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不安? 便利? もう始まっている人工知能が働く社会

  • 明治大学 総合数理学部 准教授
  • 福地 健太郎

最近、人工知能(AI)が脚光を浴びています。囲碁のトッププロを破ったプログラム、ロボットが接客するホテル、現実味を帯びてきた自動運転の車などが話題になっていますが、人工知能の発達に期待感がある反面、人間の職が機械に奪われるのではないかという危惧もあります。しかし、人工知能の利用に関して、もっと留意しなくてはならないことが別にあるといいます。

人間が人工知能に取って代わられる?!

福地 健太郎 人工知能に対する関心が高まっていますが、過剰に期待したり、あるいは心配し過ぎたりするのは、問題の本質から私たちの関心を逸らしてしまいます。例えば囲碁において人間のトッププロがコンピュータに破れたとき、コンピュータの知性が人間を超えることを危惧した反応があちこちで見られました。しかしそもそも、人間は囲碁を本当に得意としていたのでしょうか。もともと人間の頭脳は、計算のような、記号処理をひたすら繰り返す作業には向いていません。ですから計算が速くできたり囲碁が上手に打てたりする人はそう多くなく、それゆえ、そうした人間が本来苦手としていることを克服してきた計算の天才やトップ棋士たちは尊敬を集めてきたわけです。そこに、計算こそを得意とするコンピュータが現われると、計算の領域では人間は瞬く間に王座から陥落しました。囲碁でも同じことが起きようとしていると考えられないでしょうか。

人工知能の“仕事”には人の“割り切り”が必要

 だからといって人間という存在を過少評価するものではありません。人類は、囲碁を打つのに最適な仕組みを創造することにどうやら成功しつつあります。道を走る仕組みとして車を、空を飛ぶ仕組みとして飛行機を、それぞれ生み出したように、私たちはものごとを観察し、仕組みを生み出すことに長けていると考えてもよいのではないでしょうか。

 ただし、そこには注意しておかねばならないことがあります。車は平らな道でなければ満足に走ることはできません。飛行機は整備された飛行場がなければ離着陸することはできません。自然の生き物と比べると、私たちが作り出したものは人工的に整備された環境に強く依存しています。しかし私たちはそれをよしとし、環境を整備し続けることを受け入れています。便利さを享受するための“割り切り”があるのです。

 人工知能についても同じことがあてはまります。2015年には、ロボットが接客をするホテルが話題になりました。受付カウンターにいるロボットは宿泊客と受け答えをし、受付業務をこなしています。では、今後は他のホテルでも受付業務は順次ロボットに置き換えられていくのでしょうか。

 ここで思い出していただきたいのですが、かつては、電車を利用するときは駅の窓口で係員に行き先の駅名を告げ、運賃を聞き、その金額を支払って切符を買っていました。それが段々と自動券売機に置き換わっていき、利用者は自分で行き先までの金額を調べて、お金を券売機に入れて、ボタンを押して切符を買うようになりました。以前であれば、行き先にどうやって電車を乗り継いでいけばよいかは窓口の係員に聞くのがもっとも確実で早かったし、旅先であれば周辺の情報などもついでに聞くことができたものです。しかし、切符を買うだけであればそのような柔軟なサービスは必要ない訳です。事業者側は、自動券売機で提供するサービスは切符の販売のみと割り切って導入し、利用者もそれで十分と割り切り、双方で合意形成が進んでいったことで今の形に落ち着いています。

 ホテルの受付もこれと似た状況にあります。現状、どれほど高度な人工知能を搭載しても、人間の係員と同等の業務をこなせるロボットは配備できません。ですから現場にロボットを導入するのであれば、そのことを了解する割り切りが、宿泊客側にも事業者側にも求められます。この合意形成ができるかどうかで、ロボットへの置き換えが進むかどうかが決まります。

 そういった意味で、人間が担っていた職を人工知能に置き換えられるかどうかは、人工知能の問題である以上に、人間側の問題であるといえます。この合意形成のプロセスをどう設計するかで、これからの私たちの社会において人工知能の恩恵を皆が広く公平に享受できるかどうかが決まります。

