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高齢者支援問題を解決する地域コミュニティを創るには

  • 明治大学 専門職大学院ガバナンス研究科 教授
  • 長畑 誠

いま、日本は超高齢化社会(65歳以上が人口の26.7%、80歳以上の高齢者が1千万人超)を迎えています。さらに、団塊の世代が後期高齢者となり、介護サービスが圧倒的に不足する「2025年問題」が大きな問題となっています。そこで注目されるのが、地域の住人たちが互いに支え合う、昔ながらの地域コミュニティです。しかし、近所づきあいも希薄な現代、どうすればこうしたコミュニティを取戻すことができるのでしょう。

発展への疑問が目を向けさせた、日本に昔からあった自治のスタイル

長畑 誠 私がNPOの活動を始めたのは、大学院生の頃にバングラデシュで活動するNGOに参加したことがきっかけです。現地に駐在したのは1990年代のことで、当時、バングラデシュは世界最貧国のひとつといわれていました。特に農村部に行くと、1日3回の食事もまともに摂れないような人たちがたくさんいました。それでも、自分たちの子どもには良い教育を受けさせ、良い暮らしをさせたいと、人々は将来に目標と希望をもって助け合いながら頑張っていました。そこには、日本人が失ってきた昔ながらのアジア的な人のあり方とか、人と人のつながり、それをベースにした社会があり、私はそれに惹かれて住民の皆さんのお手伝いをする活動をしていました。そうして、子どもたちを都会の高校や大学に送り出していったのですが、すると農村には若い人がいなくなってきました。人々が頑張れば頑張るほど、農村から若い人が居なくなり、都会は過密になり多くの問題が起きてきたのです。皆さん、日本は素晴らしく発展した良い国だ、日本のようになりたいと言っていましたが、突き詰めて考えると、発展とは一体何なんだろう。いま「発展途上国」といわれる国は、日本のような社会を目指せばよいのだろうか。そんな思いを抱きながら、バングラデシュでの駐在を終え、私は日本に帰国しました。

 帰国してしばらくそのNGOで働いた後、「いりあい・よりあい・まなびあいネットワーク」という団体を立ち上げました。現在の「あいあいネット」という一般社団法人の前身となる団体です。名称にある「いりあい」と「よりあい」は、村落の共有地である山林や原野などの入会地を持続的に使うために、住民みんなで寄り合って話し合いながら管理し守ってきた、日本に昔からある制度のことです。地域の資源をみんなで共同管理する「いりあい」と「よりあい」によって地域の自治とコミュニティが生まれ、それは、自分たちで自分たちの地域を良くしていく様々な取組みにつながっていきました。そんな仕組みが日本には昔からあったのです。現代でも、こうした思いをもって活動している人たちをつなぎ、互いにまなびあう場を創っていこうというのが、私たち「あいあいネット」が行っている活動です。

現代にも生きる「いりあい」「よりあい」の精神

 いま、私たちの活動のひとつにインドネシアのバリ島があります。日本人には観光地として有名な島ですが、この島の西側に「西部バリ国立公園」があります。この地域の森にはバリ島内でも貴重な手つかずの自然が残っていて、生物多様性保全の観点から、インドネシア政府は1984年、この地域を国立公園として保護することを決めました。ところが、この公園の周辺には国立公園ができる以前から村落があり、人々は薪にするために森の木を採ったり、家畜のエサにするために草を刈って暮らしてきました。村の人々にとって周辺の自然は、生活のための森だったのです。しかし、国立公園を管理する公園職員はそれを阻止しようとするため、住民と敵対関係になってしまいました。2008年、私たち「あいあいネット」は、国立公園と周辺の村との「共存・協働関係構築」を目指して活動を開始し、「村人と対等なパートナーシップ関係を創ること」や「“村にあるもの”を活用して課題解決の方法を考える」といったことを、ワークショップや現場での研修を通じて公園職員のチームに学んでもらいました。すると、2010年の夏、当時の公園所長が「カンムリシロムクの人工繁殖に村人も参加してもらえないか」という思いを抱いたのです。カンムリシロムクとはバリ島固有種の鳥で、絶滅の危機に瀕していたため、公園では飼育下繁殖に取組んでいました。公園側の思いは村人にも伝わり、飼育下繁殖のグループが結成されました。それまではカンムリシロムクを密猟する村のようにみなされていたのが、「自然環境保全に取り組む村」として多くの人に注目され、村人はプライドをもつことができ、さらに観光客にアピールするために、村内のゴミの撤去やリサイクル、エコツアーの観光資源の掘り起こしなど、その活動は広がっていきました。

