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トランプ氏の選挙モデルは日本のネット選挙に応用できるか?

  • 明治大学 情報コミュニケーション学部 准教授
  • 清原 聖子

2016年のアメリカ大統領選挙では、トランプ氏のツィッターの活用が注目されました。トランプ氏も自ら「ソーシャルメディアが私の選挙を助けた」と語っています。では、トランプ氏はなぜソーシャルメディアを活かすことができたのか、また、日本の選挙でも今後、活かすことができるのか、アメリカ大統領選挙から考えてみましょう。

同じソーシャルメディアでも、使い方に違いがあった

クリントン候補の集会会場に入りきれず、炎天下で3時間待たされて入れたパブリックビューイング会場。(2016年8月1日、ネブラスカ州オマハ)
クリントン候補の集会会場に入りきれず、炎天下で3時間待たされて入れたパブリックビューイング会場。(2016年8月1日、ネブラスカ州オマハ)
 アメリカ大統領選挙にインターネットが活用されるようになったのは、1990年代半ばからです。最初は候補者がホームページを開設し、意見や主張を掲載した本当にシンプルなものでした。転換となったのは2000年の大統領選挙です。各陣営がホームページ上でボランティアを募集したり、選挙献金ができる仕組みを作りました。2008年に立候補したオバマ大統領は、ユーチューブを利用した動画や、iPhone用のアプリを活用するなど、普及したブロードバンドを積極的に活用するようになりました。そして2012年になると、ツィッターも活用するようになります。ツィッターの特徴は、スピーチなどを即座に発信したり、ライバル陣営への反論も素早く行えることです。対立候補の陣営がこんなことを言っている、と見た途端に、こちらもすぐに打ち返す。それを、互いの支持者や有権者はライブ感覚で見て、候補者の動向を知るだけでなく、ある意味、楽しむわけです。こうした傾向がさらに激しくなったのが2016年の大統領選挙でした。

 当選後、CBSのニュース番組のインタビューに「ソーシャルメディアが私の選挙を助けた」と語ったトランプ氏はもちろん、クリントン陣営も外部の支援団体がrapid response teamを作り、ソーシャルメディア対策を行っていました。クリントン陣営の場合、陣営側の情報をニュースとして一気に流すという方法が中心でした。例えば、予備選挙での勝利演説の時に、スピーチ内容をリアルタイムでツィッター上に載せたり、あるいは、クリントン氏のテレビCMを編集して流すなど、動画も多く利用した見栄えの良いもので、クリントン氏をアナウンスするという意味合いの強いものです。しかし、それは上からコントロールされたもので、有権者と対話するより、パーソナルなテレビ局のようなものと言えます。それに対してトランプ氏は、ツィッターをインフォーマル(非公式)なコミュニケーションツールとして活用し、支持者との対話を広げる使い方をしました。そこでは、トランプ氏の暴言ともいえるメッセージも「現状を変えて欲しい」という有権者の共感を呼び、トランプ支持者を熱狂させる土壌となったのです。

反トランプだったはずの主要メディアがトランプを生み出した!?

 トランプ陣営は最初からツィッターなどソーシャルメディアをコミュニケーション戦略の中核に位置づけていましたが、それが選挙にプラスに働くのかどうか、予備選挙の段階では疑問視する声もありました。しかし、ソーシャルメディアに頼る必要があったと思います。既存の主要メディアの多くが反トランプだったからです。通常、共和党を支持する保守派のテレビ局であるFOXニュースですら、反トランプでした。主要メディアを味方につけて選挙戦を戦えないトランプ陣営は、ソーシャルメディアを通して支持者たちにメッセージを発信していきます。しかもその内容はインフォーマルなもので、いわば、自分のファンクラブとのコミュニケーションのようなものでした。

 しかし、ここで興味深い現象が起こり始めます。過激で共感を呼ぶトランプ氏のメッセージに主要メディアが関心を寄せたのです。最初は面白おかしく取上げられていたトランプ氏の暴言やサイトの炎上話も、ニュースのトップバリューになっていきました。メディアを味方につけることができず、ツィッターによるファンクラブとのコミュニケーションのようだった内容が、主要メディアに取上げられて多くの有権者に伝わり、話題が膨らむサイクルになっていったのです。日本では想像しがたいことですが、アメリカのニュース番組では、キャスターたちが端末を持っていて、トランプ氏のツィートがあると、別のニュース中でも「いま、トランプ氏がこんなことを言っている」と番組中にどんどん紹介していきます。ツィッターがトランプ氏をメディアに取上げさせ、メディアに取上げられるからトランプ氏はどんどんツィートをする、というスパイラル現象が起きたのです。ついには、予備選挙でトランプ氏が負けたある日、CNNのキャスターは勝ったクルーズ氏についてコメントするのではなく、「今日はトランプ氏がツィートしていません」というコメントをするほどでした。サブメディアであったツィッターを取上げることで、主要メディアがトランプを生み出した、と言えるかもしれません。

