2024.03.21
新都知事にとって、東京オリンピックは絶好の機会
青山 佾 明治大学 名誉教授(元専門職大学院 ガバナンス研究科教授)猪瀬氏、桝添氏とスキャンダラスなトラブルで都知事の辞任が続いた後、新しい都知事が決りました。今度こそ都民の期待に応えてもらいたいと願っている人は多いと思いますが、そもそも都知事とはどんな立場で、何をすべき存在なのか。それを知るためには、世界にも類がない独特の民主主義体制である東京都制について、あらためて考えてみる必要があります。
都知事を知るには、日本独自のスタイルである東京都制を知ることが必要
都知事について考える上でまず必要なのは、東京都制が他にはない独自のシステムであることを認識することです。例えば、東京都の知事というと、予算規模がスウェーデン並みといわれ、一国の首相に匹敵する権力をもっているかのように報道されることが多々あります。しかし、これは大きな誤解です。確かに、都知事には予算や条例などの議案提出や人事などの権限がありますが、それは都議会によってしっかりと監視されています。国の議院内閣制と似ていますが、決定的に異なるのは都知事を決めるのも、都議会の議員を決めるのも、都民の直接選挙であるということ。二元代表制というシステムです。いわば、都知事も都議会議員も都民の代表という意味で同格といえるわけです。実際、都知事が恣意的に決定できることは、まずありません。
例えば、確かに東京都の予算はスウェーデン並みです。しかし、そのほとんどは人件費(職員の給料や議員の報酬など)、扶助費(生活保護法や児童福祉法などに基づき対象者に支給する費用)、公債費の義務的経費であり、政策判断によって内容の見直しが柔軟にできる裁量的経費ではありません。つまり、都知事が自らの裁量で予算をいじることなどできないのです。また都の職員の人事についても、それが警察であれ、消防であれ、教員であれ、それぞれごとに試験制度があり、その結果で採用されます。さらに昇進制度もそれぞれの部署で独自の昇進試験と昇進システムがあり、たとえ知事部局であっても、都知事がその課長を任命できるわけではありません。それは、副知事の任命でも同じです。副知事や特別職の人事は一人ひとりについて都議会の承認が必要です。桝添氏が辞職するときのことを思い出していただきたいのですが、都議会に都知事辞職の承認を求める議案が出されたときに、同時に新たな副知事を4人任命することの承認を求める議案も出され、一括採択されました。こんなことは、ヨーロッパやアメリカでは考えられません。大統領が替われば、ホワイトハウスのスタッフもがらっと変わります。これは政治任用制度といい、大統領のみならず州や市でも同じで、首長が要職などの任命権をもち、恣意的に任免することができる制度です。ところが日本では長い期間をかけて、独特の制度を創ってきました。この制度は、東京都のような巨大な組織で都知事に権限が集中しない、より精緻な民主主義のシステムといえるのです。