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消費税が抱える問題 ―求められる公正な仕組みの実現―

  • 明治大学 専門職大学院会計専門職研究科 教授
  • 沼田 博幸

150ヶ国で導入されている付加価値税

沼田博幸教授 今年4月、消費税は17年ぶりに引き上げられ8%となった。来年秋には10%への増税も予定されている。税率のみが注目されがちな消費税だが、導入されて25年経つわが国の消費税は、その仕組みに多くの問題を抱えている。私は大学の職に就くまでは、長年にわたって国税庁に勤務し、大型間接税導入に向けた税制改革をはじめ、わが国の税制に深く関わってきた。それら経験も踏まえ、わが国の消費税が抱える問題を指摘したいと思う。まず、そもそも消費税とは何なのか、その定義を明確にしておきたい。
 消費税とは間接税の一種である。所得税、法人税、相続税など納税者と担税者(税を負担する人)が同一である直接税に対し、酒税、たばこ税、消費税などの間接税は、納税者と担税者が別人である。この間接税のうち、酒税やたばこ税などは個別税であり、非課税以外のすべての物品・サービスを対象とする一般税が消費税である。
 最終的に消費者が負担する税であり、課税ベースが広く、また、税の累積を排除するために、仕入段階に係る税を控除できるという特質を持つ。公平性や中立性、税収の安定性などのメリットを持つことから、政府の税収を支える基幹的な税目として、150を超える国で導入されている。日本以外の国では、付加価値税(VAT)や物品サービス税(GST)と称することが多く、消費税という呼称は日本のみだ。わが国の消費税は付加価値税の一方式であるが、EUで採用されている付加価値税とは異なる点もある。EU型の付加価値税を検証することで、わが国の消費税の問題を考察してみたい。

インボイス方式と帳簿方式の相違点

三面等価の原則 1950年代、フランスは付加価値税の仕組みを考案し世界に先駆けて導入、その後、1960年代後半から70年代前半にかけて、西欧諸国で相次いで取り入れられた。導入の背景は、EEC(欧州経済共同体・現EU)の域内経済統合、共同市場の創設に向けて間接税の国境調整を巡る紛争解決が不可欠であったからである。欧州が単一市場として機能するため、そして国内および域内での公正な競争を実現するため、付加価値税は最適な仕組みとみなされたのである。
 付加価値税の基本的な仕組みの一つは、税の累積(カスケード)を防ぐために売上にかかる税額から仕入に係る税額を控除することである。この税額控除を制度面で担保する方式には、EU加盟国およびOECD(経済開発協力機構)加盟国(日本、アメリカを除く)で採用されている「前段階税額控除方式(インボイス方式)」と、OECD諸国の中では日本のみが採用している「仕入税額控除方式(帳簿方式)」がある。
日本の消費税の特長 「インボイス方式」とは、事業者が納税すべき税額を、個々の取引に係るインボイス(税額が明記された取引伝表)に基づいて算出するものである。具体的には、売上に係るインボイスに記載された税額の合計額から仕入に係るインボイスに記載された税額の合計額を差し引いたものが納付税額となる。インボイス方式は透明性が高まり不正を引き起こしにくいとされる。
 日本が採用している「帳簿方式」は、事業者が納付すべき税額を帳簿に基づいて算出するものである。帳簿に記載されている売上高に税率を乗じた金額から、同じく帳簿に記載されている仕入高に税率を乗じた金額を差し引いたものが納付税額となる。この帳簿方式は、消費者が負担した消費税相当額の一部が事業者の手元に残る、いわゆる“益税”を発生させる一つの要因となっているという問題がある。つまり、少なくない税の徴収漏れが発生しているということであり、透明性を損なう仕組みと言わざるを得ない。事業者が納税したかどうかを確認できることが必要であり、そのためにはインボイス方式の導入は不可欠のことと思われる。

