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夫婦別姓、生殖補助医療と人権問題 ―求められる『多様な家族』の幸せを保障する法の整備―

  • 明治大学 法学部 教授
  • 石井 美智子

現行の夫婦別姓、女性への再婚禁止期間を定めた法律は違憲ではないか。この判断が最高裁で示されることになった。これは、人権問題とも密接に関係している。国際社会で人権と多様性の尊重が重大テーマとなっている中で、日本はどのような判断を下すのか。この問題が持つ意味と日本が向かうべき方向を伺った。

夫婦別姓問題の意味

石井美智子教授 ――このほど、夫婦別姓・女性の再婚禁止期間について、最高裁が初の憲法判断をすることが決まりました。率直なご感想をお聞かせください。

「幸福な家庭はみな似通っているが、不幸な家庭は不幸の形も様々である」。これは、ロシアの作家・トルストイの作品「アンナ・カレーニナ」の冒頭の有名なフレーズですが、今は、「幸福な家庭の形も様々」ということができます。家族の形は多様化しており、それを保障するのが法律のはずです。その観点から見ると、同姓でなければ婚姻できないという法律には大きな問題があります。
この夫婦の姓の問題は、戦後間もない頃から議論されてきました。戦後、家制度が廃止され、姓は家の氏から個人の氏に変わったので、夫婦別姓が認められるのは当然とも言えます。1996年に法制審議会が「選択的夫婦別姓制度」の案を出しました。それからおよそ20年経っていて、遅きに失した感はありますが、法改正に向けた一歩となることが期待されます。最高裁は2013年、遺産相続の際の非嫡出子(婚外子)の相続分を嫡出子の半分としていた規定を違憲と判断し、法改正につながりました。近年、家族の問題について最高裁が積極的に判断を下しているので、今回の憲法判断も注目すべきと考えています。

人権を保障する法整備を

 ――夫婦同姓、女性の再婚禁止期間の規定は何が問題なのでしょうか。

夫婦の姓は、法律上は夫の氏、妻の氏どちらでも自由に選択できますが、実態としてはほとんど夫の姓になっています。社会慣習的に女性が姓を変えることがいわば強制されています。これは男女平等の権利を保障した憲法に反すると考えられます。もう一つの「女性は離婚後、6ヶ月間は再婚できない」ことも同様です。これは、子どもの父親を決めるために必要と説明されますが、6ヶ月という期間には根拠はありません。民法には「離婚後300日以内に出生した子は前夫の子」と「婚姻成立後200日経過後に出生した子は現父の子」と父親を推定する規定がありますが、推定の重複の回避のためには再婚禁止期間は100日で足ります。女性だけ6ヶ月間再婚を禁止しているのには、「貞女は二夫にまみえず」といった古い倫理観が垣間見えます。これに関しても1996年に法制審議会が女性の再婚禁止期間を6ヶ月から100日に短縮する改正案を示しました。
「選択的夫婦別姓制度」も「再婚禁止期間100日間」も、保守系議員の反対が強く法改正には至っていません。これらは単に「姓」や「期間」の問題ではなく、人権にかかわってくることです。多様な家族を認めるということは、人権を保障することに直結しており、そのためにも法改正が必要とされています。

変わりゆく家族のあり方

 ――そもそも、家族とは何かということが問われているのではないでしょうか。

家族は、構成するメンバーが支え合い助け合う最小単位のコミュニティです。その家族のあり方が変わってきているのです。
たとえば、渋谷区は同性のカップルを「結婚に相当する関係」と認める証明書を発行することを検討しています。米国連邦最高裁は昨年、同性の婚姻を認めない連邦法を憲法違反との判断を下しました。ヨーロッパの多くの国では同性婚が認められています。日本では、同性の婚姻は認められていませんが、2013年に最高裁は、女性から性別変更した男性が、妻が提供精子によって出産した子の父であると認めました。
家族は、男女が二人の間の子どもを育てる場という画一的なものではなくなってきています。マイノリティーの家族のあり方を許容することは、成熟した社会に必要とされることと思われます。

