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地方企業は、自己認識・革新力を磨くことで躍進する

  • 明治大学 政治経済学部 教授
  • 森下 正

日本の製造業が空洞化する流れは、地方に大きな打撃を与え、地方の企業は生き残るために様々な活動を行っています。その取組みや、そこから生まれる製品には、地域を活性化させるだけでなく、少子化で労働力人口の減る日本の近未来社会を支えるヒントが含まれています。

グローバルな自由競争にさらされ続けてきた製造業

森下 正 ここ10年で、盛んに地方の活性化や地方創生がいわれるようになり、地域や、地方の中小企業を支援する様々な政策も打ち出されています。その背景には、日本国内の主力産業が空洞化する流れが続いていることがあります。例えば、繊維産業などは、国内生産からの撤退が相次ぎ、バブル期の1990年代初期を最盛期として、現在の生産規模は1/10~1/20程度に縮小しています。いわゆる企業城下町ほど、空洞化の流れは早く、大きな影響が出ています。また、昔ながらの地場産業でも、空洞化の流れは顕著です。例えば、日本の伝統的な道具である「水引」は、生産地として長野県の飯田市が有名ですが、1960年代からすでに中国生産のものが出回るようになっています。いま、私たちが買い求める日用品、それが日本の昔ながらの道具などであっても、その多くは中国や東南アジア諸国で大量生産されているものです。近年、TPPや自由貿易の動きの中で、農業関連に関する支援や保護政策が盛んにいわれていますが、もの作りの業界では、以前からグローバルな自由競争にさらされ続けてきているのです。その流れが、国内産業の空洞化、地方経済への打撃につながっています。もっと早く支援政策が出ていれば、という声は地方では多く聞かれます。だからといって、地方の企業は手をこまねいていたわけではありません。新しい販路開拓や、自社製品のブランド化を推し進めることで自社事業を進化させ、新たな価値を創造し、生き残りを図っています。

創業当時の精神を伝統として引き継ぐ

 ブランドには2つの側面があると思います。ひとつは、製品自体がもっている品質の良さや機能性です。もうひとつは、企業や組織としてのブランドです。この仕事はこの会社でなければダメだという、信用とか信頼が企業ブランドにつながります。地方で頑張っている企業をみると、このどちらかひとつではなく、2つのブランド力をともに高めているのがわかります。新潟県三条市に、私がよく知る工具製造の会社があります。もともと三条市は、江戸時代から鍛冶を地場産業とする地域でしたが、この会社は他社に先駆けて製品のデザインの重要性に着目し、1960年から有名デザイナーを社内に招き、デザインのノウハウを学び、新しい発想と美しいフォルムの製品を追求してきました。それとともに、早くからアメリカで販路開拓を行い、DIY商品を取扱うホームセンター等に製品を拡げていくことに成功します。品質の高さがユーザーに認められ、いまでは、販路は世界20ヵ国以上に拡がり、海外では有名なブランドに成長しています。この会社の魅力は製品だけでなく、会社そのものにもあります。例えば、従業員が仕事を終えて帰るとき、「おつかれさまでした」とは言いません。「おやすみなさい」と言って帰ります。これは、創業当初、仕事を終えた従業員たちは、社内の風呂で汗を流し、社長の家族とともに夕食をとっていた、その習慣の精神的な部分が伝統として引き継がれているからです。さらに、職場にも大手企業にはない環境があります。現場の人手が少ないので、一人ひとりが担わなければいけない役割分担が大きいのです。そのため、従業員同士の人間関係が高まったり、仕事に対するやりがいや充実感も生まれます。

 こうした家族的な雰囲気をもっている地方の中堅、中小企業は、まだまだたくさんあります。いま、ユニバーサルデザインであるとか、男女の雇用機会均等、あるいは弱者やマイノリティの方々を含めて、働きやすい職場環境をつくる制度が求められるようになっていますが、昔ながらの地場産業は、もともとこうした職場環境をもっていたのです。このような企業スタイルも、メイド・イン・ジャパンのブランドの一環として、再評価しても良いのではないでしょうか。特に、労働力人口が減少していく日本では、今後、外国人従業員が増えていくはずです。そうした人たちにとっても、日本は働きやすい環境と思ってもらえるモデルとなるはずです。

