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SIMロック解除を機に考えたいリスク管理

  • 明治大学 法学部 教授
  • 新美 育文

今年(2015年)5月、SIMロック解除の義務化がスタートしました。これで、日本の携帯電話環境も世界基準になると喜ぶ人が多いですが、利便性を享受するだけでなく、携帯電話やインターネットのリスクについても、私たちユーザーはより高い意識をもつ必要があります。

利便性だけに目を奪われることなくリスクを意識することが重要

新美 育文 総務省の指導により、携帯電話のSIMロック解除の義務化が5月からスタートしました。ただし、端末購入後、約半年が経過していること等の条件があるため、この11月頃から、解除を求める人が増えていくことと思われます。ユーザーにとっては、特定の通信事業者に縛られることがなくなり選択肢が増えることによって、事業者間の競争が促され、サービスの向上や料金の低下などにつながることが期待されます。また、ガラパゴス化などと揶揄される日本の携帯電話端末や市場が、世界基準となっていくきっかけになるかもしれません。私も、海外の学会などに行くと、携帯電話端末を貸してくれと知り合いから言われ、貸すと彼は自分のSIMカードを挿して通話するという体験をよくします。日本でもこのようなことが当たり前になるかもしれません。

 反面、日本人はこうした環境に対応できるのだろうか、という危惧があります。ヒト、モノ、サービスなど、あらゆるものが携帯電話やインターネットを通じて結びつく社会が実現しつつある現代社会においては、利便性が高くなると同時に、それにともなうリスクも大きくなります。通信やインターネットシステム、また、これに関わる法制度の整備も不可欠ですが、同時に、そうした便利な通信やインターネットを利用する私たち自身が、それらリスクの予防、回避の方法を十分に理解する必要があります。日本人は利便性に目を奪われがちで、そこに生じるリスクにナイーブ過ぎる面があります。もちろん、ユーザーにとって安全で安心な環境を構築することが重要ですが、現状では、自らを守る意識をしっかりもつことも非常に重要です。

SIMロックフリー先進国の“常識”

 日本では、通話用のSIMカードの購入に際しては本人確認が求められます。振込め詐欺のような犯罪に使われることを抑止するためですが、多くの国ではこのようなルールはなく、SIMカードも一般の商品のように手軽に購入することができます。実際、日本以外の国では、振込め詐欺のような犯罪はあまりありません。それは、一般市民がそのような詐欺に引っかからないからです。アメリカなどでは、電話をかけてきた相手が名乗るまで、自分から名乗ってはいけないと躾けられて育ちます。かけてきた相手が名乗らずに用件を言いはじめると、「ちょっと待て」となり、「あなたは誰なのか」と確認をとり、相手が本当に知り合いとわかるまで会話をしないのが常識です。これは一例ですが、諸外国では、社会には悪意をもってコンタクトする者がいるというリスクがしっかり認識されており、そのためのセキュリティ意識が育まれています。ところが日本は、誰もが同じ言葉を話し、同じ常識をもっているという、島国ならではの環境の中で、他人を信じやすい気質が育まれました。問題は、それが良いとか悪いということではなく、現代は、そんな日本人がインターネットなどによって、異文化に直結している環境にあることを意識するべきだということです。

インターネット社会に対応する制度作りは“協働”から

新美 育文 私の海外の知り合いの中には、インターネットは産業革命以上の大革命だという認識をもっている人がいます。人類が20世紀まで築いてきた制度やルールでは、対処しきれない変革が起きているというわけです。日本にとっては、海外への扉が一気に開いた幕末の開国期に当てはまるかもしれません。しかも、パソコンやスマートフォンを使うことによって、私たち一人ひとりがそれぞれ世界に直結しているのです。従来は、サービスを提供する事業者とユーザーが一種の上下関係にあり、事業者が想定する範囲でユーザーはサービスを享受していましたが、インターネットの環境は従来の構造とは異なる状況を招いています。例えば、ユーザー自身が想定外のリスクに自ら陥ることや、事業者以上に知識と技術をもったユーザーが、悪意のある仕組みを作り、一般ユーザーを陥れることもあります。通信事業者も端末を提供するメーカーも、個々のユーザーの行動を想定も把握もしきれないのです。そのため、安全、安心な新たなシステムの構築や法制度の整備を急がなければいけない状況ですが、そのためのリーダーシップを誰もとれない状況になっているのです。

 つまり、20世紀までの制度に代わるシステムを考えるには、20世紀型のやり方では駄目だということです。“上意下達”式ではなく、まずは、国、通信事業者、メーカー、ユーザーがともに、どうすれば安全で安心な環境を構築できるか、議論し、協働できる新たな環境を構築する仕組みをつくることが急務だといえます。

いまは自らを守ることも必要

 本当に安全で安心な環境をこれから構築していかなければならない現状で、携帯電話のSIMロックが解除されました。これを機に、ユーザーである私たち一人ひとりは、利便性を追求するばかりでなく、そこに潜むリスクをしっかり認識し、自らを守る意識を高めてほしいと思います。世界では、なぜSIMロックフリーも、SIMカードを手軽に購入できることも常識なのか。それは、名乗らない相手とは会話しない、知らないメールは開けない、端末にセキュリティソフトを入れる、それをつねにアップデートする、こうしたリスク対策をユーザーが行うことも常識だからです。こうした常識を学ぶ機会が少ないのも問題ですが、インターネットに潜むリスクについて、調べたり尋ねることができるのも、インターネットの利便性です。こうした利便性を上手に活用してください。いま、SIMロックフリーを喜んでいるユーザーもいれば、SIMカードを悪用しようとする人もいることが現実なのですから。

※M's Opinionの記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

プロフィール

新美 育文

明治大学 法学部 教授

研究テーマ
民事立法学と法整備支援
学位
修士(法学)

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