インフラ化する人工知能

福地 健太郎 人工知能が十分に高い能力を持つためには、人工知能の仕組みそのものに加えて、それを動かすための膨大なコンピュータパワーと、人工知能を訓練するための膨大な学習用データが不可欠です。幅広くサービスを提供しようとなると、現在、これらを思うように揃えられるのは一部の大企業に限られています。こうした組織に合意形成のプロセスのコントロール権が集中することは、社会に新たな格差をもたらしかねません。

 例えば、人工知能の開発においては、広くデータを集められる事業者が有利となる傾向があり、データの一極集中を招く怖れがあります。そのため、高度な人工知能をサービスに組み込める事業者は限られてしまい、寡占状態を招くことも考えられます。少なくとも公共性の強いサービスに直結するデータについては、社会インフラであるとみなし、誰もが利用できるよう整備する必要があるのではないでしょうか。

 別の危惧は、前述した“割り切り”の合意形成において一方的な押し付けがまかり通ってしまうことです。事業者間の競争が健全に働いていれば、利用者はより割り切りの少ない、自分に都合のよいサービスを選んでいくことができます。しかし前述のような理由で事業者の数が限られてくると、事業者側に都合のよい割り切りを強要されることになるでしょう。

 そうした割り切りの中でも特に注視しなければいけないのが、人工知能の思考プロセスのブラックボックス化です。すでに囲碁プログラムなどでは、どうしてプログラムがうまく着手を選べているのか、人間には判断できなくなりつつあると言われています。人工知能を動かすデータや計算資源が膨大になればなるほど、その挙動を人手で解明するのは困難になっていきます。そのため、ある段階から、なぜうまく動くかはよくわからないが、よい結果が出ているから、便利だからこれを使い続けよう、という判断が働くようになるでしょう。ここまでは人工知能を搭載しない従来の機械やサービスでも同じなのですが、人工知能が昔からあるそれらと異なるのは、序々に成長をする点です。与えられた学習用データを元に構築された人工知能は、使用されるにつれさらにデータを吸収し、成長していきます。しかしその成長の過程で、都合の悪い結果が出ていてもちょっとくらいなら目をつぶろうということは十分に起きえます。あるいは、都合の悪い結果がフィルタリングされ、気がつくことすらないということも起きるかもしれません。これが繰り返されると、人工知能の予測に沿った、都合のよいデータによってさらに学習が進み、過剰適応を起こしてしまいます。人間の認知能力は、内在するバイアスに気づきにくい性質を持っています。ブラックボックス化した人工知能はそのバイアスの強化をもたらします。特定の組織や体制を利するよう、気づかぬうちにコントロールされでもしたら大変です。それを防ぐためにも人工知能の画一化・寡占化の起きぬよう社会制度を整えることが求められます。

人工知能が創造に結びつく社会

 冒頭で議論したように、人間は計算が得意ではないし、曇りのない目でデータを観察し続けるのも苦手とするところです。一方で、仮説を立てて仕組みを創造することについては、それなりの適性を持っているように思えます。人工知能の議論は現在、ややもするといかに人間がそこからサービスを享受するのか、消費の観点から語られがちですが、人間の長所を活かすことを考えれば、いかにそれを創造に活用するかを考える方がずっと魅力的です。創造の道具として人工知能を活用することを考えるのであれば、おのずとそこに多様性が求められます。よりよい創造のためには、道具としての人工知能の性質をより深く知悉することも必要になるでしょう。ちょうど現在、日本国内でも、コンピュータを使いこなすためのプログラミング教育の強化が遅まきながら議論され始めていますが、人工知能についても同様に検討を始めることが求められます。過度なブラックボックス化を防ぎ、権力による人工知能のコントロールに対抗し、創造的に使いこなすことのできる人材を多く育てることで、人工知能の持つ力をより善く社会に行き渡らせることが、人間社会を存続させる上で必要なのではないかと考えます。

※M's Opinionの記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

プロフィール

福地 健太郎

明治大学 総合数理学部 准教授

研究分野
計算機科学 インタラクティブメディア 認知科学
研究テーマ
自己像認知過程の研究・ステージパフォーマンス向けインタフェース
【キーワード】インタフェース, メディア, エンタテインメントコンピューティング
主な著書・論文
  • 『多点入力GUIによる複数オブジェクトの並行操作の評価』(情報処理学会論文誌Vol.49 No.7・2008年)
  • 『レーザポインタの軌跡を追跡する映像パフォーマンス向け遠隔入力システム』(情報処理学会論文誌Vol.49 No.7・2008年)

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