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“問題発見力”が魅力あるものづくりにつながる

  • 明治大学 商学部 教授
  • 富野 貴弘

ここ数年、日本の電機メーカーの国際競争力の低下が大きく取り上げられたり、IoTやインダストリー4.0を積極的に推進する海外の動向が報じられ、日本のものづくりに対する悲観論が目立ちます。もちろん改革すべき点はありますが、日本のメーカーがもともともっている強みを見直すことも必要だと思います。

競争力が高いのは、“新しい問題”を発見し解決する製品

富野 貴弘 3年ほど前に、私は本学の広報誌にアーキテクチャ論によって日本のものづくりを考察する記事を掲載しました。アーキテクチャ論とは東京大学の藤本隆宏先生が中心になって発信している理論で、製品を自動車や電機などと単純に産業分類するのではなく、製品の設計段階にまで立ち入り、その設計思想や設計仕様に応じて大きく2つの型に分けて考察する、いわばものの見方です。その2つの型とは、部品を最適設計しないと顧客を満足させる性能が発揮できない製品である「すり合わせ(インテグラル)型」と、標準化されている部品を組み集めれば製品ができ上がる「組み合わせ(モジュラー)型」です。この理論で日本の製品をみると、「すり合わせ型」は今でも世界市場で強さをもっていることがわかります。その代表的な製品は、自動車やオートバイです。一方で、いまや「組み合わせ型」の代表的な製品であるデスクトップパソコンでは、日本の製品は市場から撤退を余儀なくされているような現状です。つまり、日本の製造業やものづくりは一律にダメになったわけではありませんが、「組み合わせ型」製品が弱い状況は、私が記事を掲載した3年前からあまり変わっていません。なぜ、モジュラー的な「組み合わせ型」製品で日本企業は弱いのか、まだ確たる原因はつかめていません。しかし、こうした製品でも競争力を高める方法は考えられます。ヒントは、ヒットした製品の製品コンセプト力、言い換えると問題発見力の重要性について見直してみることです。

 世界的にヒットした製品のひとつに「iPhone」があります。日本で最初にiPhoneが発売されたのは2008年ですが、当時、日本のメーカーは、iPhoneに搭載された機能は、マルチタッチを除くとすでに自社の製品に入っているものばかりで、逆に自社製品に入っているのにiPhoneには搭載されていない機能もあり、これはたいした製品ではないと高をくくっていました。ところがユーザーの反応は違っていたわけです。決定的だったのは、タッチパネルを使い、アプリごとに直感的な操作ができたことです。当時の日本製のスマートフォンもiモードなどによってネットの世界とつながっており、様々なアプリを使うことができました。しかし、その操作はどんなアプリでも固定されたハードキーによる入力のみでした。メールを打つのも、電車の乗り換え案内を調べるのも、ハードキーを連打していたことを覚えているでしょう。また、使うアプリによって機能するボタンが異なるために、アプリごとに操作方法を覚えなくてはいけませんでした。それでもユーザーは「そういうもの」と思っていたので、格別の不便も感じていなかったと思います。ところが、Appleはタッチパネルを使えばアプリごとに最適な操作が簡単にできることに着目し、それをユーザーに提示したのです。iPhoneは、ユーザー自身も気がついていなかった問題を発見し解決する製品であったことが、大ヒットにつながったといえます。

 ここで注目したいのは、タッチパネルも、画面ごとに変わる入力方法も、決して新しい技術ではなかったことです。例えば、銀行のATMではすでにタッチパネルを使い、暗証番号の入力から、入金、引き出しなどのメニューに合わせて画面が切り替わり、マニュアルなどなくても、直感的に操作できるシステムになっていました。ところが、このシステムを取り入れたスマートフォンはなかったのです。当時、スペックや機能の数を比べて、iPhoneをたいした製品ではないと高をくくった日本のメーカーは、iPhoneが取り入れたシステムがどんな問題を解決していたのか、その本質がわかっていなかったのです。もちろん、新しい技術を開発し、スペックを高めていくことは大事なことです。しかし、私たち消費者は、技術やスペックにお金を出すわけではないのです。そもそも製品とは、世の中にある不便や問題を解決し、生活をより便利に楽しくするために存在しているものです。場合によっては、ユーザー自身すら気がついていなかった問題を発見し解決する製品が人々に受け入れられ、競争力の強い製品になるのです。技術やスペックは問題解決を実現するための手段にすぎません。

