明治大学の教授陣が社会のあらゆるテーマと向き合う、大学独自の情報発信サイト

Meiji.net 探していた、答えがある。

CGを活用して“創る楽しさ”を広げる

  • 明治大学 総合数理学部 専任講師
  • 五十嵐 悠紀

コンピュータグラフィックス(CG)は、映画やゲームなどエンターテインメントの世界においていまや欠くことのできない技術です。また、アートや建築、医学など様々な分野でも活用が進んでいます。さらに、プロのクリエイターや技術者ばかりでなく、一般の人もCGを応用して、オリジナルの様々なモノ作りが行えるソフトの研究が進められています。

CGをモノ作りの支援に活用する

五十嵐 悠紀 コンピュータグラフィックスには、シーグラフ(SIGGRAPH/Special Interest Group on Computer GRAPHics)という世界最大の学界があります。そこで発表される技術は、以前はコンピュータの中で描かれる図形や形状データであったり、描画がいかに写真と見まがうほどリアルできれいか、というものが多かったのですが、ここ10年くらいで、ファブリケーション(製造、組立て)をキーワードとするトピックが急速に増えてきました。コンピュータの画面の中で見るだけではなく、手にとって触れることができるモノ作りを初心者が行うときに、支援する技術をCGを研究する立場で考案しようという動きです。私も2007年に、立体形状であるぬいぐるみをオリジナルデザインで作ることを支援するシステム「Plushie(プラッシー)」を発表しました。

「PCの作業画面」
「PCの作業画面」
 このソフトは、画面が2つに分かれており、一方にぬいぐるみの3次元CGが、もう一方に2次元の型紙が表示されます。ぬいぐるみの型紙は、通常専門家の手作業によって作られています。職人さんが積み重ねた経験をもとに、試行錯誤を繰り返し作られているため、知識のない初心者がデザインするということは非常に困難です。そこで私は、ユーザーがお絵かきソフトのように作りたいぬいぐるみの外形を線で描くと、入力した線をもとにコンピュータが自動的に型紙を生成し、できあがりのぬいぐるみ形状をシミュレーション結果として提示するシステムを提案しました。例えば、長方形の型紙を使って、2枚布を裁断し、縫い合わせて綿を入れたとしましょう。できあがりの形状は長方形ではなく一回り小さくへこんだ、ちょうど枕のような形になります。そこで、このような長方形の外形が入力としてきたときには、できあがりの形状が長方形になるような型紙を得る。これが私のシステムで行っていることです。しかし、このような内部計算はユーザーに見せることは一切せず、ユーザーから見ると、2次元の外形を描きながら、立体のぬいぐるみのできあがりを確認でき、それを作るための型紙も自動的に作られる、というわけです。

実際のユーザーの姿を見られるワークショップは重要な情報源

私は、このソフトを使って小学生を対象に親子で参加するワークショップを行っています。最初にソフトの使い方を30分くらいで説明します。子どもたちはその後、ぬいぐるみのデザインを始めます。外形を描いたり、物体を横切る線を描くことでその物体をカットしたり。突起をつけたり、パーツを摘まんで引っ張ったり・・・。3次元モデルをデザインしていくと、それに応じて型紙が自動生成され、できあがりのシミュレーションも変化します。子どもたちはお絵かきソフトで遊ぶ感覚で、30分ほどでデザインを完成させていきます。その後、できあがったデザインの型紙をプリンタで出力し、あとは親子で協力して縫い上げてもらいます。スタートから4時間ほどで、自分だけのオリジナルなぬいぐるみが完成します。

こうしたワークショップを開催し、実際に子どもたちがソフトを使っている姿を観察することは、私の研究においてとても重要です。子どもたちが本当に楽しんでいるのか、創造性を支援できているのか、また、逆に何に困っているのか、その場で観察することは、研究室で考えている以上に大きな情報になります。例えば、初めてのワークショップの際に「さぁ、デザインをしてみましょう」と言っても、手の動かない子が少なくありませんでした。どんなデザインのぬいぐるみにするか考え中なのか、それとも作りたいものは浮かんでいるがどのようにデザインしたら良いかわからないのか、はたまた単純にシステムの使い方がわからないのか…。見ている私たちスタッフには、わかりませんでした。そこで、紙と鉛筆を配布したところ、紙にならデザインを描ける子もいたことで、子どもたち一人ひとりで異なる戸惑いや、やりたいデザインに応じたアドバイスが必要であることがわかりました。また、自分だけのオリジナルデザインを考えることで創造性を育てたい、というのが目的だったのですが、一からデザインをするということはそもそも難しいということもわかってきました。このような経験は、その後ネックレスのデザインソフトを開発する際、ストックされた第三者のデザインを組み合わせながらオリジナルデザインを作る、対話型進化計算を取り入れたシステム開発にもつながっていきました。

子どもたちの創造力を育むきっかけに

五十嵐 悠紀 私の研究の目標のひとつは、CGを活用して子どもたちや初心者のモノ作りを支援し、創造性を育むことです。ぬいぐるみのほかにも、ステンシルデザインやビーズデザインなど、手芸をテーマとした技術を考案し、ソフトを開発しています。

