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中間言語語用論:外国語におけることばの使い方の研究

明治大学 国際日本学部教授 大須賀 直子

ウィーン中央駅

中間言語語用論:外国語におけることばの使い方の研究

英語の様々な依頼表現 筆者の専門は英語教育や第二言語習得論だが、近年はとくに中間言語語用論の研究に力を入れている。中間言語とは、言語学習者が目標言語を学ぶ過程において発する(正確には理解も含む)言語のことである。日本語を母語とする者が発する英語は中間言語である。一方、語用論とは、ことばが文脈の中でどう使われるかを研究する学問である。たとえば、「明日は大雨らしいよ」という発話は、「明日の天気はどうかな?」という会話の中で発せられれば、単に天気に関する情報を与えるものであるが、「明日公園でテニスしない?」という会話の中であれば、暗に断りを示唆するものとなる。ことばは異なる文脈の中で様々な意味を持ち得るものであり、ことばの使い方は文化的な違いにも大きく影響を受ける。言語学習者が発する中間言語に、母語の影響が現れるのもよくある現象である。中間言語語用論とは、言語学習者の目標言語におけることばの使い方や習得を研究する学問である。

 外国語学習といえば、文法を思い浮かべる人も多いだろう。たしかに文法は大事だが、文法を習得しただけでは、コミュニケーションは必ずしもうまくいかない。状況に適したことばの使い方をしなければ、文法的には正しくても相手の気分を損ねてしまうということもあるからである。たとえば、英語で目上の人に何かを依頼するときに「please+命令形」を使ってしまうのは、日本人によく見られる、好ましくないことばの使い方である。pleaseをつけても、命令形であることには変わらず、相手に失礼と思わせる言い方なのだ。日本では、中学校で「pleaseを命令形につければ丁寧になる」と教わるので、以後どんな場合にも使える丁寧表現だと思い込んでしまいがちである。また、「英語は直接的な物言いをする」といったようなステレオタイプから、丁寧表現に気を使わなくてよいと思ってしまう学習者も多いようだ。しかし、実際には英語にも様々な丁寧表現があり、母語話者は話し相手や状況に応じて巧みに使い分けているのである。

 では、英語圏に留学をすれば、状況に適したことばの使い方も自然に身に付くのだろうか? 筆者は、実際に米国に留学した学生を対象に追跡調査をおこなった。結果は、留学する前には目上の人に対する依頼に「please+命令形」を使う学生がかなりいたが、留学後はほぼゼロになった。同時期に同じテストを受けた、留学をしなかった学生群にはこのような変化は見られなかったので、これは明らかに留学の効果と思われる。しかし、留学しても変わらない問題点もあった。日本人英語学習者がよく使う別の依頼表現として「I want you to …」という言い方がある。たとえば、「推薦状を書いてください」と先生にお願いするという状況での「I want you to write are commendation letter for me.」といった表現なのだが、実は、これも英語母語話者は目上の人に絶対に使わない命令的な依頼表現である。このwantを使った依頼表現については、留学後も使用する数がほとんど減らなかった。理由は色々考えられるが、一番大きいのは母語の影響である。日本語の丁寧な依頼表現として「…していただきたいのですが」という言い方があるが、学習者はこれを英語に直訳してwantを使った表現をするようなのだ。母語の影響は無意識なので、意識するきっかけがないと、それを変えるのは難しい。また、留学して全体的な英語力が上がると、母語で考えたことを英語で言いやすくなるので、かえって母語の影響が出やすくなる、という側面もある。全体としては、ことばの適切な使い方に対する留学の効果はプラスの方が大きいという結果が出たが、その発達は右肩上がりに一直線というわけにはいかないようである。

 日本の英語教育は、どうしても文法中心になりがちであるが、英語による異文化間コミュニケーションが欠かせなくなっている現代では、状況に応じたことばの適切な使い方も指導内容に組み込んでいくべきだと痛切に感じている。

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