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なぜ日本の都市には「おひとりさま空間」が多いのか

明治大学 情報コミュニケーション学部 専任講師 南後 由和

明治大学和泉キャンパス食堂“和泉の杜”

なぜ日本の都市には「おひとりさま空間」が多いのか

『建築雑誌』2015年1月号表紙
『建築雑誌』2015年1月号表紙
明治大学和泉キャンパス食堂“和泉の杜”
明治大学和泉キャンパス食堂“和泉の杜”
 日本の都市には、欧米と比べてワンルームや1Kのマンションが多い。カプセルホテルも日本の発明品で、その原型は建築家の黒川紀章によって考案された。牛丼屋などのひとり向け飲食店の種類も充実している。ブースごとに衝立があり、女性ひとりでも入りやすいラーメン屋まであったりする。ネットカフェや漫画喫茶も、日本の都市風景としてすっかり定着している。

 では、なぜ日本の都市にはこれら「おひとりさま空間」が多いのか。そんな疑問から、『建築雑誌』2015年1月号で「日本のおひとりさま空間」と題した特集を組んだ。『建築雑誌』とは、日本建築学会(会員数は約35000人で日本最大級の学会)が、毎月刊行している会誌である。

 「おひとりさま」という言葉は、2000年代以降、主に30~40代の単身女性および単身高齢者を指す言葉として使用されるようになった。背景には、晩婚・非婚化や高齢化による単身者の増加がある。

 「おひとりさま」が注目されるようになった背景は、晩婚・非婚化や高齢化だけではない。携帯電話、スマートフォン、SNSの普及が、空間利用の個人化を推し進めると同時に、シェアハウスやカフェなどに見られるような新たな空間の共有化を促している。このようなメディア環境の変化は、とりわけ若者たちのあいだで、他者とつながっていないと不安に感じる「つながり」への強迫観念を生み、ひとりぼっちの状態を揶揄する「ぼっち」という言葉が流通するようになった。

 学生からは、大学の講義をひとりで受けることに抵抗を感じるとしばしば耳にする。ひとりで昼ご飯を食べているのを他者に見られるのが恥ずかしいという理由から、トイレで食事をする「便所飯」もマスメディアで一時よく取り上げられた。明治大学和泉キャンパスの学生食堂「和泉の杜」でも、横長のテーブルに間仕切りが設置されており、向かいの人の視線が気にならないよう配慮されている。

 「おひとりさま空間」の増殖は2000年代以降に顕著な特徴である一方で、「おひとりさま空間」それ自体は、日本の歴史や文化と密接に結びついている。社会人類学者の中根千枝氏は、『タテ社会の人間関係』(1967)のなかで、日本社会は、家、学校や会社などの小集団の「ウチ」での一体感や帰属意識が強い分、小集団の「ソト」に出ると個人は孤立性を高める傾向にあることを指摘した。

 なるほど、近年のネットカフェや漫画喫茶などでも、小集団から離れ、孤立性を高めた個々人がバラバラに存在しているように映るかもしれない。しかし、そこでは、互いに静寂を保ちながら「空気を読んで」振る舞う、緩やかな一体感が見てとれる。

 『建築雑誌』の座談会にも登場してもらったデザイン評論家の柏木博氏の『「しきり」の文化論』(2004)によれば、西洋は家族の内部でも個人が独立して、個室と共同の部屋を分離する一方、日本では、大きな空間を障子や襖などで仕切り、その中で家族がゆるやかにつながりながら暮らし、気配や間といったものを読む感覚が養われてきたという。土地が狭く人口密度は高いけれど、うまくお互いの距離を察しつつ空間を利用していけるのは、満員電車がそうであるように、日本ならではの特徴であろう。座談会では、日本人は音に鈍感、視線には敏感で、居酒屋では衝立さえあれば隣で他の集団が大声で話していても気にならないという興味深い指摘もなされた。

 ところで、『建築雑誌』は、編集委員がチームを組んで、特集テーマ、目次、執筆者の設定から、取材、原稿依頼までを手がけている。建築の意匠、歴史、構造、設備などの専門家はもちろん、私のような社会学者のほかに、広告会社の人や編集のプロなどからなる異種混淆とした環境は、情報コミュニケーション学部がそうであるように、学際的で刺激的な場になっている。

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