ステンシルとは、図形や文字が切り抜かれたプレートの上からインクをのせていくことで描くデザインですが、このプレートは1枚につながっているという制約が必要で、複雑な図形をデザインするのはとても難しくなります。そこで、ユーザーはそのような制約は気にせず、普通に絵を描いていけば、コンピュータが自動的に1枚につながるような型を作り出すソフトを開発しました。

ビーズデザインは、1本のワイヤーにビーズを通し、動物などの立体作品を作るアートです。これをデザインするのは本当に大変で、専門家は手作業でビーズを作ってはほどきの試行錯誤を繰り返し、それを書き留めていくことで、設計図をデザインしていきます。私は、初心者でもオリジナルなビーズをデザインできるようなシステム「Beady(ビーディー)」を開発しました。このシステムは「ここの面がちょっと飛び出てほしい」「この頂点がこっちの頂点とくっついてほしい」などと、ジェスチャーインタフェースを用いてマウスで線を描いていくだけで、“辺の長さがすべて一定の多面体”をデザインしていきます。このデザインされた多面体の辺が、ビーズに対応したビーズモデルもあわせてユーザーには提示されていて、制作も3次元CGを用いて支援していきます。1本のワイヤーで作る、というところは一筆書き理論でもあるオイラーグラフを用いて解いていたりと、内部ではCGや数学的な理論を使っています。こうしたツールを使って、自分でモノを創り出す楽しさを多くの人に体験してもらいたいと思っています。

創造性を養うということは、デジタルデバイスを使わなくても、例えば、牛乳パックを使った工作でも、もちろんできるでしょう。かつての子どもたちはそういった工作をはじめとして、身近なものを作ったり組み合わせたりすることで創造性を養っていたと思います。一方で、コンピュータの浸透とともに、これまでにできなかった分野の体験もすることができるようになってきました。SNSの普及や、ウェアラブルコンピュータの普及などからも、リアルとバーチャルの切れ目がなくなってきている時代です。コンピュータでデザインをして制作はリアルな世界で行う。そんな創造性の育み方も面白いのではないかと思っています。

このようなシステムを作るときには、何を支援して、何を支援しないシステムにするべきか、常に気をつけて研究、開発しています。コンピュータの支援が先回りしすぎると、子どもたちはそれに頼りきってしまい、本当に深く考えなくてはいけないところを考えられなくなってしまいます。それでは本末転倒です。最近では、小学校でも受け身の授業ではなく、発言を促し、個人の考えを伸ばすような授業が増えてきました。創造力を育み豊かにすることは、こうした授業の意図と同じで、一人ひとりが自ら考え、行動できる力を養うことにつながっていくものと考えています。

ここで紹介したソフトは、五十嵐先生のホームページにアップされています。
http://www.geocities.jp/igarashi_lab/index-j.html

>>英語版はこちら(English)

※M's Opinionの記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

プロフィール

五十嵐 悠紀

明治大学 総合数理学部 専任講師

研究テーマ
インタラクティブコンピュータグラフィックス、ファブリケーション、ユーザインタフェースに関する研究
主な著書・論文
  • 『Computer Graphics Gems JP 2015 -コンピュータグラフィックス技術の最前線- 』(共著・2015年)
  • 『カード織りのためのテキスタイルデザインおよび制作支援』 (共著・2014年)
  • 『創造的家庭科学習教材を目指した初心者向け立体手芸設計支援システム』 (共著・2012年)
  • 『Beady: Interactive Beadwork Design and Construction.』 (共著・2012年)
  • 『Plushie: An Interactive Design System for Plush Toys.』 (共著・2007年)

