稀にみる大型の台風だった。
 現地からみると、各種報道によって知らされていることとは異なる側面が見えてくる。自ら現地に足を運んで、そこで生活する人々の声に耳を傾け、彼らの立場に立って考えるという視点を持つことが、地域の活力を生み出し、さらには日本が元気になるために、求められていることなのではないだろうか。

今の学生には、日本の社会を変える力がある

 長年お世話になっている村が岐阜県にある。その村は6割ぐらいが高齢者の「限界集落」とも言われる状況にあるが、徐々にIターンの人が転入してきており、近年は立て続けに6人の子どもが生まれるベビーラッシュになっている。現在、Iターンの人たちが仕事をしている牧場は、もともとは市町村合併にともなってつくられた観光農場であった。しかし、県から委託を受けて経営をしていた他地域の企業が、儲からないので撤退してしまったという経緯がある。現在は、地元の人たちが出資して新たな会社を立ち上げ、牧場の再建に取り組んでいる。
 こうした村に学生たちを連れて行き、農業用水路の掃除を手伝ったりしながら村の様子を見守っている。今の学生たちは、引率しなくても、学生同士で声を掛け合って出かけるようになっている。子どもを対象とした山村留学の手伝いも行ってきたが、学生たちは社会人を対象にした山村留学ができないかと新たな模索をはじめている。こうした交流から、地元の人たちから、チェーンソーアートのめいじろう(明治大学公式キャラクター)を大学に贈れないかという提案をいただくなど、相互の交流は深まってきている。それを面白く感じ、楽しみ、理解できる学生たちが育つと、日本の社会は変わっていくと思う。学生たちを連れて国土の周辺をゆっくりと訪ねてみると、「あれがいい、これがいい」と新しいものを見つけ出していく。「大人の山村留学」のアイディアなど、こちらが「はっ」とさせられる発見があったりする。

内発的な力と、外的な力を組み合わせることで地域は振興する

中川秀一教授 地域の振興には地域資源を活かすことが重要である。地域資源というものを森林資源に限ることはないのだが、森林は日本では山間部のどこにでもある。うまく活用すれば広域的な資源管理を実現することができ、また生態系の保全にも結びつけることができる。最近関心が寄せられている、小規模分散型エネルギー社会を考える上でも、森林資源の利活用が、国土の周辺に位置する地域の経済や社会を大きく変える契機となり得るだろう。
 では、いかに地域資源を生かして、地域の振興を実現するか。その考察のためには、日本の地域構造を踏まえた上で地域の置かれた諸条件を議論することが欠かせない。同時に、地域の人々の内発的な営力を活かすものでなくてはならない。東日本大震災での被災地からは、地域の人々が自ら立ち上がろうとする取り組みが伝えられている。その力を支える支援のあり方が、被災地の将来に結びつくような構想力が求められている。

国としてのグランドデザインの中で、地域振興を考える

 現在、日本の文化・伝統を世界に発信する動きは活発だ。しかし、和食だけでなく、外国に紹介できるものはまだまだある。雪が大量に降って、どんなに山奥で人が住んでいても、自然は美しく、食べているものもすごく美味しい。外国人から見たらそれが面白いのではないか。
 大都市は社会全体への影響が大きいが、周辺の社会が変わると、日本の社会に変化が生まれ、これまでとは違うより住み良い社会になるのではないだろうか。一極集中ではなく、多極化が進行することで、周辺の社会から日本を見ていくことが可能になる。今、そういう契機が来ていると思う。
 しかし、国土の周辺にある地域が存続し得るかどうかは、差し迫った状況にある。学生たちには、海外に出かけるのも悪くはないが、自分の国の現在をもっと見てもらいたいと願っている。農山村の棚田の石垣の美しさは、そこで農耕が営まれていなければ、失われてしまうものだろう。しかし、日本農業の置かれた状況は、その存続を容易には許さない域に入っている。棚田が維持できなくなる状況を知って「残念だ」と感じることができるためには、棚田の美しさを理解していなければならない。すべての日本の農業集落が危ないわけではなく、多くの集落は存続する力を有している。今あるところが、どのような条件でこれからも存続が可能なのかという研究を進めていくことが重要だと思う。
 私は、地域資源の利活用の拡大を通じた、国土周辺の地域経済・社会文化を再構築する社会的な仕組みを作ることが求められていると思う。国土周辺からの展望によって、国土政策のあり方を考えることも重要な研究テーマであると考えている。

※掲載内容は2013年11月時点の情報です。

※M's Opinionの記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

プロフィール

中川 秀一

明治大学 商学部 教授

研究分野
経済地理学、人文地理学
研究テーマ
地域資源を活用した地域振興策に関する研究
主な著書・論文
  • 『現代日本の資源問題』(共著・古今書院・2012年)
  • 『山村政策の展開と山村の変容』(共著・原書房・2011年)
  • 『グローバル化に対抗する農林水産業』(共著・農林統計・2010年)など

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