選挙の争点にはアメリカ社会の深刻な分断の構造があった

クリントン候補の集会会場に入るために並ぶ支持者たち。約3000人集まったという。(2016年8月1日、ネブラスカ州オマハ)
クリントン候補の集会会場に入るために並ぶ支持者たち。約3000人集まったという。(2016年8月1日、ネブラスカ州オマハ)
 もちろん、トランプ氏の勝利はソーシャルメディアの活用だけでなく、クリントン氏との対決の構図の中で、有権者がインサイダーよりもアウトサイダーを求めていたことや、カトリックやエバンジェリカルがリベラルなクリントン氏ではなく、保守のトランプ氏を支持したという点も見逃せません。日本人の感覚では、キリスト教徒がトランプ氏を支持するというのは不思議に思えますが、そこには、2016年の2月に欠員が出た最高裁判事を選出するのが次期大統領、というタイミングが重なったことが大きく影響しています。中絶容認問題やLGBTの結婚問題などもあり、これ以上リベラル派の判事を選出されたくないキリスト教徒にとって、選択肢は、熱心に教会に通うリベラルなクリントン氏ではなく、「神を信じているけれど、神に許しを乞うたことはない」と語る保守のトランプ氏だったのです。

 今回の大統領選挙は、アメリカ社会の分断の度合いが深刻であることを露呈させた選挙でした。その分断は、経済における格差の問題や、政治におけるエスタブリッシュメントと一般民衆だけでなく、リベラルな価値観と保守的な価値観にも及んでいるのです。それは宗教上の倫理観の問題だけではありません。例えば、オバマ大統領が進めようとした銃規制ですが、それに賛成するのは東海岸と西海岸の地域で、今回の選挙でクリントン氏が票を獲得した地域と重なります。それに対して、中西部は銃規制に反対の地域で、それはトランプ氏が票を獲得した地域と重なるのです。

 次期大統領にどちらが就いたとしても、この分断したアメリカをまとめていくのは大仕事です。いまだに反トランプの気運があり、そのなかでトランプ氏は選挙期間中に発信していた過激な政策を軌道修正し始めましたが、今度はそれに対してトランプ支持者から反発が起きています。政界や経済界、ジャーナリストたちは一時のヒステリックな状態から落ち着き、トランプ氏の手腕を見守ろうとする方向になっていますが、国民の気持ちは簡単には落ち着きません。ポピュリスト、トランプ氏の手腕がこれから試されることになります。

日本には、日本にあったネット選挙の在り方がある

 今回、トランプ氏がソーシャルメディアを有効に利用した選挙戦略が、日本でも可能なのかは、疑問です。まず、候補者が有権者の共感を呼ぶキャラクターであることが必要です。そのためには選挙に明確な争点があり、候補者が戦いを挑むアウトサイダーであることも条件となるでしょう。アメリカの政治コンサルタントのカンファレンスでも、今回のトランプ氏の戦略が誰にでも使えるわけではないという指摘が出ています。また、日本では主要メディアによるソーシャルメディアの取上げ方が、アメリカとは大きく異なります。この点でも、ソーシャルメディアが起点となってダイナミックな動きが出ることは、難しいのではないかと思います。

 しかし、選挙権年齢が18歳以上に引き下げられた2016年の参院選の際、興味深いポータルサイトがありました。そこでは、選挙ニュースが一覧できるサービスを開設していて、その中に、18歳の視点に応える情報に特化したサイトが別枠で作られていたのです。そのサイトは、政党の数が多く、争点があまり明確ではなく、さらに選挙期間も短い日本の選挙では、ネットが有効な情報収集手段になる可能性を示唆していると思います。世代によって異なる視点に応える情報を、新聞やテレビなどのマスメディアから的確に収集するのは非常に難しいからです。日本に合った「ネット選挙」の在り方を形成するのは、こうした活用がきっかけとなるのではないかと注目しています。

※M's Opinionの記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

プロフィール

清原 聖子

明治大学 情報コミュニケーション学部 准教授

研究分野
現代アメリカ政治、情報政策論
研究テーマ
現代アメリカにおける通信・放送規制改革メカニズムの研究、日米韓台におけるインターネット選挙運動の比較研究
学位
博士(法学)
主な著書・論文
  • 「ソーシャルメディアの普及に伴うアメリカ選挙キャンペーンにおける変化―2014年中間選挙を事例に―」、『社会情報学』、第4巻3号、2016年、31-46頁。
  • 『ネット選挙が変える政治と社会― 日米韓に見る新たな「公共圏」の姿』(共編著、慶應義塾大学出版会・2013年)
  • 『ティーパーティ運動の研究――アメリカ保守主義の変容』(共編著、NTT出版・2012年)
  • 『インターネットが変える選挙――米韓比較と日本の展望』(共編著、慶應義塾大学出版会・2011年)
  • 『アメリカ現代政治の構図――イデオロギー対立とそのゆくえ』(共編著、東京大学出版会・2009年)
  • 『現代アメリカのテレコミュニケーション政策過程――ユニバーサル・サービス基金の改革』(慶應義塾大学出版会・2008年・第24回電気通信普及財団テレコム社会科学奨励賞受賞)など

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