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コーポレート・ガバナンスと経営戦略との関係把握を目指して

明治大学 商学部准教授 西 剛広

コーポレート・ガバナンスと経営戦略との関係把握を目指して

ドイツの国際会議での報告の様子ドイツの国際会議での報告の様子 昨年から今年にかけて、コーポレート・ガバナンスに関する問題がマス・メディアを賑わしています。セブン&アイホールディングスの鈴木会長がセブン・イレブンの井坂社長を更迭しようとして、外国人機関投資家サード・ポイントの存在を背景に、取締役会で鈴木会長の人事案が拒否され、逆に退任に追い込まれる事件は社会的に大きな衝撃を与えました。従来の日本企業はメインバンクや事業会社同士の株式持合を中心とした所有構造が形成され、取締役会構成が社内出身者で占められるなど内部者優位のガバナンスが構築されていました。この事件は取締役会が鈴木会長のトップの独走を止め日本のコーポレート・ガバナンスが機能したことを示した一例でした。

 近年、日本企業の株式所有主体として機関投資家が台頭し「物言う株主」として日本企業のガバナンスに大きな影響を与えています。このような状況を受けてコーポレート・ガバナンス・コードなどの指針が制定されています。この指針は機関投資家と企業との関わり合いを促進し、企業競争力や企業価値向上を目指したものです。その中で取締役会の企業経営への監視機能の強化を図るために独立社外取締役を活用することが重要な課題となっています。

 それでは、果たして独立社外取締役を活用することが企業価値向上につながるのでしょうか。私はこの問題に対して高い関心を持っております。株式所有構造や取締役会形態のようなコーポレート・ガバナンスのあり方が企業の業績や戦略にどのような影響を与えるのかということを解明するために様々な研究を行ってきました。

 例えば機関投資家との関わり合いや社外取締役の活用と企業価値との関係については、機関投資家の所有比率の高い企業群にとっては社外取締役の活用は企業価値向上につながる一方、株式持合に支えられている企業群では社内取締役を中心とした内部型ガバナンスの方が企業価値に正の影響を与えていることが確認できました。この結果はコーポレート・ガバナンス・コードに即した外部志向型のガバナンスは機関投資家比率が高い企業には企業価値を高める上で有効ですが、それ以外の企業には企業価値の向上に貢献するものではないことを意味しています。

 コーポレート・ガバナンスと企業戦略との関係では、主に企業のR&D(研究開発)活動の点から分析を行っています。2010年から2014年までの間で日本企業2692社を対象にパネル分析を行った結果、機関投資家所有比率ならびに、取締役会内の社外取締役の比率と企業のR&D投資の間には正の関係があることを捉えました。しかし、このようなR&D投資が収益性や経営の効率性に結びついていないことも同時に把握できました。機関投資家の存在や社外取締役の活用はR&D投資など企業のリスク選好的な行動を促す一方で、このような行動が企業の収益性を高めることにつながっていないのです。

ワイカト大学(ニュージーランド)の研究室にて:共同研究者のDr. Geeta Duppati(左端)と研究室内の大学院生と一緒にワイカト大学(ニュージーランド)の研究室にて:共同研究者のDr. Geeta Duppati(左端)と研究室内の大学院生と一緒に コーポレート・ガバナンスと企業業績ならびに経営戦略との関係を把握するためにさらなる研究が求められますが、昨今の株主重視型のコーポレート・ガバナンス改革は必ずしも企業価値や収益性向上を実現するわけではないのです。コーポレート・ガバナンス改革の企業競争力向上や、組織能力構築への影響をさらに探求することが今後の課題です。

 ここ数年、海外でのコンファレンスで報告をしたり、ジャーナルに投稿をするなど研究活動を国際的に展開しています。このような研究活動を通して海外の研究者と知り合うことができ、共同研究も開始しました。ニュージーランドのワイカト大学の研究者と共同で、日本とインドとのコーポレート・ガバナンスの国際比較研究を行っています。この共同研究は、経営戦略とコーポレート・ガバナンスとの関係について新興国市場と成熟国市場での相違点を明らかにすることを目的としています。
本研究が学術的ならびに、経営実践の両面に貢献できるよう、これからも努力研鑽を積んで参りたいと思います。

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