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顧客と企業が協働して価値を生み出す ―協働型マーケティングの時代―

  • 明治大学 専門職大学院 グローバル・ビジネス研究科 教授
  • 上原 征彦

“顧客づくり”こそが企業戦略の要

上原征彦教授 私は「マーケティング」と「経営戦略」を主たる研究対象としている。端的に言えば、市場で成功するための経営戦略は何か、ということだ。経営戦略において重要な要素は3つある。「金づくり」(ファイナンス)、「組織づくり」(マネジメント)、そして「顧客づくり」(マーケティング)だ。いずれも不可欠であるが、私は「顧客づくり」が最も重要だと考えている。そもそも、顧客がいなければ企業は存在できない。そして、この「顧客づくり」の中核となるのがマーケティングである。「顧客づくり」とは、言い換えれば需要を創造することだ。ここで肝心なのが、“実需”を生み出すことが、企業の成長を促すということである。たとえば、現在の政府の取り組みを見てみよう。「アベノミクス」の名のもと、資金を市場に流す金融政策があり、公共投資等を促進させる財政政策があるが、これらが“仮需”の創造に終わらないことを祈っている。お金が流れていると、あたかも成長しているように見えるだけだ。では、真の成長を実現する“実需”を生み出すために、何が必要とされるかが問われてくる。それは“顧客と関係をもつ”ことなのである。

商店街活性化にみる“実需”の創造

 “顧客と関係をもつ”、その一つのカタチをある商店街の例で示してみたい。近年、全国の地方都市では中央商店街に空き店舗が増えている。商店街の活性化のためには、この空き店舗に商業施設を誘致するよりも、需要をつくり出すことの方が重要だ。なぜ空き店舗は生まれたのか。それは需要が供給より少ないから、空き店舗が出来たのである。その商店街も空き店舗が増え、対策に頭を悩ませていた。古い考えであれば、集客力の高い新たな店舗を誘致する方向にいくところだが、その商店街は違った。空き店舗のスペースを“街のコンシェルジェ”とし、客と交流をし始めたのだ。つまり、会話を通して客が何を求めているか、ニーズを明確にしていく取り組みである。その結果、子育てや老後の生活などにおいて、多様なニーズがあることがわかった。保育園の送り迎えの際の留守番や買い物代行、電球取り換えなど生活での不具合対応、お年寄りへの朗読、家庭料理を通した交流等々。そしてこれらの“実需”に応えるために顧客の中からもサービス提供者が多数現れて、新しい仕事が生まれ、街の活性化の一助になった。この例でわかるように、“実需”を生み出すために必要なことは、顧客と一緒になって価値を創造することなのである。「協働型マーケティング」と呼ばれるものだ。

企業と顧客の関係性をどう創るか

 「協働型マーケティング」においては、企業のみが価値を創るのでなく、顧客と一緒になってこれを創ることが求められる。問題は、企業と顧客がどのようにして関係性をもつかということだ。先に示した商店街では、“コンシェルジェ”を設けることで、顧客との会話・交流が成立した。では一般企業ではどうするか。ある家具店の例を見てみよう。家具は購入後に、据え付けて消費してこそ価値が生まれる。つまり、“配送”が必要でありそれは商品価値の一つとして価格に反映される。その家具店は、家具をノックダウンにして、これを家で組み立てるようにして、配送は顧客に任せ、販売に特化することで低価格を実現、新しい“機能分担型関係”を創り出した。また、ある建機メーカーは、各種建機の中にセンサーを取り付け、故障が発生するとネットワークを介して情報が伝わる仕組みを提供している。顧客と一緒に状況を把握することが可能になった。“協働”の一つのカタチである。ある楽器メーカーは、それまで電子ピアノは電子楽器のカテゴリーとしていたが、顧客の声を反映させてピアノのカテゴリーとして、顧客が品選びしやすい状況をつくった。大手繊維メーカーが売り出したメガネ拭きは、今、顧客の要望に応えて顔拭きとして販売されている。いずれも売り上げ増につながっているが、それは企業と顧客が関係性を築き、一緒に価値を創った結果なのである。