 同じような取組みは日本にもあり、兵庫県豊岡市ではコウノトリ、新潟県の佐渡ではトキの飼育と繁殖に取組んでいます。いずれの地でも、ただ繁殖させて放鳥するだけではなく、一時は絶滅してしまった鳥たちが野で暮らしていけるように、農地はできるだけ無農薬にする、里山を整備し守る、ビオトーブを造るなどの活動を通して、自然環境の改善に市民の皆さんが自主的に関わっています。バリ島の例と同じように、こうした活動が人々の注目を集め、それが観光資源となり経済的な利益に結び付くという側面はありますが、それ以上に、苦労をともなう活動なのに、実は“楽しい”ということが関わる大きな理由だと思います。無い物ねだりをするのではなく、自分たちの地域にある資源を、みんなで管理し守ることによって多くの人たちとのつながりが生まれ、また、そこに自治の意識が芽生えます。こうした活動に取組むことは楽しいし、やっていると誇りをもてるのです。「いりあい」「よりあい」にも通じるこうした活動が、地域コミュニティの基盤となるのです。

横浜市の「ドリームハイツ」に見る、住民主体のコミュニティ

長畑 誠 こうした地域コミュニティの在り方には、いま、日本が直面している高齢者への介護や支援の問題を考えるヒントがあると思います。バリ島の村民は、「上から」や「外から」の指示には反発し続けました。同じように、人生経験が長い高齢者の人たちに、若い人たちが、いまの行政のルールはこうだからこうしろとか、お金があれば民間のサービスが受けられますよと言っても、気持ち良く受入れてもらえることは難しいでしょう。緩くで構いません。まず、何かに一緒に取組むことから人と人のつながりをつくり、そこから発展させていくことが自然なのです。大切なのは、「上から」指示を出すのではなく、みんなで一緒に考える場を設け、人と人のつながりを生んでいくことです。

 横浜市戸塚区にドリームハイツという総世帯数約2300戸の大規模分譲集合住宅団地があります。1972年から入居が始まり、保育所や学童保育などを住民たち自身で創ってきたという歴史があります。近年は住民の高齢化が進み、一人暮らしのお年寄りも増えました。そこで、やはり住民自身が中心となり、NPOと一緒になって高齢者の見守りや、居場所づくりに取組んでいます。例えば、コミュニティ・カフェを創り、誰もが気軽に集い、交流ができるふれあいの場を設けたり、空き店舗を利用して歌や音楽を行うサークルを催したりと、住民が互いにつながりをもてる取組みを行っています。こうしたつながりから、住民がお互いを知ることや近所づきあいに発展し、それは支援を目的としていなくても、住民同士が自然と支え合うコミュニティへと成長していきます。こうした取組みが広く知られ、ドリームハイツは最寄り駅からバスで20~40分かかるという、決して良い立地ではありませんが、空き部屋がほとんどないといいます。

 最初は、集いの場を創ることや、歌や音楽のサークルといった文化的活動、何らかの仕事で少しでもお金が稼げるといった取組みでも良いでしょう。重要なのは、人々が楽しみや誇りをもって取組める“場”を創っていくことです。そうしたことがきっかけで人と人の緩いつながりが始まり、コミュニティの再興につながっていきます。こうしたコミュニティの在り方が、高齢者の支援に限らず、子育てや教育、防災、防犯、環境保全など、地域が抱える様々な問題の解決の糸口にもなっていくと思います。

 住民の皆さん自身が主体となり、自治意識をもって、こうしたコミュニティ創りに取組めるようにサポートしていくことが、行政やNPOにいま求められている役割だと思います。

※M's Opinionの記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

プロフィール

長畑 誠

明治大学 専門職大学院ガバナンス研究科 教授

研究分野
非営利組織研究、国際開発論、コミュニティ論
主な著書・論文
  • 「住民のイニシアティブはどう生まれるのか?~インドネシア国立公園協働管理の事例から考える」『ガバナンス研究』No.12(明治大学ガバナンス研究科・2016年)
  • 「ファシリテーション再考~「ファシリテーター」から「ファシリテーティブな場作り」へ~」『ガバナンス研究』No.11(明治大学ガバナンス研究科・2015年)
  • 「地域づくりの現場は国境をこえる―コミュニティ・ファシリテーションの展開を目指して」『国境をこえた地域づくり: グローカルな絆が生まれる瞬間』西川芳昭・木全洋一郎・辰巳佳寿子編著(新評論・2012年)

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