2024.03.21
軽減税率の思わぬ“余得”とは
沼田 博幸 明治大学 名誉教授(元専門職大学院 会計専門職研究科教授)消費税は2017年の4月から税率10%に引き上げられる予定ですが、それにともなって軽減税率が導入される予定です。対象となるのは生鮮食品と加工食品で、税率は8%のまま据え置くといわれています。一般消費者としては2%分出費が減るのでうれしいことですが、軽減税率には実はもっと大きなメリットがあるといいます。
軽減税率に喜んでばかりはいられない
消費税に軽減税率を導入することにより、いままで単一税率だった日本も複数税率になります。新聞やテレビでは、世界各国の食料品の軽減税率や、なにを軽減税率の対象としているかが国によって異なることなどを盛んに報道していて、あたかも日本も世界のスタンダードに乗ったかのような印象を与えていますが、実は、現在では、複数税率にしない方が良いというのが世界の共通認識で、税率を一本化しようというのが潮流になっています。いままで単一税率だったのに複数税率にするのは、おそらく日本が世界で初めてです。単一税率の方が良い理由のひとつは、食料品とは何かを明確に定義するのはきわめて難しいからです。日本でも、一度線引きをしても、商品ごとに判断しなくてはならないなど、様々な実務的問題が起こるのは不可避です。
軽減税率には、さらに大きな問題があります。税収の大幅な減少をもたらすことです。対策として、標準税率をさらに上げることが検討されるでしょう。欧州には、標準税率が27%という国もあります。日本の消費税率が今後どうなるのかもわかりません。
では、軽減税率を導入するメリットはなにかといえば、消費税に対する逆進性のイメージが多少なりとも改善されることです。高所得者に比べ、低所得者は食料品が支出に占める割合が大きいので、軽減税率の恩恵が高いことは間違いありません。また、所得に関係なく、誰でも税は軽い方がうれしいのですから、食料品が軽減税率になることを歓迎する人は多いかもしれません。
しかし軽減税率の導入は、もっと大きなメリットを生むきっかけとなりました。それは、インボイス方式という税算出方法の導入です。