電子取引、軽減税率 非課税の問題

 クロスボーダーの電子取引に対する課税のあり方を考えていく上でも、インボイス方式の導入は必要である。たとえば、クロスボーダーの電子取引の例として、外国の事業者から日本の消費者へのインターネットを通じた電子書籍の供給があげられる。外国の事業者がわが国に何らの施設を有していない場合、電子取引の把握、つまり課税は困難だ。他方、消費者に納税を求めることは現状では極めて難しい。今後、国際協力のもとクロスボーダーの電子取引に対する課税の仕組みを形成していかねばならない。その際、各国とも付加価値税の仕組みが同一であることが好ましいのは言うまでもないだろう。その意味からも、EU型のインボイス方式導入が求められるのである。
消費税増税に伴い、逆進性(低所得者ほど税負担の割合が高くなること)を緩和するため、食料品などの生活必需品への「軽減税率」適用について議論が進められているが、その導入は懸念すべき点が少なくない。税率や適用範囲の決定が複雑で恣意的になり、また税会計も煩雑になる。何よりも、軽減税率の導入により巨額の税収が失われ、別途増税が必要になることも考えられる。消費税の経済に対する中立性を保つためにも、単一税率であるべきだ。逆進性への対応は、別途施策が可能であろう。
付加価値税(消費税)はすべての物品・サービスに課税されることが原則であるが、そもそも消費課税になじまないもの(土地の譲渡・賃貸や金融取引)や政策的配慮を要するもの(医療や教育など)は「非課税」とされている。しかし私は、非課税というものはあってはならないものと考えている。非課税の売上を行った場合には、そのために仕入れた物品やサービスに含まれる消費税の税額控除は認められず、したがって非課税の物品やサービスを仕入れた者が課税事業者の場合には、重複課税が発生する。非課税売上を主とする事業者が、仕入税額控除を受けられないということは、必然的に経済取引に不公平、不都合を生み出すことになる。付加価値税が内蔵する優れた仕組みを破壊しかねないのが、「非課税」の構造なのだ。

より透明で合理的な税制であるために

沼田博幸教授 ここまでわが国の消費税が抱えるいくつかの問題点を指摘したが、税制の仕組みに欠陥があると、経済への歪みや課税上の不公正を発生させ、ひいては、国民の不平不満を増大させることになりかねない。消費税を含む付加価値税は、20世紀の後半において最も成功した課税システムといえるが、完成形に辿り着いているわけではない。EUをはじめ世界各国で、より優れた税制実現に向けた検討が重ねられている。わが国の消費税も発展途上という認識に立ち、より中立的で効率的、効果的な間接税へと進化すべく、公正な仕組みを実現することが必要である。
 わが国の最大の課題の一つは、巨額の財政赤字と累積債務だ。この問題が解決されないと、わが国の将来は相当暗いものになる。消費税はこの問題を解決するための救世主と考えられているが、8%や10%の水準では救世主とはなりえないことも広く知られていることだろう。来年以降、消費税増税は段階的に行わざるを得ない時代に突入していくと思われる。そうした状況の中、より透明で合理的な仕組みとなるような改革が必要であり、そのためには国民一人ひとりが消費税の論理や仕組みに問題意識を持つことが求められている。

※掲載内容は2014年3月時点の情報です。

※M's Opinionの記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

プロフィール

沼田 博幸

明治大学 専門職大学院会計専門職研究科 教授

研究分野
間接税の論理、消費に対する一般間接税の比較研究、EUの付加価値税と日本の消費税の仕組みの比較など
主な著書・論文
  • 共著『ベーシック租税法』(同文館出版、2015年。「第2章 租税法の原理」と「第6章 消費税」を担当)
  • 共著『ベーシック国際租税法』(同文館出版、2015年。「第4章 国際的二重課税の排除」と「第9章 消費税と国際課税」を担当)
  • 「一般間接税100年の回顧と展望 - クロスボーダー取引への対応を中心として -」(租税研究782号 2014年)
  • 「公共部門に対する消費課税のあり方について - 消費税法60条4項の見直しを中心として -」(会計論叢10号 2015年)
  • 「消費課税の仕向地主義への移行」(税務弘報 2015年5月号)
  • 「複数税率化とインボイス制度」(JTRI税研154号2010)

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