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8K・スーパーハイビジョン時代がやってくる ―究極には意味がある―

  • 明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 教授
  • 鹿喰 善明

圧縮技術の進展が生んだハイビジョン

鹿喰善明教授 約90年前の1926年、“テレビの父”といわれる高柳健次郎によって、「イ」の字を伝送・表示したことに端を発し、遠くの事象をリアルタイムで放映することの追求が始まった。テレビの歴史の幕開けである。その後、1953年に日本でテレビ放送が始まり、1960年にはカラーテレビの本放送も開始された。早くもその4年後に、NHKはハイビジョンの開発に着手している。私は大学卒業後、NHKに入局、地方局勤務を経て、1986年にNHK技術放送研究所に配属されたが、その時期NHKはハイビジョンの伝送実験を開始、私もその研究開発に携わることとなった。
ハイビジョンは周知のように高精細な画像を実現するもので、2000年のBSデジタル放送、2003年の地上デジタルテレビ放送開始以降、ハイビジョンテレビは広く一般に普及浸透した。かつて、デジタルハイビジョンは21世紀の先になると予測されていた技術だった。アナログに比べてデジタルは情報量が圧倒的に多い上、ハイビジョンは標準テレビの5倍の情報量を持つが、情報の圧縮技術の確立には相当の時間がかかるとみられていた。さらに放送には帯域という絶対的な縛りがあり、既存の帯域内で大容量の情報伝送を実現することの難しさが指摘されていたのである。だが’90年代に入り、ISOにより設置された動画専門家集団であるMPEGが、映像データ圧縮の標準化活動を進めたことで技術が進展、デジタルハイビジョン放送が現実のものとなっていった。

「4K」テレビという存在

 デジタルハイビジョンの開発を後押ししたのは、コンピュータのCPUやメモリーの飛躍的な進化だった。21世紀に入る前後、デジタルハイビジョン放送が始まる時期に呼応するように、NHKはスーパーハイビジョンの研究開発に着手する。いわゆる「8K」である。現在のデジタルハイビジョンは「2K」であるが、この2や8という数字は画素数を示すものだ。デジタルの世界では2の10乗=1024のことを大文字のKで表記する。ハイビジョンは横1920×縦1080ピクセルの画素数で画面が構成されており、水平方向画素数1920がほぼ2000となるため「2K」と言い表している。現在開発が進められているスーパーハイビジョン「8K」は、横7680×縦4320ピクセルであり、7680がほぼ8000であることから「8K」とよばれている。
その間にあるのが、3Dテレビブームの後に登場した「4K」テレビである。現在市販されている「4K」テレビは単にディスプレイが「4K」であるということであり、従来の「2K」ハイビジョン放送の画像解像度を多少向上させるにすぎない。最近になって放送事業者や電機メーカーで構成される次世代放送の推進団体が「4K」の試験放送を開始したことからもわかるように、送受信機器・システムを含めた「4K」テレビが確立されているわけではないのだ。「4K」が持ち出されたのは、2の次は4といったもの作りの手順による部分が少なくなく、NHKは当初から、「8K」に標準を合わせて研究開発を進めてきた。それは「8K」が“究極のテレビ”だからである。

