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女性が変える日本の未来 ―求められる女性が活躍できる企業組織―

  • 明治大学 情報コミュニケーション学部 教授
  • 牛尾 奈緒美

安倍政権が打ち出した「女性の活躍推進」

牛尾奈緒美教授 安倍政権は国の成長戦略を進める上で、「女性の活躍推進」を主要な課題として掲げている。私は、長年、企業組織における女性の能力発揮の問題に取り組んできたが、具体的施策に関しては議論の余地はあるものの、国として「女性の活躍推進」を掲げたことは評価したい。安倍総理が発信したことにより、企業組織において女性の活躍が重要であると捉え、議論する素地ができたこと、これは大きな前進と考えている。
「社会のあらゆる分野において、2020年までに、指導的地位に女性が占める割合が、少なくとも30%程度にする(2003年・男女共同参画推進本部決定)」、いわゆる「2020年30%」という数値目標の達成に向けて、国をあげた本格的な推進体制も整備されつつある。今国会(2014年・秋)での成立を目指している「女性活躍推進法(女性の職業生活における活躍の推進に関する推進案)」も、女性活躍のためのインフラ整備の一環である。こうした国の動きに応じて、各企業には独自の取り組みが求められている。具体的にはジェンダーの視点からの人材マネジメントの構築と、従来さまざまな組織で実践されてきた成功事例の集約と検証が必要とされている。

専業主婦から学究の道を目指したワケ

 私は大学卒業後、フジテレビでアナウンサーの仕事に就き、27歳で結婚・退職し、専業主婦となった。自ら望んでの選択ではあったものの、専業主婦となって実感したのは、一人の女性、個人というよりも「嫁いだ家の嫁」という自分の立ち位置だった。では、私とは一体何なのか、あるいはそれまでの自分のキャリアは何だったのか。専業主婦であることに、疑問や違和感を抱くようになった。そして考えたのは、家庭生活を大切にしつつ、社会で自分の能力を最大限に活かすことであり、それが、自由度が高く、自分の裁量で自立的に働き、専門性を獲得できる学究の道だったのである。
出産後に一念発起し大学院に入学し経営学を専攻。最終的には、家族社会学からアプローチした企業の人事制度、人材活用等を研究テーマとした。日本の家制度と雇用環境は多くの類似性があり、古い家制度が変化していく中、新しい雇用慣行の理念が求められていることにフォーカスしたもので、それは現在の研究テーマである「ジェンダーの枠を超えていく」ことに直結するものである。

日本企業の旧態依然とした価値観

 家制度における性別役割分担は企業組織にそのまま持ち込まれている。果たしてそれは健全といえるものなのかどうか。性別による役割分担は、人の自己実現や夢、幸せの追求を抑圧する可能性が少なくない。そしてその抑圧を被るのはほとんどが女性である。
現在、日本企業における女性の活躍状況は極めて限定的で、能力が十分に発揮できるような組織の枠組みにはなっていない。男女雇用機会均等法が施行されてからすでに30年近くになるが、採用、評価、登用、昇進、賃金などあらゆる側面で、女性は男性とは異なる対応が行われている現実がある。組織内には、目に見える差別とそうとは気付かずに自然に受け入れられてしまっている目に見えない差別があり、それらを包括的に取り除くことは大きな困難を要することだ。家族内のジェンダーや日本社会全体に浸透しているジェンダー、組織内のジェンダーは密接に関わっており、特に企業組織におけるジェンダーは旧態依然とした価値観に裏打ちされ、女性の活躍を阻む要因となっている。

