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日本のものづくりの強みと弱み

明治大学 商学部 教授  富野 貴弘

日本のものづくりの強みと弱み

※本内容は、明治大学広報誌『明治』VOL.61(2014年1月発行)に掲載されたものです。

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ソニーの初代WalkmanとアップルのiPhone
 〝ものづくり〟という言葉が、TVや新聞雑誌上を賑わすことが俄に多くなりました。一般の人の間でも、ちょっとした工場見学ブームが起きているようです。同時に、昨今の大手家電メーカーの業績不振を受けて、〝日本のものづくりの危機〟などと言われることも少なくありません。いずれにせよ日本経済と製造業は、よくも悪くも切っても切れない関係にあることは確かですが、その実態がどうなっているのかについて正確な認識が世間で共有されていないように思います。
 世間ではよく、「円高で輸出産業は厳しい!(その逆も然り)」「生産拠点の海外移転による国内空洞化が問題だ!」等の論調が数多く聞かれますが、それは何も今に始まったことではなく、プラザ合意後の1980年代半ばから延々と叫ばれ続けています。しかしマスコミ等が声高に叫ぶ、ものづくりにおける為替問題や産業空洞化論については、産業や企業、製品、地域の違いを無視した表層的かつ粗雑なものであることがほとんどで、必ずしも日本のものづくりの実態を反映しているとは言えません。
 では今、日本のものづくりの強みは一体どこにあり、逆に何が課題になっているのでしょうか。最新の研究成果や、ものづくりの現場を訪ねることの多い筆者自身の意見も含めて少し述べたいと思います。
 ものづくりの競争力について考えるとき、東京大学の藤本隆宏先生を中心とした研究グループが提唱している製品アーキテクチャ論と呼ばれる切り口が1つのヒントを与えてくれます。製品アーキテクチャとは、設計思想と言い換えることができますが、製品(人工物)を構成している部品(構造)と、その製品に要求される様々な機能との対応関係のことを表します。
 このアーキテクチャ論によれば、世の中の製品は、大きく2つに分類することができます。部品の設計を相互調整して、製品ごとに最適設計しないと顧客が満足する製品全体の性能が発揮できない「すり合わせ型」と、部品の接合部が標準化していて、これを寄せ集めれば多様な製品ができる「組み合わせ型」です。すり合わせ型のアーキテクチャを持つ典型的な製品が、自動車やオートバイです。例えば、「乗り心地の良いクルマ」を作るためには、ボディ、シート、タイヤ、エンジン、トランスミッション、サスペンションなど、自動車を構成している数多くの部品(1台の自動車を作るためには2~3万点の部品が必要)を緻密な計算のもとに連携させ最適配置しなければなりません。部品1つの僅か数ミリ(場合によっては数ミクロン)のズレが、クルマ全体の乗り心地を左右することもあります。
 それに対して、最近のデジタル家電製品のアーキテクチャは、組み合わせ型が多くなっています。その典型例が、デスクトップのパソコンです。必要な部品を寄せ集めれば、完成品としての最低限の機能を発揮させることができます。極端な話、ちょっとパソコンに詳しい人ならば、秋葉原で部品を買ってきて自宅でパソコンを作れます(逆に自動車を自作できる人は、まずいません)。流行りのスマートフォンも、組み合わせ型のアーキテクチャに近い設計になっていると言えます。
 この「すり合わせ型」「組み合わせ型」の分類(濃淡)を通じて世の中の製品を見てみると、どうやら今でも日本企業が国際競争力を発揮している領域は、すり合わせ型に近いアーキテクチャを持っているものに多いことが最新の研究で分かってきました。つまり、実際にモノを開発し生産するのに手間暇と時間がかかる複雑な製品に日本企業は強いということです。日本企業が作る自動車やオートバイの国際競争力が現在でも高いのは周知のとおりです。
 逆に、標準的な部品を組み合わせて完成品に仕立て上げるような製品に関しては、競争力が落ちてきています。90年代以降の急速なIT・デジタル革命とも関連していますが、テレビや携帯音楽プレーヤーなど、かつては日本企業の独壇場だった家電製品のアーキテクチャが近年、組み合わせ型に変化してきました。そうなると、製品を実際に作るということに関しては、どの国の企業でも比較的容易にできるようになるため、一般消費者向けの製品の競争力は、そもそもどういった価値や機能を提供すればいいのかという最初の製品コンセプト力(企画力)や、完成品をいかに上手く宣伝し売るのかといったマーケティング力に左右されてくる部分が相対的に大きくなってきます。どうもこの辺りが、日本企業は苦手なようです。ただし、完成品ではなく部品や素材レベルに目を向けると、今でも日本企業は多くの分野で高い市場シェアを保っています。
 新しい製品コンセプトを生み出すということは、言い換えれば、市場において何が問題なのかを発見する行為だとも言えます。日本企業は、「画質を良くする」「薄くする」「軽くする」「小さくする」といった既にある明確な問題を技術的に解決することは得意ですが、それに対して、市場に潜んでいるまだ誰も気がついていない問題そのものの発見力が弱いように思います。もちろん、全ての日本企業がそうではありません。ご存知のように、アップルのiPodの元祖とも言えるWalkmanを生み出したのは、日本のソニーです。Walkmanは、音楽を聴くという行為が「場所」に制約されているという問題を発見し解決した製品です。しかし、そのソニーも最近は少し元気がないのが気になります。
 今後、日本のものづくりが更なる飛躍を遂げていくためには、問題解決力はこれまでと同じように磨き、それと共に〝問題発見力〟の深化が鍵の1つを握っているように思います。

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