明治大学の教授陣が社会のあらゆるテーマと向き合う、大学独自の情報発信サイト

Meiji.net 探していた、答えがある。

中小企業の成長発展のために ―中小企業の成長なくして一国の成長はない―

  • 明治大学 経営学部 教授
  • 岡田 浩一

中小企業は日本の企業の99.7%

岡田浩一教授 私の専門である経営学をベースとした中小企業研究では、個々の中小企業の発展と群としての中小企業の成長発展によって、一国経済の成長につなげていくことが重要な課題と考えている。中小企業は日本の企業の99.7%を占め、全従業員の約70%を占める。中小企業の成長発展を追求することは、豊かな社会構築のために不可避なものなのだ。日本の経済社会は中小企業が支えていると言っても過言ではないだろう。では現状はどうであろうか。
 まず懸念されるのは、企業数が減少傾向にあることだ。直近の数字では2009年に421万社あったが2012年では386万社に減少している。これは今に始まったことでなく、1980年代半ばから継続しているもので、会社の開業よりも廃業が多い状態が続いていることを示している。さらに黒字企業も低水準での推移が続いている。法人企業約270万社中黒字企業は約70万社、26%に過ぎない。バブル経済期には、黒字企業がおよそ50%だったことを見れば、当時の半分にまで落ち込んでいるのが現状だ。バブル経済崩壊以降、日本経済は長期的な景気低迷、デフレ経済に陥り、経済活力の低下状態から脱しきれない状況が続いてきた。

円高が生んだ技術と人の空洞化

 日本経済が低空飛行を続けてきた背景には、様々な要因があると思われるが、その一つが1985年、為替レートの安定化(ドル高是正)を目指したプラザ合意による円高の加速であろう。それまで日本は技術立国として、国内でモノを作って海外で売り富を獲得してきた。しかし円高の加速によって国内生産の優位性が低下、各企業は円高対応のために、アジアNIEs、ASEAN各国、さらに中国、ベトナムへと生産拠点をシフトしていった。つまり従来、富の源泉であった技術をはじめとした資源が海外へ流出したのである。その結果、技術革新力が低下した。技術立国を支えていたのは、モノづくりの現場で日々創意工夫を繰り返して生まれたイノベーションである。円高でモノづくりの現場が海外に移転したことで、国内に技術と人の空洞化が生まれた。イノベーションが生まれなければ経済成長は望めない。そして急速に進んだ円高は企業(製造業)の利益を圧縮し、それはサービス産業にもインパクトを与え、国内全体の景気を冷やすことになったのである。
 長く続いたデフレ経済から脱却し、経済成長の実現を目指して打ち出されたのが、安倍政権によるいわゆる「アベノミクス」である。様々な評価があると思われるが、アベノミクス効果が生まれているのも確かだ。その一例が、中小企業の景況感が、わずかながらとはいえ、20年ぶりの好転傾向を示してきているということだ。

成長戦略と小規模企業基本法

岡田浩一教授 アベノミクスで注目しているのが、三本の矢の一つである「成長戦略」である。昨年6月に閣議決定された「日本再興戦略―Japan is Back―」の中に盛り込まれた「民間企業活力の復活」では、黒字の中小・小規模企業数を2020年までに現在の70万社から140万社へ倍増する目標が掲げられている。その実現のために、起業の促進、中小企業向けの融資拡大、技術革新や新商品開発をサポートする国の補助金制度の整備、経営支援のための専門家派遣などが検討されており、今夏までに具体策がまとめられる計画だ。
 また、今秋立法化される予定の「小規模企業振興基本法」も注視している。先に日本の企業の99.7%は中小企業であることをのべたが、その中小企業の内の、実に87%が小規模企業である。小規模企業とは製造業・その他の業種では従業員が20人以下、商業・サービス業では同5名以下の企業を指す。日本は“小規模企業大国”なのだ。1963年に制定された中小企業基本法は、中小企業を経済的弱者と位置づけ、救済する精神に基づいた法律だったが、1999年に大改正が行われた。中小企業は弱者ではなく、経済のダイナミズムを生む源泉ととらえ、活力ある中小企業を支援する内容に改正されたのである。今回の小規模企業振興基本法は、小規模企業にフォーカスして支援するための法整備であり、経営支援や販路開拓、事業承継等において求められる人材や資金等の経営資源の供出をはじめ、小規模企業振興に向けて具体的な検討が進められている。こうした政策が、個々の企業の業績向上を実現し、とりわけ存在比率の高い小規模企業の振興につながることに期待したい。

