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仮想通貨「ビットコイン」 ―その課題と可能性―

  • 明治大学 商学部 専任講師
  • 浅井 義裕

2014年2月、インターネット上で流通している仮想通貨である「ビットコイン」を巡って、ビットコインの取引所であるマウントゴックスが、不正侵入によるハッキングで取引停止になった事件は記憶に新しい。ここでは、ビットコインという新しい決済ツールの問題点や可能性について考察してみたい。

ビットコインは通貨なのか 非中央集権的な仮想通貨

浅井義裕教授 そもそもビットコインとは何なのか。そこから話をはじめよう。ビットコインは、サトシ・ナカモトと名乗る人物によって投稿された論文に基づき、2009年から運用が開始されたインターネット上の仮想通貨である。紙幣や硬貨は基本的には発行されない。流通を管理する事業主体や国家、中央銀行のようなものも存在しない。円やドルなどの現実の通貨との交換は、ウェブ上の「取引所」を通して行われる。しかし通常通貨の取引のように金融機関を通さないため、送金や決済についての手数料などはほとんど発生しない。そのため、小口売買や個人取引、特に国境を超えた決済、送金に利用されることが多く、急速に拡大している。通貨の発行は、ネットワーク参加者であるユーザーが、高度な演算問題を解く「採掘」という作業を通して行われる。この採掘、もしくは商品やサービス、他の通貨との交換によってビットコインは入手できる。
ビットコインはインターネット上の「仮想通貨」と定義したが、果たして”通貨”なのかどうか。たとえば、従来からある電子マネー(suicaなど)とは根本的に異なる存在である。電子マネーは、法律の枠組みのもとで企業によって発行されているが、あくまで従来の通貨をベースに、それを電子決済のプラットフォームで通用するようにしたもので、通常の通貨とあまり変わりがない。つまり、電子マネーでは、1円、2円…と数える。通貨は商品交換の際の媒介物であるが、多くの人がそれに価値があると「信用」すれば通貨として成立する。その信用を裏付けるのが、通常は国家である。ビットコインはいわば「民衆の中から生まれたカネ」であるため、国家の裏付けがない。そして、資金決済の法律の対象ともならない。したがって現段階で日本政府は、ビットコインを通貨と認めず、”モノ”として存在は認めるというスタンスをとっている。

  通常の通貨 電子マネー 仮想通貨
形状 紙幣、硬貨 電子的なデータ 電子的なデータ
発行 中央銀行、政府 企業(ただし、円などで表示) 高度な演算問題を解く「採掘」
(それぞれの仮想通貨で単位が異なる)
法律 (日本においては)日本銀行法、通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律など (日本においては)資金決済に関する
法律など
(日本においては)検討中
1万円札、5千円札、500円玉など スイカ、パスモ、ナナコ、エディなど ビットコインなど

セキュリティの脆弱性が露見 マウントゴックス事件

 ビットコインは「取引所」で現実の通貨と交換するが、この取引所の一つが東京に拠点を構える「マウントゴックス」であり、一時は世界最大級の取引量を誇る取引所だった。2014年2月、取引を停止し、東京地裁に民事再生法の適用を申請し受理された。事実上の破産である。債務超過に陥ったのがその原因であるが、大きな注目を集めたのは、顧客が保有する75万ビットコインのほか、購入用の預り金も消失していたという。当時の取引価格で算出すると500億円前後という巨額損失である。なぜ消失したのか。
誰が、どのようにしてということが分かっていれば、事件はすでに解決しているはずなので、詳しいことは分からないことが多いが、電子の鍵の「署名」と、その検証の間に時間がかかるというセキュリティの脆弱性を突かれ、ネット上で盗まれたのではないかと言われている。
国家が介在しない「仮想通貨」を使っての売買は自己責任に基づくべきで、利用者は上述のように低い手数料などの「仮想通貨」の利便性を十分に享受しているはずだが、その存在が大きくなって利用者の被害などが頻繁に起こるようになれば、「自由な取引の利便性」と「政府による規制」のメリット・デメリットを改めて検討する必要が出てくるだろう。