「集列体」から「共同体」へ

 経済学では需要と供給のバランスで価格が決まるとされている。いわゆる市場メカニズムによって人々が結びついている「集列体」になっている。しかし、マーケティングは、市場メカニズムに依存すると自立性が失われる。そこで別の要因でもって顧客と「共同体」をつくろうとする。マーケティング理論の中に、消費者は購買理由を数少ない要因に帰属させるという「帰属理論」がある。顧客が購買理由を価格に帰属させると企業は脆弱化する。価格競争で疲弊している企業などがその好例だ。価格以外で顧客に好まれるもの、価格以外のものに購買理由を帰属させることが重要なのである。たとえば優れたスーパーマーケットの3割は固定客だといわれているが、この固定客は購買理由を価格に帰属させていない。スーパーマーケットに限らず、企業は顧客を“固定客化”しなければならない。そのために必要なことは、市場メカニズムに依存するのではなく、市場に“関係性”を導入することなのである。売り手と買い手が交流する仕組みの導入ともいえる。そこで生まれるのが「共同体」である。企業が生き延びていくためのマーケティングは、企業と顧客による「共同体」の創造を目指すべきだ。

日本の農業にマーケティングを

上原征彦教授 私が、最近注目している時事問題の一つがTPPだ。特に問題視されているのが農業分野だろう。私の考えでは、関税撤廃による貿易自由化は、世界の大きな流れであり、参加、不参加を議論する時期ではない。時代に適応したものでなければ、自ら打ち壊して改革すべきだと考えている。アメリカの農作物は各州が強力なマーケティングを展開しており、巧みな戦略で世界市場に臨んでいる。アメリカ自体がマーケターといえる。今のままの日本の農業では、アメリカに太刀打ちできないかもしれない。そこで私が言いたいのは、古い制度が外圧で壊されるより自ら壊した方が得策だということである。長年、日本の農業は顧客と結びついていなかったと思う。モノが欲しい人に望み通りの商品が届き、満足を届けるという一連のプロセス、すなわちマーケティングがなかった。今までやってきたことを破壊し、新しいものを創り出す英断が求められている。日本の農業はマーケティングを導入して、海外と競争を展開する中で確実に差別化を生むチャンス、勝機を見つけていくべきだ。
 最後に、私が社会へ提言したいことは、「もっと知的になろう」ということ。これまで日本人の生活は“高収入・高費用”を目指してきた。それは高収入を目指して多忙になる生活の自転車操業であり、その中で知性を培う余裕はない。“低収入・低費用”に転換することで、生活にゆとり、豊かさが生まれ、知性を培う時間もできるし、多くの人々と交流する時間もできる。“低収入・低費用”を実現するには人々が助け合うコミュニティの実現が必要である。それはこれまで話してきたマーケティング理論とも通じるものである。“実需”を生み出すには企業と顧客の協働が必要であり、関係性構築のためには交流が必要不可欠である。その「共同体」を実現する生活のあり方の一つが、“低収入・低費用”の生活スタイルではないかと考えている。

※掲載内容は2013年11月時点の情報です。

※M's Opinionの記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

プロフィール

上原 征彦

明治大学 専門職大学院 グローバル・ビジネス研究科 教授

研究テーマ
マーケティング論、経営戦略論
政府委員
産業構造審議会、流通部会長・サービス部会長など
主な著書・論文
  • 『中間流通のダイナミックス』(創風社・2010年)
  • 『創発するマーケティング』(日経BP企画・2008年)
  • 『手にとるように小売・流通がわかる本』(かんき出版・2008年)
  • 『マーケティング戦略論―実践パラダイムの再構築 』(有斐閣・1999年)など

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