企業には豊かな発想力を活かすマネジメントが必要

 こうした例は、なにも海外製品ばかりではありません。1979年に初代が発売されたソニーの「ウォークマン」は、それまで音楽は部屋で聴くものという固定概念を破り、どこででも気軽に音楽を楽しむという新しいライフスタイルを創出しました。しかし、「ウォークマン」に格別新しい技術が投入されていたわけではなく、むしろ逆で、すでに存在していた小型録音再生機から、録音機能とスピーカーを省いた製品でした。今年、経営不振で台湾企業に買収されたシャープですが、1992年に発売した「液晶ビューカム」は、それまで8ミリビデオカメラ市場の主流だった“小さくて軽い”製品作りと一線を画し、両手で持たないと撮影できないほど大きく重い製品でしたが、大ヒットとなりました。理由は大きな液晶画面を付けたからです。小さなファインダーを覗きながら撮影し、再生はテレビに接続して見るというそれまでのビデオカメラの常識を破り、“撮ったその場でみんなで見ることができる”という、これもおそらくユーザー自身も気がついていなかった“問題発見と解決”をして、ビデオカメラの楽しさを広げたからです。高い液晶技術をもっていたシャープは、それをスペックとして提示するのではなく、新しい問題解決方法として提示したからこそ、ユーザーは「液晶ビューカム」にワクワク感を覚え、そのワクワク感にお金を出したわけです。

 こうした問題発見やワクワク感につながる製品を産み出す力が弱くなっているのが、最近の日本のものづくりの大きな課題といえます。しかし、日本のプランナーやデザイナーが決して劣っているというわけではありません。海外の企業で活躍している日本人デザイナーもいます。彼らは常人とは違う視点をもち、発想が豊かで物事の本質を見抜く力がある人なのですが、ある意味、ちょっと変わっている人が多いようです。要は、そういうちょっと変わっている人を活用するマネジメントが企業に求められているということです。ただし、ワクワク感を判断するのはひじょうに難しいです。数値で定量的に表せないからです。それに比べると、スペックや機能はわかりやすく、優劣が判断しやすい。また、従来の延長線上にある価値観の中で、より小さくしたとか、より軽くした、というものも判断しやすい。しかし、新しい価値観をもったものは比較対象がなく、それを判断するのは難しいわけです。そういった製品は“良し悪し”ではなく、どちらかというと“好き嫌い”の範疇で判断しないといけないからです。そのとき、それを判断不能と否定するのではなく、そのワクワク感や新しい価値観を正しく判断し、リスクを負っても製品化しようとする決断は企業のトップ層にしかできません。かつてのソニーやシャープなどにはそうしたマネジメント力があったからこそ、発想力の豊かなものづくりで世界から注目されたのでしょう。

「問題発見力」を鍛える教育と訓練を目指す

富野 貴弘 今後、新しい発想や問題発見力をもった製品を生み出していく人材を育てるためには、理系や文系の枠にとらわれていてはダメだと思っています。エンジニアにもプランニング力やデザイン力が求められるし、プランナーやデザイナーにも技術の知識が必要です。実際、アメリカの大学などでは、学部にかかわらず教養教育、リベラルアーツ教育を重視し、本格的な専門教育は大学院にいってからというシステムになっています。広い視野や多様性を理解する人材が、ものづくりの現場においても、マネジメント部門においても重要だと思います。その意味で、本学の商学部は、商学専門のゼミと一般教養のゼミの2つをとれるダブルコアのシステムを採っています。こうした教育環境の中で“問題発見力”を鍛えることも、我々教育機関の責務と考えています。

※M's Opinionの記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

プロフィール

富野 貴弘

明治大学 商学部 教授

研究分野
経営学(生産管理論)
研究テーマ
生産システムの市場適応力に関する研究 高付加価値型ものづくりに関する研究
【キーワード】生産システム・サプライヤーシステム・サプライチェーンマネジメント
主な著書・論文
  • 『生産システムの市場適応力』(同文舘出版・2012年)
  • 『日産プロダクションウェイ』(共著・有斐閣・2011年)
  • 『日本のものづくりと経営学』(共著・ミネルヴァ書房・2009年)

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