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農商工連携で、技術の市場化をはかる – 植物工場の普及を考える上で、経営とマーケティングの知識は不可欠です。-

明治大学 商学部 教授 大友 純

農商工連携で、技術の市場化をはかる

リバティアカデミーでも植物工場の講座を開講

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リバティアカデミーでは、植物工場の事業化や経営に関心を持つ方向けの講座を開講している。
 近年、食の安心・安全、また食料確保に対する不安の声が上がっています。農業は個人・企業が新ビジネスを開拓する場として魅力がありながら、参入は容易ではないのが現状でした。しかし、ここ数年、経済産業省や農林水産省などによる支援が盛んになったこともあり、「野菜類の工場的生産」の場である植物工場に関心を持つ企業は確実に増えています。
 明治大学の生涯教育拠点であるリバティアカデミーでも「農業ビジネス展開のための新しいアプローチ」と題して、植物工場に関する講座を開講していますが、現役のビジネスパーソンが真剣なまなざしで受講されている様子からは、植物工場の事業化を現実的な経営課題として捉える企業が増えていることを肌で感じています。学生の研究テーマとしても興味深く、昨年は商学部と農学部の農商工連携学生チームがJTBのための新規事業として植物工場産品の利用を提案しました。
 植物工場の普及を考える上で、生産を支える技術、施設設備や栽培に関するノウハウは基礎となる知識です。講座でも、植物工場に必要な技術要素や、現状の課題に関する内容が中心となっていますが、植物工場をビジネスとして実際に運営していく段階においては、どのように組織をつくり、販売戦略を立てるかという商学・経営学の知が求められます。とりわけマーケティングは、植物工場産の作物が市場に受け入れられるために不可欠な視点と言えるでしょう。なぜなら技術の価値は市場(顧客=消費者)側から見ることによって決まるからです。

決め手は「製品コンセプト」

 新しい技術や科学を農業という産業の活性化に役立てるためには、エンドユーザのニーズに合った農産物を安定的に生産するだけでなく、植物工場で生産された野菜が消費者のどのような課題を解決できるかを提示することが必要です。より低コストで生産できるよう努力する一方で、従来の野菜にない新たな付加価値を示す。そのための決め手となるのが製品コンセプトという概念です。製品コンセプトとは、製品の効用を特徴的に示す意味的概念であり、言いかえるならば、買い手側の生活や人生の問題に対して、解決策を提示する財であると認識させること。すなわち情報を創造するということです。

消費者の認識のさせ方を変える

 仮に、消費者が「お日様を使わない、土で育てない野菜」という情報に不安感を持つのであれば、植物工場産の野菜の特質とその魅力が伝わるように、認識のさせ方を変えることが必要です。それは、植物工場と消費者の間に製品や資金、情報を効率よく流す仕組みをどのように設計するのかを考えることに他なりません。消費者がスーパーマーケットでどのように野菜を選んでいるか、という日常の視点で考えれば、現状の植物工場でも利益を上げるのは難しくないでしょう。
 ファストフードチェーンの実例では、オフィス街の地下にある店内に植物工場を置き、そこで育った野菜がすぐサンドイッチされて出てくるという付加価値を提供しています。
 また、ホテルや外食産業では、安定した品質や栄養価の高さ、洗わないでも食べられるほど清潔である点がなどから、植物工場の野菜を採用する例が増えていると聞きます。それは海外からの観光客を迎える際のアピールポイントにもなります。彼らが不安に感じていることが放射能による汚染だとするなら、ホテルなどの宿泊施設で植物工場産の野菜をメニューに取り入れることは、安心という付加価値を提供することにつながるでしょう。そうした意味づけを行うことで、植物工場産の野菜は消費者にとってより魅力的な商品になるわけです。

マーケティングとはお客さまの笑顔を引き出す活動

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時代とともに価値観は変わっても、老舗の商品やサービスはずっと愛され続けている。
 私は長年、マーケティングを研究してきましたが、最近マーケティングの定義を再検討しました。
 マーケティングの定義をあらためて問い直すにいたったのは、リバティアカデミーのビジネスプログラムにおいて、数年前から開催してきた老舗・ブランド研究会で多くの老舗企業の方と接したことがきっかけでした。創業から100年、200年以上も続く企業の方々の誰もが口をそろえて「自分たちのビジネスの目的は、事業を拡大させることではなく、お客さまの満足の創造と、それを継続することにこそある」と話されたことに大変驚かされたからです。激しい競争環境のなかで、いかに利潤を上げ、いかに市場のシェアを拡大していくかが企業の生き残る道であると認識していた我々にとって、事業の拡大を考えず、利潤原理では動かないような企業やお店があったことは大きな衝撃でした。
 このことは大会社に成長しても30年ほどで消えてしまうような企業より、小さくても時代を越えて多くの人々に愛され生き延び続けている企業の方が、はるかに優秀で社会的価値が高いのではないか、という気付きを与えてくれました。
 私はそれを成長ではなく「深長」と言っていますが、そもそもマーケティングはアメリカで生まれ、アメリカの企業の活動を前提にして体系化された概念であり、今日の日本企業が抱えているさまざまな課題解決に役立つかどうか、素朴に考え直してみる必要があると感じていました。その結果、最近は次のような定義を使っています。それは「マーケティングとは企業が行うべき、お客さまの笑顔を引き出すために必要なすべての活動」というものです。
 マーケティング活動のめざすところは、より一層の品質やサービスの向上と、価格維持のための新技術の開発や業務改善などに目を向け、価格の妥当性を理解してもらえるような、価格に頼らないビジネスを創り上げることにあります。
 常に消費者の観点から、お客様がよろこぶことを考える姿勢。植物工場の場合で言えば、安心して日本の野菜が食べられるようにするために、技術に何ができるのかを考え、市場から技術を見ることが大切です。技術に、良い技術も悪い技術もありません。企業が失敗するとしたらそれは技術ではなく、市場で失敗するのです。
 ひたすら顧客満足の創造をめざすという信念のもとでならば、ビジネスをむやみやたらと拡大成長させなくても、継続していくことが可能であろうし、何よりもそうした企業こそ、私たち消費者が社会に存続することを許してきたのではないでしょうか。

掲載内容は2013年3月時点の情報です。

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