代替通貨として普及する理由と課題

 ビットコインが世界的に拡大しているのは、先に述べたように、国境を超えた決済や送金に、手数料がほとんどかからない仕組みであることが、多くのユーザーに支持されたからだが、そればかりではない。中央銀行が発行する通貨への信用力が低い国などでは、ビットコインのメリットが大きくなる。端的にいえば、貨幣価値が日々下落していくような超インフレ状態の国だ。こうした国では、自国通貨よりもビットコインのほうに信頼性があるため、代替通貨として使用されるだろう。また、2013年、ギリシャの金融危機の影響などで、キプロス共和国が財政難に陥った際にも、ビットコインに注目が集まった。キプロス政府が国民の預金の一部を取り上げようとしたため、国家権力の及ばないビットコインへ資産を移すものもいた。
さらに一部の移民にとってもビットコインは有効かもしれない。たとえば、アメリカ南部にはメキシコからやってきた不法移民が少なくない。アメリカでは、銀行口座を開く際、運転免許証を取得する際、住宅を借りる際など、生活のありとあらゆるときに、ソーシャル・セキュリティ・ナンバー(社会保障番号)の提出が求められるが、不法移民にはそれがないため銀行口座の開設はできず、給与を受け取ることもままならない。ドル通貨に代わってビットコインを持つことが、生活を支えることにつながっていく可能性がある。私見では、ビットコインは中央銀行の独立性が低い途上国や不法移民などの間でメリットが大きいと思われる。実際、いまのところ、日本にいてビットコインの必要性をさほど感じないのは、私だけではないだろう。
しかし、メリットを考えると、慢性的な財政赤字、金融緩和といったインフレの条件が整いつつある日本などの先進国でも、ビットコインの成長の可能性は否定できない。さらに、ビットコインを支える技術は、金融の仕組みを革新するプラットフォームとして発展し、モノの所有や決済のあり方に革命をもたらす基盤となる可能性も秘めている。
ちなみに、ビットコインは、単に決済の手段に留まらない。もともと、2013年10月頃までは、1BTC(ビットコイン)が1万円程度であったのが、2013年12月には1BTCが12万円以上になった。その後も、価格が乱高下を繰り返しているため、投機の対象ともなっている。さらに、資金洗浄や違法薬物売買など、不正な取引の温床になっているという指摘もある。ビットコインは課題も多い。

経済学者・ハイエクとビットコインの親和性

浅井義裕 上述のように、先進国でもビットコインが普及する要因がないわけではない。世界的な金融危機の中、各国の中央銀行は金融緩和を推し進め、インフレーションを許容している。また、日本は政府が巨額の債務を抱えており、インフレーションが進む要因は整っているとも言える。つまり、価値が下がっていく通貨を使用しなくてはならないという点では、先進国も発展途上国も大きな違いはないかもしれない。
こうした状況の中で、思い出されるのはオーストリア生まれで、ノーベル経済学賞受賞者のフリードリッヒ・ハイエクである。ハイエクは、中央銀行を廃止し、通貨の自由市場を許可し、多様な通貨が発行され通貨発行主体同士が競い合えば、最も健全で安定した通貨が発展すると考えた。ビットコインは、ハイエクの考えに直結するものではないかもしれないが、現在の通貨体制の中で、「通貨」とは異なる選択肢を提供する存在であるビットコインは、ハイエクの目には、どう映るだろうか。
私の本来の専門は、貨幣論ではなく、保険リスクマネジメントであり、企業ファイナンスの中における保険の役割を研究対象としている。現在、企業が決済や送金等にビットコインを活用する例は少ないが、将来的にリスクマネジメントの観点から普及することも考えられる。たとえば、リターンを得るためにポートフォリオの中にビットコインを組み込む可能性もあるだろう。今後ビットコインが拡大していくのであれば、ハイエクの言うような「健全で安定した通貨」に進化していくことに期待したい。

※掲載内容は2014年6月時点の情報です。

※M's Opinionの記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

プロフィール

浅井 義裕

明治大学 商学部 専任講師

研究分野
保険、金融
専門は、保険リスクマネジメント論
学位
博士(経済学)
1977年 名古屋市生まれ。
2000年 名古屋大学経済学部経済学科卒業。
2002年 名古屋大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。
2005年 ニューヨーク州立大学バッファロー校博士前期課程修了。
2006年 名古屋大学大学院経済学研究科博士課程修了(経済学博士)。
2006年 城西大学助手、2010年 同助教。
2012年より現職。
主な著書・論文
  • 「はじめて学ぶ保険のしくみ」(共著、中央経済社、2009年)
  • Asai, Yoshihiro and Okura Mahito (2011) “How Do Cost and Regulation Change Loss Control Activities and Insurers’ Monitoring?” Journal of Insurance Issues 34(2), pp.172-188.など。
所属学会
  • 日本金融学会、Asia-Pacific Risk and Insurance Associationなど。

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