遅れている日本の生殖補助医療の法整備

 ――家族のあり方の変化は、先生が専門とされている生殖補助医療に関する研究とも関わってくるのでしょうか。

不妊治療の一環としての体外受精や代理出産など、生殖補助医療は急速に進展しています。そこには安全性や倫理性など様々な問題がありますが、日本には、学会のガイドライン等の規制しかなく、生殖補助医療に関する法律が整備されていないことが大きな問題です。
今年、遺伝的に2人の母親をもつ子が生まれることになる新しい生殖補助医療が英国で、世界で初めて認められました。細胞の中でエネルギーを造り出す「ミトコンドリア」の遺伝子は母親からのみ子に受け継がれます。このミトコンドリアの遺伝子に異常があるために「ミトコンドリア病」の子どもが生まれることがあります。承認されたのは、それを防ぐために、ミトコンドリア病の女性の卵子から核を取り出し、健康な女性の卵子の核と交換する技術です。これによって3人の親の遺伝子を受け継ぐ、自然界には存在しない人間が生まれることとなります。この技術を、英国は、2008年の法改正から議論を重ねて今年国会で承認しました。その判断の良否はともかく、生殖に係る技術の進展に対する規制の仕方には見習うべきものがあると思います。
日本は、生殖補助医療の先進国で、精子提供、卵子提供や代理出産も行われており、「父」は誰か「母」は誰かが問題となる事件も起きています。ところが、法整備がされていないことが問題です。ここへきて法案提出の動きもありますが、先行きは不透明と言わざるを得ません。
子どもの福祉のためには、第1の保護者である「親」が誰かということが明確でなければなりません。生殖補助医療の進展が家族のあり方を変えていく中、生まれてくる子どもの人権を守るためにも法整備が求められます。そもそも法律は、上から押し付けられるものではなく、自分たちで作って自分たちを守るためのものです。

多様な家族を保障する社会へ

石井美智子教授 ――今後、多様化する家族という社会の変化に、国民はどう向き合えばいいのでしょうか。

東日本大震災を契機に、最も大切なのは「家族」と考える人が、今まで以上に増えたと言われています。そして一番大切な「家族」には、冒頭述べたように、「様々な形」があります。それぞれが望む形で家族を築き、一人ひとりが幸せに生きることができる社会を創造することが求められています。そのためには、「多様な家族」を、法は保障する必要があります。
加えて重要なのは、国民の意識です。多様な家族の形を受け入れることができるかどうか。それは市民社会の成熟度が問われているといってもいいでしょう。「夫婦同姓」が憲法の保障する男女平等に反するように、あるいは同性婚や生殖補助医療でも見られるように、家族の問題は人権の問題と密接に関わっています。人権意識の高まりが、家族のあり方の多様性を受け入れる寛容な社会を育むといえるでしょう。まずは個々人の生き方や考え方を尊重することが、より良い社会の創造のために必要であると思われます。

 ――本日は、ありがとうございました。

※掲載内容は2015年3月時点の情報です。

※M's Opinionの記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

プロフィール

石井 美智子

明治大学 法学部 教授

研究分野
民法(家族法)、医事法
研究テーマ
生命科学の発達がもたらす家族法上の諸問題の研究
主な著書・論文
  • 「生殖補助医療により生まれた子の親子関係」戸籍時報719号・2014年
  • 「生殖補助医療」(『実務 医事法(第2版)』・民事法研究会・2014年)
  • 「デザイナー・ベビーは許されるのか」(『日本社会と市民法学』・日本評論社・2013年)
  • 『親族・相続法』(弘文堂・2012年)
  • 「新しい親子法」(『人の法と医の倫理』・信山社・2011年)
  • 「生命科学と親子法」(『新家族法実務大系〔2〕――親族〔2〕 親子・後見』・新日本法規出版・2008年)
  • 「出生をめぐる生命倫理」(『生命倫理』・北樹出版・2005年)
  • 『人工生殖の法律学』(有斐閣・1994年)ほか多数

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