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研究最前線 magazine59

農業に必要な数値管理

 日本の農業が振るわない原因のひとつが、栽培管理を「経験と勘」に頼り、数値化をおろそかにしてきたことにあります。そこで、数値管理が比較的容易なハウスの養液土耕栽培で、ICTを利用した支援システムを⑭ルートレック・ネットワークスと共同開発しました。養液土耕栽培とは、潅漑水に適正な量の肥料を溶かした培養液を、作物に少量ずつ点滴チューブで供給する方法で、世界的に広く普及し成果をあげています。しかし、水田に囲まれたハウスが多く、雨が多い日本では、ハウス内土壌に水が多く侵入します。この水量に応じて供給培養液の肥料濃度を制御する困難さで、普及が遅れていました。これを可能にしたのがゼロアグリです。この研究には、川崎市、農林水産省の補助を受けました。

ゼロアグリの構造

図1 「ゼロアグリ」の外観
図1 「ゼロアグリ」の外観
 図1がゼロアグリでボックスの内が制御部、外が駆動部です。ハウス外に日射計、ハウス内に土壌の水分とEC(電気伝導率:主要な肥料源である硝酸に反応する)を測定するセンサー(図2)があります。センサーで測定したデータをインターネットでクラウドに送信し、適正な供給培養液の量と濃度、培養液の供給時刻を計算し、この結果をインターネットで制御部に戻し、駆動部の電磁弁を開閉して培養液供給を制御します。

 水と肥料の時々刻々の供給量は1日の日射量変化に比例させ供給し、培養液の量と肥料濃度を土壌の水分とECが一定値になるように制御します。栽培者は観察により、作物生育を改善するように、土壌の水分とECの制御値を個別に変更します。この変更にタブレット端末を利用するので、変更記録はクラウドに蓄積され、栽培者の「経験と勘」が数値化されます。このデータを、翌年の栽培に利用したり、経験が不十分な栽培者に提供したりできます。

ゼロアグリの効果

図2 土壌センサー
図2 土壌センサー
 東日本大震災で寸断された技術ネットワークの復活を支援する研究を、2013年から3年間、農林水産省の補助で陸前高田市で実施しました。ゼロアグリの導入で篤農家のキュウリの収量は導入前より26%増加しました。この篤農家では、息子を亡くした80歳の父の「経験と勘」を孫に伝えるために数値化できました。また、この篤農家の制御信号を未経験者の栽培に利用したところ、キュウリの収量が篤農家と同等になりました。

 ゼロアグリの計算機能を利用して高温対策制御を確立しました。この制御には、作物の培養液吸収は肥料濃度が低いほど容易なこと、作物の肥料吸収ピークは12時頃以外に20時頃にもある現象を利用しました。ハウス栽培のキュウリでの実験では、7時から11時のハウス内平均気温が23・5℃を上回った日の12時から15時に、培養液の替わりに水を供給し、これで不足する肥料を、その日の18時から20時に供給する培養液の濃度を高め供給しました。その結果、日中も同じ濃度の培養液を供給する通常制御に比べて、処理開始後1ヶ月間の収量が35%から40%増え、農家は大喜びでした。

おわりに

 近年、日本でも農業への企業参入が進んでいます。疲弊する農村を活性化するうえで必要な選択肢である一方、過度な参入で農村に農業労働者が増えると、消防団、水路清掃などの非経済活動に支障をきたす危惧があります。ゼロアグリのねらいは、自営農家の経済活動向上により農村社会を支援することにあります。現在ゼロアグリは本体価格120万円で販売されており、1台の適正対応面積は2000㎡から5000㎡で、2年ほどで採算が取れる計算です。

 ICT業界では、機械と機械をつなぐ意味の「Machine to Machine」を「M2M」と略して表現します。これをゼロアグリでは「Man to Man」にしたいのです。Manには現存しない過去の人も含みます。日本の農業を支えてきたのは先人の「経験と勘」です。これを失わせないために、数値化して次世代に伝えたいという思いを込めてのことです。

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