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著作権法と二次創作

明治大学知的財産法政策研究所主催のシンポジウム「しなやかな著作権制度に向けて」(2016年3月22日)明治大学知的財産法政策研究所主催のシンポジウム「しなやかな著作権制度に向けて」(2016年3月22日) 二次創作とは、既存の作品のキャラクター・音楽等を利用・アレンジした創作活動のうち主にアマチュアによるものを意味する。二次創作作品は、同人誌即売会(その日本最大のものが「コミックマーケット」である)やインターネットなど様々な形で流通している。

 二次創作の全てが原作の著作権・著作者人格権を侵害するものではない。特に原作のキャラクターの名前や設定その他のアイデアのみを利用した二次創作作品については、原作の著作権の効力は及ばない。キャラクターの図柄を使用したコミック形式での二次創作作品については、どの程度原作の絵と似ているかによって判断が分かれることとなる。二次創作作品が原作の具体的な表現を用いていると評価される場合、引用(著作権法32条)やパロディであることを理由に侵害を否定することは難しい。

 このように時に著作権等と抵触する可能性もある二次創作作品が、実際には数多く創作されている現状をどのように理解するべきだろうか。この点につき、一つの説明とされているのが権利者による「黙認」である。作品によっては権利者が二次創作ガイドラインなどを設け、一定の範囲での二次創作とその利用を明認している場合も増えている(例えば初音ミクに関する「ピアプロ・キャラクター・ライセンス」等)。

 多くの権利者が二次創作同人誌を黙認・明認している理由としては、まず権利者に実際の経済的な損失を与えるものではないことや、同人誌の作家たちの多くが原作の熱烈なファンであるとともに、将来のプロの作家の重要な供給源となっていることも指摘されている。プロの漫画家やゲームの原画家が、連載の合間にコミックマーケット等に参加することもしばしばあり、また二次創作作品が後に原作の出版社等によって公認され出版された例もある。

 他方で権利者が二次創作を全て認めているわけでもない。特に二次創作作品が公式のものと誤解されることや、原作のイメージや主要なマーケットに対して悪影響を与えることを懸念した権利者・出版社によって厳しい対応がされた事例も存在する。

 著作権法と二次創作との関係はいかにあるべきか。難しい問題である。ただ多くの権利者が二次創作作品を黙認・明認しつつも、時に特定の作品につき利用の停止を求めることができる(場合もある)という灰色の現状は、二次創作作品の創作と享受の場・環境の維持・発展にとって積極的な意味があるとも考えている。

 ところでTPP(環太平洋パートナーシップ協定)では、海外の権利者にとっての海賊版対策の円滑化等の観点から、日本政府に対して著作権侵害罪の非親告罪化(権利者の告訴がなくとも検察官による起訴が可能となる)が求められている。この非親告罪化に対しては、「黙認」を基礎とする二次創作文化への悪影響がマンガ家や二次創作の関係者から強く懸念されていた。これらの懸念を踏まえ、第190回国会に提出されたTPP対応のための著作権法の改正法案でも「原作のまま」等の要件が付される等、二次創作作品については非親告罪化の対象から除外する方向での検討がされている。

 このように政府や国会においても二次創作文化の重要性が認識されていること自体は大きな意義のあることである。しかし本来の問題は、現行の著作権侵害にかかる刑事罰の適用対象が広範に過ぎる(侵害か否かが不明確な事案でも、刑事罰が適用されうる)ことにあると思われる。典型的な海賊版等、処罰範囲自体を適切に限定することが重要であろう。

 *本稿の内容は2016年6月時点の情報によるものである。
その後、2016年12月に第191回国会においてTPP協定の実施のための整備法案が成立したが、非親告罪化等に関する改正規定の施行はTPP発効時となっている。そして2017年1月23日にトランプ新大統領はTPP離脱に関する大統領令に署名しており、TPPの発効自体の可能性が極めて低いものとなっている。

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