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強い家族の社会の低い出生率…パラドックスか?

明治大学 政治経済学部 准教授 加藤 彰彦

強い家族の社会の低い出生率…パラドックスか?

※本内容は、明治大学広報誌『明治』VOL.61(2014年1月発行)に掲載されたものです。

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地図① 中高年の親と成人子との同居率(2004-2006年)
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地図② 合計特殊出生率(2009-2010年)
 筆者は2011年4月から2年間、ドイツのマックス・プランク人口研究所にて在外研究を行った。その際、ヨーロッパの家族・人口研究の最新の成果に触れることができたが、なかでも興味深かったのは、北西欧の「弱い家族の社会」(核家族社会)と南欧の「強い家族の社会」(拡大家族社会)の地理的対照性に関する議論である。ここにいう「強さ」「弱さ」とは親子間・世代間関係のそれを指し、統計的指標としては、多世代の居住関係、接触頻度、援助関係等が用いられる。なかでも居住関係は、接触や援助の規定要因として、また、家族制度の指標として重要である。
 地図①は「欧州における健康、加齢および退職に関する調査」(対象者は50歳以上)により、中高年の親と成人子との同居率を国別にみたものである(同一世帯内の居住だけでなく、同一建物内の別世帯居住も含む)。この地図からは、同居率がスウェーデンやデンマークなどの北欧では低く、スペイン、イタリア、ギリシャなどの南欧では高いことが読みとれる。また、オランダ、ベルギー、フランスは低い方のグループに、ドイツ、オーストリア、チェコの中欧は高い方のグループに属している。多世代同居率は、この調査に不参加のイギリスやノルウェーでは低く、東欧諸国では高いことが知られているので、弱い家族(核家族)は、北海をとりまく北西欧に分布し、強い家族(拡大家族)はそれ以外の地域に分布しているといってよい。
 こうした対照性が表れるのは家族関係だけではない。地図②に示したように、合計特殊出生率(女性が生涯に生む平均子ども数の推計値)は、弱い家族の社会で高く、強い家族の社会で低い。世代間関係が強いほど、次世代が生まれないという関係は、パラドックスとみなされて、さまざまな議論を引き起こしてきた。
 核家族と拡大家族の対照性を説明する理論は、大きく二つにまとめることができる。一つは、北西欧の家族も過去においては拡大家族が標準であったが、近代化とともに核家族へと発展したと考える発展理論である。この理論は、少子化は時代遅れの家族主義によってもたらされているので、拡大家族を解体して北西欧のように個人主義を発達させれば少子化問題は解決されると主張する。もう一つは、北西欧においては、伝統的に核家族が標準であり、多世代同居の北低南高傾向は2種類の異なる伝統的家族制度を反映していると考える地域性理論である。
 一般的には発展理論が信じられてきたが、それを直接的に示す証拠は意外に乏しい。むしろ歴史人口学的研究は、北西欧では中世ないし近世初期においてすでに核家族が標準であったことを示す数量的証拠を蓄積してきた。しかし発展理論は、英米の自由主義国家や北欧の福祉国家を近代化の頂点に位置づける政治性を有することもあって、社会科学の領域全般において非常に強力である。
 では、家族の地域性理論からは「強い家族の社会の低い出生率」というパラドックスはどのように解けるのであろうか。筆者は過去半世紀の日本家族の経験がそのヒントになると考えている。というのも、日本の多世代同居率は最近の二世帯住宅の増加からもわかるように、中欧・南欧と同じかそれ以上に高く、出生率は同程度に低いからである。筆者が全国家族調査データ(日本家族社会学会)を分析したところ、強い紐帯を有する家族(および共同体)ほど、若い世代の結婚確率が高く、子や孫の出生確率も高いという知見を得た(他の社会経済的要因は統制済)。逆にいえば、家族的紐帯が弱くなるほど、結婚力や出生力が低下するということである。日本は世界的にみて現在なお最も強い家族の社会の一つではあるが、家族や共同体の紐帯は半世紀前と比べれば弱くなってきている。それゆえ少子化の根本的要因は強い家族に基づく人口再生産システムの相対的な弱化であると考えられ、ここにパラドックスはない。
 むしろ、強い家族の社会が発展と成長を目指して、その高い協調性、教育力、技術力、貯蓄力などを生み出してきた家族と共同体の紐帯を弱体化させ、人口という社会の土台をも縮小させていくとしたら、これこそが真にパラドックスということになるであろう。

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