おもてなしの精神が生むイノベーション

 今、大企業といわれる企業も元々は中小企業だった。企業の成長発展を導いた経営者の多くは、Inventor(投資家)でありInnovator(革新者)でありImitator(模倣からヒントを得る人)であったと思われる。そしてこの3つの“I”に加えて必要な要素が、Information(情報)、Idea(アイデア)、Intelligence(知性)の3つの“I”であり、これらを活用してビジネスチャンスをキャッチし拡大していくことが、企業経営に求められる。さらに私は、日本の中小企業経営には“愛”があると考えている。ここでいう愛とは、流行語にもなった“おもてなし”の精神にも通じる。日本はおもてなしの精神が創意工夫の根本にあり、それがイノベーションを生んできた。より便利につかってもらいたい、より喜んでもらいたい、より楽しんでもらいたい等々、モノ作りにおいてもサービスにおいても、作り手の気持ちが日本的なイノベーションの源にある。既存の基盤に立脚し技術やサービスの進化を成し遂げていく「漸進的イノベーション」を、日本の中小企業はおもてなしの精神で営々と積み上げてきたのだ。その過程で培われてきたのは、コスト競争の土俵に上がるのではなく、新たな価値を創り出し、その価値でビジネスを展開する力である。では、その力がなぜ十全に発揮されないのか。

経営者は自信を持つことが重要

 日本のモノづくりを支えてきたのは中小企業である。中でも大企業の下請企業は取引先の要請に応え、コストダウンや品質向上に努めてきた。この下請制は戦時中に必要に迫られて作られたもので、以来、そのピラミッド構造が定着した。その過程で生まれたのは、「うちは下請企業だから。大企業のおかげで仕事がある」と、必要以上に自らを卑下する下請企業経営者のネガティブマインドである。さらに下請企業のビジネスフローは、一般的な企業のそれと著しく異なる。通常、経営者は何を仕入れて何を作りどこに売るかを考えるが、下請企業の場合、売り先は決まっているため、作ることだけに専門特化した。その結果、下請企業の経営能力は退化したのである。つまり、仕入れ先と売り先の開拓努力を怠ったことにより中小企業は弱ってしまったのだ。こうした、下請企業を取り巻く風土が、経営者に自信を失わせ、その力を発揮できない状況を作り出していったと思われる。目指すべきは、“脱下請”であり、社会的分業としての“自立的下請”である。そのためには、経営者は技術力をはじめ自らの能力に自信を持つことから始めねばならない。これは下請企業に限ったことでなく、中小企業の経営者に求められていることだと思う。事実、自信を持ったことで伸びている中小企業は少なくない。今までの意識を変えて、自ら培ってきた能力やこれまでの実績・経験に自信を持つことが、中小企業の成長発展に向けた第一歩である。中小企業の成長なくして一国の成長はないのだから。

※掲載内容は2014年3月時点の情報です。

※M's Opinionの記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

プロフィール

岡田 浩一

明治大学 経営学部 教授

研究分野
中小企業論 中小企業経営論
研究テーマ
日本の中小企業問題と実証研究
主な著書・論文
  • 「中小企業のIT経営論」(同友館・2013年)
  • 「ケースで学ぶまちづくり」(共著・創成社・2010年)
  • 「地域再生と戦略的協働」(共著・ぎょうせい・2006年)
  • 「中小企業政策の国際比較」(共著・新評論・2002年)
  • 「中小企業の現状とこれからの経営」(共著・中央大学出版部・1999年)
  • ほか

