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同性パートナーシップ条例と多様性国家・日本 ―内向きな愛国心が日本をダメにする―

  • 明治大学 国際日本学部 教授
  • 鈴木 賢志

2015年4月1日、日本で初めて東京都渋谷区で「同性パートナーシップ条例(同性カップル条例、正式名称:渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例)」が施行された。これは、同性カップルに「結婚に相当する関係」を認め、証明書を発行するものだ。これまで同性カップルは、日常の生活で不当な扱いを受けてきたが、国際的な人権擁護の流れも受け、ようやく対等なスタートラインに立てたといえる。しかし、一方で根強い反対意見も多い。日本の国際化の今後を占う本条例の意義を探った。

反対運動と結び付く日本の伝統的価値観

鈴木賢志教授 ――4月1日、渋谷区が同性のカップルに「結婚に相当する関係」と認める証明書を発行する新たな条例が成立しました。まず、先生のご見解をお聞かせください。

同性愛の話は、昨年2月から8月まで週刊東洋経済で連載していた「日本人の価値観」で取り上げたことがあります。「同性パートナーシップ条例」は、あくまで社会にあるニーズを汲み上げたものとして冷静にとらえるべきです。”家族”とみなされない同性カップルは、アパートの入居や病院での面会などで拒絶されるなど、不当な扱いが少なくありませんでした。「同性パートナーシップ条例」の成立は、世界的に見てもごく自然な流れとしてあると思われます。ただし、この条例の可否について、ここで論ずるつもりはありません。
むしろ興味深いのはその条例が成立したことよりも、それが大きなニュースとなり、それに対して強硬な反対運動を展開した一部の日本の人々の反応です。その反対運動で、「頑張れ、ニッポン」という幟が立つという奇妙な現象も起こっています。「同性パートナーシップ条例」と「頑張れ、ニッポン」という言葉が、いかにして結び付くのか。そこには、日本の伝統的といわれている価値観への固執があり、その価値観の復活は国力回復につながるという幻想があると思います。したがって、「同性パートナーシップ条例」など、日本の伝統的といわれる価値観を否定するものに対して過敏に反応する現象が起こっていると考えられます。

伝統的価値観の真偽

 ――伝統的価値観といっても多様なものがあると思われますが、反対運動を展開する人にとってどのような価値観なのでしょうか。

多分、戦前から戦後間もない頃の、いわゆる昭和の家族のあり方を指していると思われます。「サザエさん的価値観」といってもいいでしょう。家父長的な大家族で夫は働き、妻はもちろん専業主婦。したがって、「同性カップル」などは、「サザエさん的価値観」を脅かす存在であり、日本を貶める存在となるわけです。
しかし、”伝統的”が戦前・昭和に限定されるわけではありません。中世、戦国時代に来日した宣教師ルイス・フロイスはその著書の中で、日本に”男色”の習慣があることを、驚きを持って伝えています。また女性に”貞操”の観念が薄いことも報告しています。男色蔑視や貞操観念は、明治政府が文化・風俗のスタンダード化を目指し、キリスト教的な価値観を導入した結果、導入されたと考えられます。極論すれば、”男色”は古くからの日本の伝統的価値観の一つともいえるわけです。日本は元々多様なものを受け入れる寛容さを持った国です。それは日本の良さであり、強さ。そしてそれが今の日本を作ってきたとは言えないでしょうか。

「日本人としての一体性」が多様性を排除する

 ――先生が指摘する、多様なものを受け入れる寛容さは、昨今失われていると思われます。むしろ多様性を排除、排斥する傾向が高まっているのではないでしょうか。

そうです。そこでもう一つ考えねばならないのが、日本における愛国心の高まりです。愛国心は私も持っていますし、それ自体が問題ではなく、むしろ国民に必要な心性でしょう。しかし今、日本で突出している愛国心と呼ばれるものは、「日本人としての一体性」を求め、それが同性カップルなどの多様性を排除するという運動の背景にあると見ています。国を愛することは決して悪いことではないのですが、それが多様性を排除するような形で盛り上がることは決して望ましいことではないと考えています。
日本は古代から近代に至るまで、多彩な宗教、思想、文化等を柔軟に受容してきた国です。それによって、島国でありながら、偏狭な世界に孤立することなく今まで歩んできました。多様性の受容、尊重こそが、日本の伝統的価値観なのです。その意味で、「同性カップル」を否定し、いびつな愛国心、伝統的といわれる価値観にしがみついている人こそ日本人の伝統に反しているとも言えるのです。