情報通信の関連記事

移民の急激な受入れ、反民主主義体制のままではEUは瓦解の危機に直面する

2016.12.21

移民の急激な受入れ、反民主主義体制のままではEUは瓦解の危機に直面する

  • 明治大学 経営学部 教授  前学部長
  • 安部 悦生
不安? 便利? もう始まっている人工知能が働く社会

2016.6.21

不安? 便利? もう始まっている人工知能が働く社会

  • 明治大学 総合数理学部 准教授
  • 福地 健太郎
人工知能がマーケティングを進化させる

2016.6.2

人工知能がマーケティングを進化させる

  • 明治大学 理工学部 教授
  • 高木 友博
SIMロック解除を機に考えたいリスク管理

2015.12.18

SIMロック解除を機に考えたいリスク管理

  • 明治大学 法学部 教授
  • 新美 育文
8K・スーパーハイビジョン時代がやってくる ―究極には意味がある―

2014.7.1

8K・スーパーハイビジョン時代がやってくる ―究極には意味がある―

  • 明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 教授
  • 鹿喰 善明

明治大学からのお知らせ

  • ニュース
  • プレスリリース
  • メディア掲載
  • イベント

お知らせ一覧

2017年3月26日
2016年度明治大学卒業式を挙行しました
2017年3月24日
駐日米国臨時代理大使が明治大学に来校 —学生によるキャンパスツアーも実施
2017年3月24日
【理工学部】電気電子生命学科井家上哲史教授がフェローの称号を授与されました
2017年3月21日
JMOOC講座「安全の共通理念を学ぶ 安全学入門」(無料)の受講を受付け中
2017年3月17日
京王線明大前駅の列車接近メロディーが明治大学校歌に —3月25日(土)始発から—
2017年3月17日
校友会熊本県支部と明大マンドリン倶楽部が熊本地震被災地で復興支援の特別演奏会を開催
2017年3月17日
KAKEHASHI Projectで学生23名がアメリカに派遣されました
2017年3月24日
国際武器移転史研究所研究叢書2 榎本珠良編『国際政治史における軍縮と軍備管理』2017年3月刊行
2017年3月23日
明治大学出版会 『知の橋懸(がか)り-能と教育をめぐって』 『アメリカ分裂-数字から読みとく大統領選挙』 『阿久悠 詞と人生』を刊行
2017年3月21日
国際日本学部 新講義科目がスタート、 2017年度より社会連携科目を開講 ~中野区、企業等と連携し、学生の主体的な学びを後押し~
2017年3月21日
《ラグビーシンポジウム》「ラグビーW杯2019に向けて -歴史的勝利の裏側と新たなステージへ-」4月1日、駿河台キャンパスにて開催
2017年3月17日
—3月25日(土)始発からー京王線明大前駅の列車接近メロディーが明治大学校歌に! ~京王沿線で校歌の導入は初!~
2017年3月15日
-貴重な“発禁本”の書誌目録-『明治大学図書館所蔵 城市郎文庫目録』出版記者会見を実施。3月28日、駿河台キャンパスにて
2017年2月23日
「倉橋由美子文芸賞」「阿久悠作詞賞」の第8回受賞作が決定 2月28日、駿河台キャンパスで表彰式 ~課題曲提供の河口恭吾さんも出席し、大賞曲をお披露目~
2017年3月27日
ZIP!(日本テレビ系列・3月29日放送予定)/「なーるほどマスカレッジ」のコーナーで、宮下芳明教授(総合数理学部)・秋山耀さん(理工学研究科博士前期1年)が開発した、手書き図面で造形できる3Dプリンタが紹介される予定です
2017年3月24日
首都圏ネットワーク(3月23日放送・NHK)/特集「農業に最新技術 “復興の力に”」で、小沢聖特任教授(農場)のコメントが放送されました
2017年3月23日
読売新聞(3月23日朝刊)/山脇啓造ゼミナール(国際日本学部)が作成した、中野区の外国人の家探しを応援するウェブサイト「Living Together in Nakano」が紹介されました
2017年3月23日
毎日新聞(3月23日朝刊)/国際日本学部が2017年度から実施する中野区との連携講座が紹介されました
2017年3月23日
東京新聞(3月22日朝刊)/国際日本学部が2017年度から実施する中野区との連携講座が紹介されました
2017年3月23日
朝日新聞(3月22日朝刊)/国際日本学部が2017年度から実施する中野区との連携講座が紹介されました
2017年3月23日
北海道新聞(3月21日朝刊)/札幌市で行われた講演会「憲法はどこへ−家族を考える」についての記事に、鈴木賢教授(法学部)の講演内容が紹介されました
2017年2月24日
【リバティアカデミー2017年度開講オープン講座】ラグビーW杯2019に向けて—歴史的勝利の裏側と新たなステージへ—
2017年2月22日
2017年度入学式のお知らせ
2017年2月20日
【株式会社明大サポート寄付講座】「長期投資の時代 ~金融制度改革の行方~」
2017年2月20日
【明治大学連合駿台会寄付講座】「世界の目、日本の目」~記者43年、何を見たか~
2017年2月20日
【明治大学校友会寄付講座】「強い自分をつくるマネジメント」~今こそ問われる心の在り方~
2017年2月20日
【和泉キャンパス公開講座】「アメリカらしさ」とは何かについて考える ~銃規制からトランプ氏勝利まで~
2017年2月20日
【生田キャンパス公開講座】自律移動型ロボットとネットワークロボットの現在と未来

Meiji.netとは

新着記事

#1 悪徳商法に泣き寝入りしない!消費者保護の法律を学ぼう!

「東アジア共同体」を構築するために“日本型TPP”を促進すべき

「沖縄振興予算」という呼称が、誤解を招いている

コーポレート・ガバナンスと経営戦略との関係把握を目指して

ダイバーシティの根幹に触れるヒューマンライブラリーの取組み

人気記事ランキング

1

緊急提言、人口減少社会に歯止めをかける ―方策は少子化対策、社会…

加藤 久和

2

「東アジア共同体」を構築するために“日本型TPP”を促進すべき

金 ゼンマ

3

日本のものづくりの強みと弱み

富野 貴弘

4

「教育は唯一奪われないもの」パレスチナ難民の思いに応える

岸 磨貴子

5

「沖縄振興予算」という呼称が、誤解を招いている

池宮城 秀正

Meiji.net注目キーワード

明治大学