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人口減少は経済成長を促す要因にもなりうる

  • 明治大学 政治経済学部 准教授
  • 飯田 泰之

日本の少子化傾向は歯止めが効かず、今後、人口減少はさらに進むといわれています。それにともなって経済もマイナス成長になるといった悲観的な言説が一般的になっていますが、一方で、それは強調しすぎでしょう。人口減少のインパクトは時に誇張されすぎています。さらに人口減少はネガティブな影響ばかりではないのです。

人口減少によって日本の経済成長率は下がるが…

飯田 泰之 日本の人口減少が、経済成長にとってネガティブな影響を与えることは間違いありません。しかし、そのインパクトについては強調されすぎています。例えば、標準的な経済成長理論の手法では、成長会計の方法を使って経済成長の要因を分析します。成長会計とは、GDP(国内総生産)の成長を資本と労働の増大によって説明できる部分と、技術進歩による部分とに分解して、それぞれの要因の寄与度を計算する手法です。まず、人口が減少すれば、当然、労働人口が減少します。その影響は、働き手が1%減少すると、経済成長率は0.65%くらい下がると考えられます。現状で日本の人口が最も減少する2030年前後を考えると、まず、労働年齢人口が1.5%減少します。一方で、女性の労働参加率の向上や、60代の労働参加率の上昇がいまの傾向のまま続くとすると、実際の働き手の減少は1%少々と見込まれます。すると、経済成長の下押し効果は0.7%くらいになる。先進国の平均的な成長率は2%弱ですから、日本の場合はここから0.7%引いた1%ほどが経済の基調的な成長率になっていくとよそうできるでしょう。そもそも年率10%で経済成長していた高度成長期でさえ人口増加率は1%台だったことを思い出す必要がある。経済成長は人口ではなく、人口以外の要因――なかでも技術進歩・効率向上によって決まる部分が大半なのです。そして、この技術進歩にとっては、人口減少による働き手不足は決してマイナスではない側面があるのです。

歴史を見ても、人手不足が技術進歩を促進させる

 人手不足によって技術進歩を加速させた経験を、日本はすでにもっています。典型的なのは、1980年代のFA化(ファクトリー・オートメーション)です。当時、日本の経済の規模はかなり大きくなり、海外展開をするようになってきましたが、団塊の世代とそのジュニア世代の狭間で、若い労働人口が減少した時期でした。人件費の高騰対策と、人手不足を補うために、日本各地の工場は一斉に無人化に取組み始め、日本の工場の自動化技術は大きく発展しました。工場が無人化を目指すことで工作機械メーカーが潤い、研究開発に積極的に投資する余裕が生まれ、その結果、さらに優れた技術開発が促進するという好循環が生じたのです。こうした例は日本に限りません。産業革命を起こしたイギリスも、当時は世界中に植民地を展開し、市場を拡大させていく中で、生産力を上げるためには人手不足となったことが、工場機械工業を設立させた要因のひとつだとする研究もあります。

 日本のFA化の技術進歩は1990年代のなかばくらいまで続き、世界的に見ても、日本のロボット技術の優位は明確でした。しかし、バブル経済がはじけ景気が下降するとともに、人手が余剰傾向になってくると、企業は低賃金で働き手を集めることができるようになり、このような省力化投資に消極的になりました。その結果、機械技術開発にお金が回らなくなり、ロボティクス部門技術進歩は停滞するようになったのです。近年の技術進歩の一番大きな波はAI(人工知能)とロボティクスですが、見方によっては、日本はアメリカやドイツに対して、後れを取っている分野が多いといわれるようになっています。しかし、労働人口の減少によって人手不足が深刻になってくると、AIとロボティクスの技術で、様々なルーティンを回す仕組み作りを考えていかなければなりません。そのときに技術進歩は大きく進展するはずです。

 ハード面の技術進歩と並行して、ソフト面の技術進歩も非常に重要です。そもそも日本に限らず先進国では、サービス業が7割以上を占め、商品そのものにも増して、サービスの部分によって商品の優位性を築くことが多くなっています。例えば、店舗運営にAIやロボットを活用するとき、それを顧客サービスとして上手に使いこなすには、企業のワークフロー改革が必要です。このような「慣れ」や「工夫」は研究室で見つけられるものではありません。現場でトライ・アンド・エラーを延々と繰り返す中で見つけていくものです。このような活動によってAI・ロボティクス技術そのものではなく、それを活用する知恵が集積されます。こうして集積された知恵は、ハードな技術そのもの以上に重要なこともあるでしょう。人口減少は日本だけではなく、世界が直面する問題です。その対応として日本のAI・ロボット活用方法を世界に売り込んでいくとき、この知恵を基にしたマニュアルを持っていれば、技術と合わせたパッケージ商品として優位に立つことができるでしょう。ソフトは、非常に大きな競争力の源泉となるのです。