背景にある日本の国力の減弱

 ――そのような動きが顕著になってきたのは、ここ数年のことと思われます。その背景には何があるのでしょうか。

少し前まで、日本は一流の経済大国でした。しかし、その経済力は中国に抜かれ、国内の景気も長らく低迷し、「何となくダメな日本」という空気の蔓延が背景にあると思います。ダメになってくると、過去の古き良き時代、ダメでなかった時代の価値観にしがみつく傾向が生まれます。言うまでもなく、戦前・昭和が良き時代でも、ダメでなかった時代でないのにもにもかかわらず、それにしがみつくことで日本の良さを強調し、「日本人の一体性」を求め、異質なものを排除する動きが一部で高まっていると思われます。なお、このような動きは、何も日本に限ったものではありません。世界を見渡してみると、旧共産圏やヨーロッパの一部の国々にもそのような傾向が認められた時期がありました。
2020年の東京オリンピック開催は、そうした動きを一層加速しているように見受けられます。世界のスポーツの祭典というより、国威発揚の場と考える人たちにとって、東京オリンピック開催は日本が自信を取り戻す上で格好の材料となっています。

多様性を受け入れることが希望をつくる

鈴木賢志教授 ――多様性を受け入れる寛容な社会こそが、健全と思われます。そのためには、何が求められているのでしょうか。

私は日本人の価値観も研究対象の一つとしていますが、その中で日本の若い人たちが、諸外国に比べて将来に希望を持てないという現象に注目しています。内閣府が2013年に実施した『我が国と諸外国の若者の意識に関する調査』によれば、自分の将来について希望を持てるという日本の若者は1割を少し超える程度にすぎません。私は、こうした閉塞感に風穴を開ける1つの方法が、多様性を受け入れることであると考えています。特に若い人々は、世界を見ること、感じることが必要です。たとえば、学生の中でも海外に出て国際的な活動に取り組んできた人は、相対的に将来への希望が高くなる傾向があります。画一的、単子眼的であると社会は一層閉塞するでしょう。視野を広く持つことは、多様性を受け入れる第一歩になります。
今後、日本のポテンシャルを上げていくためには、多様性を受け入れる社会を創造する必要があります。そのためには、複眼的に世界をそして日本を理解していくことが、異質な他者を受け入れる土壌を培っていくと思われます。多様性を排除する内向きな愛国心は、かえって日本をダメにします。国民の将来への希望も、そこから生まれる幸福感も、それに伴う日本の国力回復も、多様性を受け入れることから始まると考えています。

 ――本日は、ありがとうございました。

※掲載内容は2015年4月時点の情報です。

※M's Opinionの記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

プロフィール

鈴木 賢志

明治大学 国際日本学部 教授

研究分野
政治経済学、社会心理学
研究テーマ
社会情勢、社会システムと国民意識
学位
博士(政治・国際研究)
主な著書・論文
  • 『日本経済の鉱脈を読み解く 経済指標100のルール』(かんき出版・2013年)
  • 『世界の社会福祉年鑑2012年版/第12集』(共著・旬報社・ 2012年)
  • 『”The Nordic and Asian crises: common causes, different outcomes”』(共著・”Lars Jonung, Jaako Kiander and Pentti Vartia (eds.) The Great Financial Crisis in Finland and Sweden. Cheltenham: Edward Elgar”・2009年)
  • 『スウェーデン―充実した両親休暇・児童ケア施設・子育て世帯の経済的負担の軽減』(『出生率の回復とワークライフバランス 少子化社会の子育て支援策』中央法規出版・ 2007年)
  • 『”The Changing Pattern of Amakudari Appointments: The Case of Regional Banks, 1991–2000 no.”』(Magnus Blomstrom and Sumner La Croix (eds.) Institutional Change in Japan (London and New York: Routledge)・2006年)

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