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「沖縄振興予算」という呼称が、誤解を招いている

  • 明治大学 政治経済学部 教授
  • 池宮城 秀正

いま、普天間基地の移転問題などで揺れている沖縄県には、日本全国の米軍専用施設・区域の約70%が集中しています。大きな負担であることは間違いありません。しかし、その分、国から他の都道府県とは別枠で約3,000億円の沖縄振興予算が上乗せされているとか、沖縄県経済は米軍基地に依存していると言われることもあります。果たして本当にそうなのか、客観的データを基に沖縄県の経済や財政を見ることで、正しい判断をすることができるようになります。

人口一人当たり行政サービスは低コストで実施されている

池宮城 秀正 沖縄県の経済を考えるにあたっては、まず、国と地方の財政関係を理解しなければなりません。沖縄県に限らず、すべての地方自治体(都道府県、市町村)に対して国から様々な補助金が交付されていることはご存じだと思います。国の予算の約3割が地方交付税、国庫支出金などとして、各地方自治体に交付されています。そのうち、地方交付税は毎年度約17兆円に上りますが、どう配分されているか、その仕組みはあまり知られていないと思います。実は、毎年、総務省は地方自治体の財政力指数を客観的に算定し、それを基に地方交付税を交付しています。財政力指数とは、基準財政収入額を基準財政需要額で除した数値です。つまり、地方自治体が行政を実施する上で必要となる標準的な経費に対して、どれくらいの標準的な税収があるかということです。財政力指数が1.0以上であれば、その地方自治体は税収で標準的な行政を遂行できると言うことになります。都道府県の場合、財政力指数0.3未満に分類される最も低いEグループ10県(2013年度)の中に沖縄県も含まれます。地方交付税の仕組みでは、こうした財政力が弱い県ほど、多くの交付金を受けることができます。地方交付税の役割は、財政力格差の是正と財源保障だからです。それは、日本の仕組みが、効率性よりも公平性を重視した制度になっていると言えます。そのおかげで、日本中、どこへ行っても格差の少ない行政サービスを享受することができます。反面、税収を増やす努力をしなくても一定レベルの行政サービスが受けられるため、住民に、行政サービスは税金と交換であるという発想があまりなく、財政錯覚が起こることになります。この、負担と便益はイコールであるべきであるという認識の希薄さは、沖縄県の基地問題に対しても、沖縄県以外の人たちの気持ちの根底にあるように思えます。

 では、財政力指数が弱くEグループに分類されている10県との比較を中心に、沖縄県財政を見ると、まず、基準財政収入額では、10県の平均を100.0とした場合、沖縄県83.4となり、10県中最下位です。ところが10県の財政力指数の平均が0.27405であるのに対して、沖縄県は0.28855と平均を上回っています。なぜかと言えば、基準財政需要額、つまり標準的な経費が沖縄県は少なく、10県の平均を100.0とした場合、沖縄県は77.5なのです。その理由は、沖縄県の人口分布の特性を知らないと理解できないでしょう。実は、沖縄県の人口145万人のうち、約120万人が沖縄本島の中南部に集中しているのです。そのため、行政サービスは非常に効率的に実施されています。因みに、沖縄県の財政力指数は47都道府県中43位で、人口一人当たり地方交付税は17位です。過疎地を多く抱える他の地方自治体と比べ、教育や福祉のサービスから、道路の整備などまで、必要な経費は非常に低くなります。歳出について人口一人当たり金額を見ると、教育費は10県平均109,048円であるのに対して沖縄県104,915円、土木費の10県平均80,366円であるのに対して沖縄県は58,950円です。この土木費の人口一人当たり金額は全国でも21位と、中位程度です。また、投資的経費は10県平均118,487円であるのに対して、沖縄県は110,753円です。沖縄県の経済が、突出して、公共事業によって支えられていると思っている人も多いようですが、それは誤解であることがわかります。

 このように、地方交付税の仕組みでは、財政力の弱い地方自治体ほど多くの交付金を受けることができるようになっており、財政力指数が最も弱いグループに属している沖縄県は、全国から見ると多くの交付金を受けていますが、同じグループ内の他県と比較すると、特別に突出して交付されているわけではないことがわかります。