目に見えにくい経営資源こそ明確に認識するべき

森下 正 地方の企業を訪問させていただいていると、こうしたブランド力を開発し、企業力を高める会社がある一方で、自己認識・革新力が不足していると感じる企業も多くあります。自己認識・革新力とは、マスコミや通説に惑わされることなく、自分自身の存在価値をしっかり認識し、これを時流に合わせて改革できる能力です。例えば、企業経営では、設備や資金などの物的資源や、人材などの人的資源に目が行きがちですが、自社内で開発、蓄積されてきた様々なノウハウなどの経営資源を明確に把握し、それを時流に合わせて活かせるように発想することです。目に見えにくい経営資源にこそ、自分たちの存在価値があり、自分たちの強みであったリ弱みがあります。それをしっかり捉えていれば、社会の動きに正しく対応する取組みができるはずです。その認識ができていないために、思いつきの製品開発や、サービス開発になってしまうことが往々にしてあります。同じように、その地域独自の地域資源をしっかり認識することも重要です。例えば、北海道の広大な農地は、それだけで都会の人にとっては癒やしの光景です。その認識があれば、そこから巨大な田んぼアートや畑アートを発想することができ、そのスケールの大きさは、他の地域にはない観光資源として高い価値をもちます。こうした地域資源の把握ができないと、無い物ねだりをしたり、ブームに乗っただけの町おこしなどをしてしまいがちです。こうした自己認識力を磨くためには、コンサルタントなど第三者の目を利用することも有効であろうと思います。

多岐にわたる取組みには、地域を守るという強い使命感がある

 地方の企業の積極的な取組みは、まだまだたくさんあります。例えば、私が実際に訪問して、成長している企業に感じるのはフレンドリーさです。フレンドリーに接してくれる企業には訪問しやすくなり、企業にとっては外部との接触機会が増えます。その結果、様々な情報が入りやすくなるのです。その中には、貴重な情報も多いことでしょう。そこで、訪問客を待つだけではなく、積極的に呼び込む仕掛けを行っているところもあります。例えば、工場に見学コースを設けたり、ショールームを併設したり、地域を挙げて産業祭を行い、普段は入れない社内を公開するなどの取組みです。いま、工場の夜景クルージングというと川崎地区が有名ですが、山口県の宇部地域ではそれより早く行っていました。こういう機会を設けることで、多くの人がその企業や地域に興味や関心をもちます。実際、訪れる人の中には、視察目的のバイヤーや、就職活動の若者もいるといいます。

 近年、欧米では、生産ラインにIoTを導入する動きが活発で、日本にとって脅威という議論もありますが、私は、すでに日本の生産ラインは世界最高だと思います。ITが活用される前から、メカニカルな仕組みで、ポカヨケとか、不具合が出たら自動停止する工夫をしてきたのです。いまでは笑い話のようですが、スマートフォンができる以前から、工場の機械が稼働していることを携帯電話で確認できるように、機械に電話機を取付ける工夫などもしていました。いま、機械にネットワークを張り巡らせるのは当然のことです。さらに、最近では究極の全自動生産の開発が進んでいます。従来は、人が楽になるための自動化でしたが、労働力人口が減少していくこれからは、人でなければできないと思われていた部分に関しても、機械化することが必要であると考えられるからです。新潟県燕三条地区の機械メーカーの人たちは、自分たちのためにも、2~3年後には完成させることを目指しています。

 地方の企業の生き残りにかける取組みには、企業だけでなく、その地域を守るという使命感のようなものを感じます。そうした真摯な思いや願いが実践につながり、地方の創成につながっていくのだと思います。しかし、低成長時代に移行した日本では、かつてのように、町工場から大企業に成長していくストーリを描く必要はないでしょう。堅実で、質的レベルが高く、強い企業が地方に増えていくことが、日本社会全体、そして日本経済を支える意味で、必要なことではないかと思います。

※M's Opinionの記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

プロフィール

森下 正

明治大学 政治経済学部 教授

研究分野
経営学 ベンチャー・中小企業経営の理論と実証研究
研究テーマ
理論と実証に基づくベンチャー・中小企業経営の成長戦略と活性化政策に関する研究
主な著書・論文
  • 『中小企業 これからの成長戦略』(共著・東洋経済新報社・1999年)
  • 『新事業創造論』(共著・東洋経済新報社・2003年)
  • 『ネットワーク社会の経営学』(共著・白桃書房・2002年)
  • 『マネジメント基本全集15:ベンチャービジネス』(共著・学文社・2006年)

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