究極のテレビ「8K」の開発

空間解像度の検討 “究極のテレビ”とは、「あたかもそこにいる」圧倒的な臨場感を実現するテレビであり、それは“人の目”を実現することでもある。たとえば従来は、目の前にある花瓶とテレビに映っている花瓶は違うように見えても、脳が補正して同じものと認識していた。しかし「8K」は、限りなく人の目に近づくテレビとなる。テレビの映像フォーマットは視力1.0の人を基準に、画素構造が見えない距離を標準視距離として設計されている。わかりやすくいえば、画面走査線(画素)のドットが見えてしまっては画質がそがれるということである。また、従来のハイビジョンの画角は30度であり眼球運動で情報を注視し、瞬時に特定情報を受容できるように設計されている。「8K」の世界はこれらを一変させる。画角は100度であり映像に周囲を取り囲まれ、空間座標感覚に影響を与えるまで視野範囲は拡大する。視距離は、画面サイズ比でいうと、ハイビジョンの4分の1となるため、画面走査線構造を感じさせない超高精細画像、横7680×縦4320ピクセルが必要とされた。実物に近い色再現が可能となる色域の拡張も行っている。また、大画面・高精細度テレビの課題の一つに、速く動く被写体に見られる“ぼやけ”がある。従来のハイビジョンは1秒あたりのフレーム数が60であったが、「8K」ではこれを120とすることで“ぼやけ”を解消しようとしている。
これらがもたらす圧倒的な臨場感をもって、「8K」は人の目のレベルに達したといえるのである。ちなみに8の次は16と考えがちだが、「8K」は一つの臨界点であって、それ以上のものを作ったとしても「8K」との大きな違いがないことが判明している。私が専門とする映像圧縮の技術は、スーパーハイビジョンという膨大な情報量を持つ信号を伝送するために必須のものである。「8K」スーパーハイビジョンの放送実現に向け、その一号機ともいうべき最新規格の高効率圧縮符号化方式によるエンコーダ(データ圧縮)装置を、このほど世界で初めて開発した。今後、さらなる検討・改善を重ねていきたいと考えている。

「8K」がもたらすインパクト

鹿喰善明教授 「8K」スーパーハイビジョンは、リオデジャネイロ五輪開催の2016年に試験放送を開始、2020年の東京五輪での本放送開始で、一般家庭への普及が計画されている。一部では、「8K」が生み出す超高精細映像やそれに伴う臨場感を、それほど多くの人が求めていないという声も聞こえてくる。現状のハイビジョンで十分という意見だ。しかし、「8K」をひとたび体験するとその意見を一変させる人は多い。「8K」が社会や生活にもたらす恩恵は極めて大きい。通常のテレビ視聴においては、より多くの体験を、より迫力あり、より美しく、より疲れない形で享受することが可能となる。「8K」は家庭用テレビに限定されるものではない。ロンドン五輪では「8K」スーパーハイビジョンによる「パブリックビューイング」が実施されたが、ステージ、スポーツなど様々なイベントでのパブリックビューイングが可能となる。また、最も期待されるものの一つが医療分野への応用だ。解像度の高い映像は、心臓や血管などの微細な手術の現場での適用が期待される。人の目を実現したということは、人の目と同等の情報出入力や処理が実現するということであり、障害を持った人をサポートすることも可能となるだろう。
これらは一例にすぎないが、「8K」は多方面での多様な展開が可能であり、それによって本格的な映像の時代が到来する。ちなみに、「8K」スーパーハイビジョンは世界の中で日本が先頭を走っている分野だ。その実現は、日本のエレクトロニクス産業活性化の起爆剤となる可能性も秘めている。「8K」スーパーハイビジョンの実現は、様々な分野にインパクトをもたらし、人間社会・生活の向上に大きく寄与するだろう。

※掲載内容は2014年7月時点の情報です。

※M's Opinionの記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

プロフィール

鹿喰 善明

明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 教授

研究分野
映像・画像信号処理、画像符号化
研究テーマ
映像コミュニケーションを実現するための画像の分析・生成、効率的な圧縮・伝送、人に優しい再生・提示の研究
学位
博士(工学)
主な著書・論文
  • “High Performance Video Codec for Super Hi-Vision”, Proceedings of the IEEE, vol. 101, No.1, January 2013
  • “Super Hi-Vision at the London 2012 Olympics”, SMPTE Motion Imaging Journal, January/February 2013
  • 「反復補正を用いたイントラ予測法」 電子情報通信学会和文論文誌D Vol.J94-D,No.12,pp.1943-1945, 2011 ほか

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