 このように、成長会計の手法で経済成長の要因を分析すると、労働力の減少によるマイナスはあるものの、その労働力の減少によって起こる技術進歩は、労働力の減少によるマイナスを補って余りある効果を生み出す可能性があるのです。

AIの進歩によって人のライフスタイルも変わる

飯田 泰之 一方で、こうしたAIやロボティクスが発展した社会では、人はどうなるでしょう。日本を含めて世界中で研究されているAIは、ある程度限定された目的に対して最適な解をあたえるように学習を行う「特化型AI」と呼ばれるものです。もっとジェネラルなスキルをもった「汎用型AI」が登場すると、いまある仕事の8割がなくなるという予測があります。

 歴史を見ると、技術の進歩による失業は多々ありましたが、それは主に肉体労働の分野でした。しかし、膨大な情報をハイパースピードで処理することができるAIが実用化されると、例えば、難しい手術などは行わず日常的な診断を行っている医師、判例の調査などを行う弁護士事務所の法律専門事務員など、学歴や経験、熟練が必要とされてきた仕事もAIに取って代わる可能性が高いのです。汎用型AIが登場すると、その傾向は加速するといわれています。

 このような世界で、人はどのような仕事を担うようになるのでしょう。マネージメント層と呼ばれる意思決定と責任を担う経営層、まったく新しいアイデアを生み出すクリエイティブ層、そして、人に癒やしを提供するホスピタリティ層になるといわれます。経営層やクリエイティブ層の人員数はある程度限られているので、多くの人はホスピタリティ層に就くことでしょう。それは、収入の点で二極分化になるかもしれません。AIの進歩は経済の成長を高めますが、最も成功したAI関連企業によるウィナー・テイク・オール、つまり一人勝ちの可能性が高いからです。しかし、AIが社会インフラとなるほどに進歩、発展したとき、その利益は社会全体のものという考え方が起こるでしょう。つまり、形としてはウィナー・テイク・オールであっても、その利益は社会全体に平等に配る、再配分政策が考えられるはずです。最低限所得保障を行うベーシック・インカムなどの導入が必要になる。

 しかし一方で、ホスピタリティの価値はいまよりもはるかに高まるはずです。というのは、すでに私たちが欲するものは、ものではなく、形のないサービスやストーリーを求めるようになってきているからです。例えば、心が癒やされる自然の眺めが味わえる、心地良い快適な旅館には、何度でも訪れたくなるでしょう。そのとき必要なのは、ホスピタリティであり、それを可能にするのは人なのです。効率を追い求める作業はAIとロボットに任せ、人は効率をあまり求めない働き方にシフトし、そこから商品を提供していく社会になっていくのではないでしょうか。ものの消費には限界がありますが、非物質化したサービスには消費の限界がありません。そのような価値観の下では、人口減少による国内マーケット縮小の影響も、悲観するほど大きくはないはずです。

 人口減少を悲観するばかりではなく、それはAIが技術発展する機会となります。発展したAIによって人々が快適に暮らせる社会づくりに、目を向けるべきではないでしょうか。

※M's Opinionの記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

プロフィール

飯田 泰之

明治大学 政治経済学部 准教授

研究分野
経済政策、マクロ経済学
主な著書・論文
  • 『地域再生の失敗学』(光文社新書、2016年)
  • 『NHKラジオビジネス塾 思考をみがく経済学』(NHK出版、2014年)
  • 『NHKラジオビジネス塾 日本がわかる経済学』(NHK出版、2014年)
  • 『リフレが日本経済を復活させる』岩田規久男・浜田宏一・原田泰編(中央経済社 、2013年)
  • 『世界一わかりやすい経済の教室』(中経文庫、2013年)
  • 『思考の『型』を身につけよう 人生の最適解を導くヒント』(朝日新書、2012年)
  • 『飯田のミクロ』(光文社新書、2012年)
  • 『世界同時不況と景気循環分析』浅子和美・飯塚信夫・宮川努編(東京大学出版会、2011年)
  • 『経済は損得で理解しろ!』(エンターブレイン、2010年)
  • 『ゼロから学ぶ経済政策』(角川Oneテーマ21、2010年)など

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