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原発訴訟の“ウラ側”から見えてくるもの
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今年(2016年)に入り、2つの原発差し止め訴訟で異なる裁判が出されました。ひとつは、3月に大津地裁で出された高浜原発3、4号機の運転差し止めの仮処分。もうひとつが、4月に福岡高裁宮崎支部で出された川内原発1、2号機の運転差し止め仮処分却下の決定です。両裁判所の決定の内容をみると、原発の新規制基準に対して真逆の判断をしていることがわかります。なぜ、このようなことが起こるのでしょう。

福島原発事故以前の判断枠組みをそのまま踏襲している裁判所

瀬木 比呂志 大津地裁の高浜原発差し止め仮処分では、基準地震動の策定方法に関する問題点や、地震に対する電源確保方法の脆弱性を指摘しています。新規制基準に適合していればそれでOKといった安易な考え方ではありません。それに対して川内原発の差し止め仮処分却下決定では、裁判所は原発の新規制基準への適合性を審査すれば良しという判断です。こうした判断は、2015年12月の大飯原発差し止め仮処分却下決定でもなされており、2011年の福島原発事故以前の最高裁判例の判断枠組みをそのまま踏襲しているといえます。私たち国民は、福島原発事故までは原発の安全神話を鵜呑みにさせられてきました。しかし、その安全神話が崩れたいま、国民の多くは、裁判所が客観的な第三者として原発の安全性を厳密に審査し、社会における危険制御機能を果たしてくれるものと期待しているはずです。そうした観点からすると、福島原発事故以前の判断枠組みをそのまま踏襲しているような裁判のあり方には、大きな疑問を感じます。

 逆に、高浜原発差し止め仮処分の決定を下した大津地裁は、福島原発事故の原因究明は「いまなお道半ば」と言及し、そういった状況で新規制基準を定めた国の原子力規制委員会の姿勢に「非常に不安を覚える」とし、基準地震動策定に関する問題点や、地震に対する電源確保方法の脆弱性を指摘するのみならず、使用済み燃料プールの冷却設備の危険性についても基本設計の範囲に含まれるとして、審査を行っています。福島原発事故後の司法判断のあり方として適切であるといえるでしょう。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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