トップダウンによる改革の断行

 女性が能力を発揮し活躍できる組織にするためには、企業において何が求められてくるかが問われてくる。重要なことはトップが、女性が活躍できる組織の必要性を十分理解して、真剣に取り組むことである。女性が活躍できる組織の実現には、それぞれの企業の文化、風土、歴史、特性など複雑な要素が絡んでくるが、まずはトップの確固たる決意のもと組織全体がその価値観を共有し、個々の職場や社員一人一人が、具体的実現のための方策をそれぞれの事情に合わせて策定し、仕組みや制度等をカスタマイズしていくことだ。さらに、単に仕組みや制度を変えるだけでなく、社員、特に男性社員に意識の変革が求められるだろう。男女雇用機会均等法の施工から30年近く経過しても、ほとんど変わっていない現実をみれば、実現がいかに困難で根深い問題をはらんでいるかが理解できると思う。ただここへきて、経営者の意識や認識に変化は現れつつある。講演などの際、10年前であれば私の話に対して苦笑する経営者や異論を唱える者も少なくなかったが、近年では得心する人が増えてきているのも事実である。

人それぞれに向き、不向きがある

 私は、女性すべてが社会進出してビジネスの現場で活躍すべきと主張しているわけではない。女性にせよ男性にせよ、人それぞれモノの考え方や感じ方は多様であり、誰でも「向き・不向き」がある。私が言いたいのは、社会で活躍したいと思う女性、そうした生き方が向いている女性が差別的待遇を受けることなく存分に活躍できる組織・環境を整える必要があるということだ。たとえば、男性にしても企業で働くのではなく、「専業主夫」として家庭に入った方が向いている人もいるはずである。たとえば女性が出産して退職すれば周囲は自然なことと受け止めるだろうが、「子供が生まれたので退職する」と男性が言えば、大半の人は違和感をもって捉えるのではないだろうか。ここにジェンダーの問題がある。性差に関わらずすべての人が、持てる能力を十分に発揮し正当に評価される社会であるべきと考えている。したがって、男性でも女性でも、専業主婦であることが自分に向いていて、生活上の支障もなく、その生き方に真の幸せや自己実現を感じることが出来るのであれば、それで何ら問題はない。

ダイバーシティは競争力になる

牛尾奈緒美教授 女性の能力が活かされない、女性が活躍できない状況というのは、大きな社会的損失である。マクロ的には、日本は人口減少社会に突入しており、それに応じて労働力人口も縮減していくとみられる。日本の経済成長、国力の維持のためには、女性の労働力は不可欠なものとなりつつある。ミクロ的な経済においても、女性の活躍は少なくないインパクトをもたらす。たとえば、男性とは異なる、女性のイノベイティブな考えやアイデアが商品開発等に反映され、競争力を向上させる可能性は大きい。
私はこのほど『女性リーダーを組織で育てる仕組み』というタイトルの本を上梓したが、安倍総理に推薦文を書いていただいた。その骨子は「ダイバーシティは企業の競争力になる」というもの。総理は経団連に対して、女性の管理職登用の促進を要請し、各企業に一人は女性役員を登用するような積極的な働きかけを行っており、女性の活躍推進に対する経営者側の意識も変わらざるを得ない状況にきている。女性が能力を十分に発揮して活躍できる組織・環境を整備することは、日本の未来を拓く重要課題であり、日本の未来のために避けては通れない必須のことなのだ。日本の未来は女性の力が変えていく――私は、そう確信している。

※掲載内容は2014年11月時点の情報です。

※M's Opinionの記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

プロフィール

牛尾 奈緒美

明治大学 情報コミュニケーション学部 教授

研究分野
経営学、人的資源管理論、経営管理論、ジェンダー・マネジメント(企業における人材活用問題をジェンダーの視点から分析)
主な著書・論文
  • 『女性リーダーを組織で育てるしくみ』(共著・中央経済社・2014年)
  • 『ラーニング・リーダーシップ入門-―ダイバーシティで人と組織を伸ばす』(共著・日本経済新聞社・2011年)
  • 『女性の働き方』(共著・ミネルヴァ書房・2009年)
  • 『叢書:働くということ 第7巻女性の働き方』(共著・ミネルヴァ書房・2009年)
  • 『大学生の就職と採用』(共著:中央経済社・2004年)
  • 『ジェンダー・マネジメント』(共著・東洋経済新報社・2001年)ほか多数。
  • 元フジテレビアナウンサー

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