企業経営・組織の関連記事

タックス・ヘイブンの情報秘匿の殻を破ったパナマ文書

2016.7.8

タックス・ヘイブンの情報秘匿の殻を破ったパナマ文書

  • 明治大学 専門職大学院グローバル・ビジネス研究科 教授
  • 下村 英紀
「東芝の不正会計」からガバナンスを再考する

2016.3.25

「東芝の不正会計」からガバナンスを再考する

  • 明治大学 経営学部 教授
  • 小俣 光文
経済のサービス化の意味 ―求められるモノからコトへの構造転換―

2015.6.1

経済のサービス化の意味 ―求められるモノからコトへの構造転換―

  • 明治大学専門職大学院 グローバル・ビジネス研究科 教授
  • 戸谷 圭子
アベノミクスと地方創生の中核企業 ―企業遺伝子経営のススメ―

2015.3.1

アベノミクスと地方創生の中核企業 ―企業遺伝子経営のススメ―

  • 明治大学 専門職大学院 会計専門職研究科長 教授
  • 吉村 孝司
ファミリービジネスが地域経済を立て直す ―日本全体にダイナミズムを復権する―

2014.12.1

ファミリービジネスが地域経済を立て直す ―日本全体にダイナミズムを復権する―

  • 明治大学 専門職大学院 グローバル・ビジネス研究科長 教授
  • 青井 倫一

明治大学からのお知らせ

  • ニュース
  • プレスリリース
  • メディア掲載
  • イベント

お知らせ一覧

2017年3月26日
2016年度明治大学卒業式を挙行しました
2017年3月24日
駐日米国臨時代理大使が明治大学に来校 —学生によるキャンパスツアーも実施
2017年3月24日
【理工学部】電気電子生命学科井家上哲史教授がフェローの称号を授与されました
2017年3月21日
JMOOC講座「安全の共通理念を学ぶ 安全学入門」(無料)の受講を受付け中
2017年3月17日
京王線明大前駅の列車接近メロディーが明治大学校歌に —3月25日(土)始発から—
2017年3月17日
校友会熊本県支部と明大マンドリン倶楽部が熊本地震被災地で復興支援の特別演奏会を開催
2017年3月17日
KAKEHASHI Projectで学生23名がアメリカに派遣されました
2017年3月24日
国際武器移転史研究所研究叢書2 榎本珠良編『国際政治史における軍縮と軍備管理』2017年3月刊行
2017年3月23日
明治大学出版会 『知の橋懸(がか)り-能と教育をめぐって』 『アメリカ分裂-数字から読みとく大統領選挙』 『阿久悠 詞と人生』を刊行
2017年3月21日
国際日本学部 新講義科目がスタート、 2017年度より社会連携科目を開講 ~中野区、企業等と連携し、学生の主体的な学びを後押し~
2017年3月21日
《ラグビーシンポジウム》「ラグビーW杯2019に向けて -歴史的勝利の裏側と新たなステージへ-」4月1日、駿河台キャンパスにて開催
2017年3月17日
—3月25日(土)始発からー京王線明大前駅の列車接近メロディーが明治大学校歌に! ~京王沿線で校歌の導入は初!~
2017年3月15日
-貴重な“発禁本”の書誌目録-『明治大学図書館所蔵 城市郎文庫目録』出版記者会見を実施。3月28日、駿河台キャンパスにて
2017年2月23日
「倉橋由美子文芸賞」「阿久悠作詞賞」の第8回受賞作が決定 2月28日、駿河台キャンパスで表彰式 ~課題曲提供の河口恭吾さんも出席し、大賞曲をお披露目~
2017年3月27日
ZIP!(日本テレビ系列・3月29日放送予定)/「なーるほどマスカレッジ」のコーナーで、宮下芳明教授(総合数理学部)・秋山耀さん(理工学研究科博士前期1年)が開発した、手書き図面で造形できる3Dプリンタが紹介される予定です
2017年3月24日
首都圏ネットワーク(3月23日放送・NHK)/特集「農業に最新技術 “復興の力に”」で、小沢聖特任教授(農場)のコメントが放送されました
2017年3月23日
読売新聞(3月23日朝刊)/山脇啓造ゼミナール(国際日本学部)が作成した、中野区の外国人の家探しを応援するウェブサイト「Living Together in Nakano」が紹介されました
2017年3月23日
毎日新聞(3月23日朝刊)/国際日本学部が2017年度から実施する中野区との連携講座が紹介されました
2017年3月23日
東京新聞(3月22日朝刊)/国際日本学部が2017年度から実施する中野区との連携講座が紹介されました
2017年3月23日
朝日新聞(3月22日朝刊)/国際日本学部が2017年度から実施する中野区との連携講座が紹介されました
2017年3月23日
北海道新聞(3月21日朝刊)/札幌市で行われた講演会「憲法はどこへ−家族を考える」についての記事に、鈴木賢教授(法学部)の講演内容が紹介されました
2017年2月24日
【リバティアカデミー2017年度開講オープン講座】ラグビーW杯2019に向けて—歴史的勝利の裏側と新たなステージへ—
2017年2月22日
2017年度入学式のお知らせ
2017年2月20日
【株式会社明大サポート寄付講座】「長期投資の時代 ~金融制度改革の行方~」
2017年2月20日
【明治大学連合駿台会寄付講座】「世界の目、日本の目」~記者43年、何を見たか~
2017年2月20日
【明治大学校友会寄付講座】「強い自分をつくるマネジメント」~今こそ問われる心の在り方~
2017年2月20日
【和泉キャンパス公開講座】「アメリカらしさ」とは何かについて考える ~銃規制からトランプ氏勝利まで~
2017年2月20日
【生田キャンパス公開講座】自律移動型ロボットとネットワークロボットの現在と未来

Meiji.netとは

新着記事

#1 悪徳商法に泣き寝入りしない!消費者保護の法律を学ぼう!

「東アジア共同体」を構築するために“日本型TPP”を促進すべき

「沖縄振興予算」という呼称が、誤解を招いている

コーポレート・ガバナンスと経営戦略との関係把握を目指して

ダイバーシティの根幹に触れるヒューマンライブラリーの取組み

人気記事ランキング

1

緊急提言、人口減少社会に歯止めをかける ―方策は少子化対策、社会…

加藤 久和

2

「東アジア共同体」を構築するために“日本型TPP”を促進すべき

金 ゼンマ

3

日本のものづくりの強みと弱み

富野 貴弘

4

「教育は唯一奪われないもの」パレスチナ難民の思いに応える

岸 磨貴子

5

「沖縄振興予算」という呼称が、誤解を招いている

池宮城 秀正

Meiji.net注目キーワード

明治大学