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アベノミクスと地方創生の中核企業 ―企業遺伝子経営のススメ―

  • 明治大学 専門職大学院 会計専門職研究科長 教授
  • 吉村 孝司

2015年3月期の企業決算で最高利益や増配企業が相次ぎ、東京証券取引所の日経平均株価は15年ぶりの高水準となった。アベノミクスの成果の一つに違いないが、個々の企業努力も見逃せない。世界経済の潮流変化、技術革新に対応して、企業としての生き方・事業構造の変革に取り組んだ結果でもある。ただし、それができた企業とできない企業がある。何が違うのか。

できる会社とできない会社

吉村孝司教授 ――同業で同様の規模でも、企業の成績に優劣がはっきり分かれることがあります。この原因とはどこにあるとお考えですか?

たしかに、二つに分かれるケースをよく目にします。世の中にはイノベーションできる企業とそうでない企業があります。技術面でも経営面でも。同じ業種で隣り合って似たもの同士なのに、ある会社は革新的な技術を産み出し、やがて大きな成長を遂げ、もう一方はそれができない。また世の中には不祥事を起こす企業があります。大抵の企業は何かしら問題を起こしているだろうと思うかもしれませんが、実際に起こすのはごく少数の企業です。そして、不祥事を起こす企業は不思議と繰り返し起こします。ほとぼりの冷めた頃に同じようにやってしまう。隣の企業は、普通にやっていても決して不祥事を起こさない。「そんなことするくらいなら、潰れた方がいい」とまで言います。どこが違うのかと、個々の企業を調査した結果、企業遺伝子のようなものがあるのではないかという仮説に至りました。

有力企業の6割は「遺伝子がある」

企業遺伝子の存在グラフ ――企業の遺伝子というのは、どのようなものですか?

企業遺伝子というのは、詳しい分析と論理プロセスは省きますが、個々の企業が保有していて、企業のすべての従業員の価値基準や、思考基盤、行動指針として継承されているものと定義づけています。これが正の行動、プラスの経営行動として、例えばイノベーションや戦略的経営行動などがとれているか。また、マイナスの経営行動として、企業不祥事とか不正行動の動因、要因になるのではないかと捉えたわけです。
理屈やイメージで「企業遺伝子とはこういうもの」と言うだけでは説得力がないので、アンケートを実施しました。対象は、まず日経225、つまり東京証券取引所市場第1部に上場する企業のうち日経平均株価を構成する225社。日本を代表する有力企業です。その中には創業から100年前後(プラスマイナス10年)の会社が149社ありこれを「100年企業」、その他の76社を「日経225企業」とします。加えて、株式会社帝国データバンクが定義する「老舗企業」から選んだ128社。創業100年をゆうに超す企業ばかり、ここにもアンケートを行いました。
トータル353社のうち17%の60社から回答をいただきましたが、端的に言うと、「(貴社に)企業遺伝子というものがありますか?」という質問には、「ある」と明確に答えたところが43%、「どちらかと言うとある」と答えたのが19%で、全体の62%が何かしら企業遺伝子が”ある”というポジティブな回答になりました。「ない」とか、「どちらかと言うとない」というのは合わせて8%です。21%は「どちらとも言えない」でしたがハッキリとした結果になり、仮説が成り立つと考えました。(グラフ参照)

100年企業までは“理念先行”?

 ――各社が思っている自社の遺伝子とは、何を指しているのでしょうか?

これらの企業に、企業遺伝子は「具体的に何ですか?」と聞いたところ、100年未満の日経225企業は、経営理念や企業理念、社風、フィロソフィー、経営哲学といった抽象的なものが多かったのに対し、100年企業になってくると精神、スピリッツ、社是社訓、創業者の言葉、それから”○○人”、まさに自社を人格にたとえているようです。さらに、理念的・象徴的なものになっていくのですね。そして、老舗企業の場合も、ますます理念的なものになって行くかと思いきや、そうでもないのです。老舗ほど、自社商品そのものと答えてくれました。例えば、灘の酒造なら「酒」、味噌屋さんからも「味噌」という回答をいただきました。まるで酵母のDNAが企業遺伝子そのものというように。また、ここでも「創業者の言葉」というのはありましたが、目立ったのは「創業の地」という回答でした。明治大学でいえば神田駿河台みたいに”白雲なびく・・・”というイメージでしょうか(笑)。とにかく老舗企業ほど、理念より明確に具体化されたものをドンと打ち出してくるといった印象です。

理念を超えた「商品」や「土地」

吉村孝司教授 ――老舗企業となると、理念的なものよりも具体的なモノが大切ということですか?

そのあたりをもう少し調べたくて、愛知県岡崎の八丁味噌会社を訪問させていただきました。「八丁味噌」を名乗れる2社のうちの1社のご当主にお話を伺いましたが、ここの企業遺伝子は突き詰めれば、商品である「八丁味噌」ということになります。商品に対する注文は多く醸造蔵の見学ツアー客も大勢立ち寄って大変繁盛しておられます。しかし、当主ご本人は、必ずしも事業拡大は求めてなく、安定した事業を望んでおられます。また、創業から十数代を数える代々の家業ですが、今後の事業継承、経営の跡継ぎについて身内継承を必ずしも前提としないと言います。さらには、屋号や商標が時代に応じて変わっても構わないとさえおっしゃいます。そして、その上で「ただ一点譲れないのは、50年後100年後にも、同じこの場所で同じ味の味噌を造り続けていること」というのがご当主の言葉でした。必ずしも血筋でも理念でもない、商標ですらない。”モノ”そのものこそが、継承されるべき企業遺伝子であり、その情報はこの地で造るモノの中に組み込まれているというわけです。まさに、本業な何か。何を商売の基本にしているかを、大切に継承しているのです。
つまり、経営者にせよ従業員にせよ、特定一個人の能力や努力だけによるものではなく、誰かに代わっても、ちゃんとできる。一つの大きな点ではなく小さな点を繋げて線になるように連綿と繋がっていく。経営ノウハウとか経営手腕とかを超えたもっと深い部分に脈々と息づいているものがあり、こうしたいわば「遺伝子経営」をできる企業こそ強い企業と言えると考えます。そして、敢えて付言させてもらえば、こうした企業は基盤となる土地(地域)を大切にし、どちらかといえば多くは大都市より地方に立地しています。ここに、今日の課題である経済活性化と地方創生のカギがあるのではないでしょうか。

 ――地方創生を考える上で、示唆に富んだお話しをいただきました。本日は、ありがとうございました。

※掲載内容は2015年3月時点の情報です。

※M's Opinionの記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

プロフィール

吉村 孝司

明治大学 専門職大学院 会計専門職研究科長 教授

研究分野
経営学
学位
博士(経営学)
主な著書・論文
  • 「日本企業の経営力創成と経営者・管理者教育」(共著・学文社・2014年)
  • 「講座経営教育2 経営者論」(共著・中央経済社・2009年)
  • 「経営管理会計ハンドブック」(共著・東京経済情報出版・2008年)
  • 「マネジメント基本全集別冊『マネジメント基本辞典』」(共著・学文社・2007年)
  • 「経営教育事典」(共著・学文社・2006年)
  • 「経営戦略」(編著・学文社・2006年)ほか多数

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