沖縄振興予算は全ての都道府県に交付されている財政資金と同じ

 次に、国庫支出金ですが、これは、国が使途を特定して地方自治体に交付するもので、当初から国の政策を遂行する目的を持っています。所管府省ごとの交付になっているので、各都道府県は、各府省に予算要請をすることになります。ところが沖縄県は、沖縄振興特別措置法に基づき内閣府沖縄担当部局予算として一括して計上される仕組みになっています。この一括計上される国庫支出金、及び国直轄事業費の合計が、いわゆる沖縄振興予算と呼ばれているものです。つまり、呼称が沖縄振興予算というだけで、中身は全ての都道府県に交付されている国庫支出金、及び国直轄事業費と変わらないのです。しかも、沖縄県の人口一人当たり国庫支出金は47都道府県中4番目です。また、沖縄振興予算は那覇空港や宮古島の空港の整備、八重山の新空港建設などに多くが充てられてきています。これらの空港はもちろん民間機も利用しますが、国防目的も大きいのです。事実、自衛隊機の発進により、民間機が長時間待たされることも頻繁に起こります。まさに、国の政策を遂行するための予算である国庫支出金や国直轄事業に相応しい使途であり、「沖縄振興のみを狙いとした予算」とは言い難いのです。

 このほかに、市町村には、総務省所管の「国有提供施設等所在市町村助成交付金」(いわゆる基地交付金)が交付されています。これは、米軍基地や自衛隊基地に関する固定資産税などに代替する交付金です。同じく「施設等所在市町村調整交付金」は、米国資金による取得資産や基地外に居住する米軍人、軍属から税が徴収されないため、それに代わる交付金です。また、防衛省所轄の「防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律」に基づく交付金もあります。これは、基地が周辺住民にとって迷惑施設であること、つまり外部不経済に対する補償です。これらの交付金は沖縄県下市町村に限ったものではなく、米軍基地や自衛隊基地が立地しているすべての地方自治体に交付されています。

 このように客観的数字を基に見てくると、沖縄県が、国から他の都道府県とは別枠で補助を受けているということが誤解、錯覚であることがわかると思います。むしろ、沖縄県にとっては、日本全国に便益をもたらす純粋公共財である米軍基地の存在によって過重な負担を強いられているのに対して、その負担とイコールとなる便益になっていないのがわかります。先にも述べたとおり、日本中の人が、負担と便益はイコールであるべきという認識の基に、沖縄県の基地問題を考えてほしいと思います。

沖縄県の経済成長率は全国で最も高くなる

池宮城 秀正 また、沖縄県の経済は米軍基地に依存しているというのは誤解で、むしろ、過重な米軍基地は、都市造りや地域の振興開発にとって弊害となっています。例えば、いま沖縄ではミニ・バブルが起きており、住宅地の価格が九州で最も高いと言われています。それは、米軍基地の存在によって有効活用できる土地が限られているからです。その結果、沖縄県の持ち家比率は東京の次に低い状況になっているのです。

 実は、沖縄県財政は、弾力性を示す経常収支比率や、収入に対する借金返済の割合を示す実質公債費比率、将来支払う借金の割合を示す将来負担比率等も、概ね、都道府県平均を下回っており、これらの指標の点から沖縄県の財政運営は健全であると言えます。さらに、いま、日本は少子高齢化に歯止めがかからず、将来の労働力人口の減少が問題となっていますが、沖縄県の合計特殊出生率は全国一で、高齢化率も最も低いままです。日本経済研究センターは2020年までの10年間、沖縄県の経済成長率が全国で最も高くなると推計しています。いま、沖縄県経済が基地依存経済であるとの誤解を払拭するとともに、日本経済への貢献といった視点から地域経済の活性化に着実に取り組むことが重要と考えます。

※M's Opinionの記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

プロフィール

池宮城 秀正

明治大学 政治経済学部 教授

研究分野
財政学、地方財政論
研究テーマ
政府間財政関係についての研究
学位
博士(経済学)
所属学会等
日本地方自治研究学会会長
主な著書・論文
  • 『国と沖縄県の財政関係』(編著、清文社、2016年)
  • 『協働社会における財政』(共著、有斐閣、2015年)
  • 『琉球列島における公共部門の経済活動』(同文舘出版、2009年)
  • “The Great East Japan Earthquake and the Japanese Economy” (Japanese Studies Journal, Thammasat University, 2011)

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