明治大学の教授陣が社会のあらゆるテーマと向き合う、大学独自の情報発信サイト

【特別対談】地方創生で日本に活力を! – 農山村の経験から考える –

 Meiji.net編集部

地方創生で日本に活力を!

わが国が直面する大きな課題のひとつ「地方創生」。
このたび、石破茂地方創生担当大臣と、農村政策論・地域ガバナンス論が専門の小田切徳美農学部教授との対談が実現した。
地方創生の現状、地域再生のための具体的な政策のあり方について議論が展開された。

※本内容は、明治大学広報誌『明治』VOL.66(2015年4月発行)に掲載されたものです。

地方創生とは

石破 茂小田切:本日は、石破大臣に地方の現在の状況をお聞きしつつ、大きな政治的課題でもある地方創生を今後どのように進めていくのかお伺いしたいと思います。
石破:「地方創生」については、今までも田中角栄さんの「日本列島改造」、大平正芳さんの「田園都市構想」、竹下登さんの「ふるさと創生」などさまざまな取り組みがありました。今回は何が違うのかというと、危機感が違うのです。この取り組みを真剣に考え実行していかなければ、日本の10年、20年、30年先はとんでもないことになるという強い危機感があります。かつて地方を支えていた公共事業と企業誘致には勢いがなくなり、地方の人口減少、東京の一極集中などの問題が顕著になってきました。東京においても後期高齢者の割合が高くなっていく一方で、医療や介護のインフラは決して十分とは言えません。もし仮に今年から出生率が上がったとしても、当面、人口は減り続けます。農業の力、漁業の力、林業の力も右肩下がりで来ていますが、どうにかして「自給力」を大事にして立て直さなくてはならない。したがって、これは1年で終わる取り組みでもなく、役所だけでやるものでもない。「産・官・学・金・労・言」、色々な人を巻き込んで進めなければ実現はできないと思っています。政府が強権的に何かするのではなく、何をどう変えていったらよりよくなるかということを地域を主体として一生懸命考えていきたいし、説明責任を果たしてまいりたいと思っております。
小田切:改めて、地方創生の目的は何でしょうか。
石破:一言で言えば、東京の一極集中に歯止めをかける、地方の人口減少に歯止めをかけるということが目的です。それは、地方のいろいろな潜在力を最大限に引き出し、ローカル経済を盛り上げることによって、可能になるはずだと思っています。地方の方々が「どうせオレのとこなんか…」と思うか、「うちには、こんなに素敵なものがあるよね」と思うか。我々としても一つ一つの取り組みを体系立てて、国全体の動きにしていく。これは国民運動だと思うのです。
小田切:単なる政策ではないということですね。私は、そうした意味での地方創生にとっていちばん必要なことは、地域の方々の当事者意識だと思います。それを起こして国民運動につなげるためにはどのようにしたら良いでしょうか。
石破:雑誌『中央公論』(2013年12月号)の特集「懐死する地方都市」において、こうした話題が大きく取り上げられました。その後、〝消滅可能性都市〟について報道され、さまざまな自治体が反応していましたけれど、大事なことは、いかに現実から目を背けることなく、前向きに捉えられるかです。自治体の長や議員も含めて、地元の方々が、「どうするんだ」と言うのではなく、「こうしようよ」ということをどれだけ提示できるかだと思っています。

機能を集約する小さな拠点」構想

小田切 徳美小田切:創生本部が提起する政策の大きな目玉、農山村再生のための「小さな拠点」構想についてご説明をお願いします。
石破:「昭和の大合併」、「平成の大合併」を経てきましたが、集落の機能は残念ながら低下していると思います。そうした中で、合併前に役場があった場所などを拠点として色々な機能を集約できないかと思っています。交通や住居、郵便局や宅配便などの流通ネットワークを維持することで可能になるコンパクトビレッジ、それが「小さな拠点」という発想です。住んでいるのは「小さな拠点」だけれども、そこから通う、という形で田んぼや畑、あるいはお墓を守るという発想。社会政策の中の農業政策としても私はあるべきだと思います。
小田切:この政策がそのように位置づけられたことを大変嬉しく思います。小さな拠点構想は数年前の国交省の小さな研究会から始まって、やっとここまで育ってきたものです。強引に地域をコンパクト化、集約をするのではなく、今ある集落を守るということですね。
石破:そのとおりです。こうした議論の際に「もう集落には住む必要はない」といった誤ったメッセージを発信することのないよう、気を付けなければなりません。私自身、今から30年程前に初めて選挙に出る際、地元鳥取の選挙区にある集落を1軒残らず歩いた経験からも、集落を残したいと思っている方々の思いというのは今でも痛いほど感じています。
小田切:農山村の高齢化が進めば進むほど、その地域に住み続けたいと思う人口の割合が増えていくと思います。それに対して、創生本部が時々使う「コンパクトビレッジ」という表現は、あたかも農山村からそうした人々の撤退を目指すという誤解を招きます。しかし、大臣の発言から、そうではないことを確認させていただきました。

地方創生と大学の役割

小田切:今、地方版の総合戦略が各市町村・都道府県でつくられています。私の思いとしては少し急ぎすぎではないかと思っています。
石破:そういうお声もあるのですが、私は1年でできないところは2年経ってもできないだろうと思います。市町村はそれぞれ、中長期計画を必ず持っています。それをベースにして、首長、市町村議会議員、あるいは集落の長が一緒に議論する。来年の3月31日までという期間は、あくまでも最初の戦略を立てる段階です。その間で、そういう方々が「どうせだめだ」と言うか「よし頑張るぞ」と言うか、意識の持ち方で変わることができる。我々政府が主体ではない、あくまでも地域が主体である、というのは、私は地域における民主主義を考える機会でもあると思っています。
小田切:当事者意識を持つために、いわゆるワークショップという手法が大変重要です。日本全国で14万を超える集落があり、過疎地域に約6万の集落がありますが、これらのすべての集落にワークショップを導入するのを促進するような政策が重要だと思います。
石破:例えば鳥取県や高知県がそういうことを始めています。県庁、道庁、府庁が、ワークショップという手法もあるというサゼスチョンを与えることも大事だと思います。
小田切:ワークショップには、いわゆるファシリテーター(議論の進行役)が必要です。その養成は、実は大学が非常に重要な役割を果たすと思います。例えば、ゼミ単位で地域の中に入っていき、地域の方々にファシリテーションを行う。これは、まさに大学の一つの地域貢献として行われていることだろうと思います。
石破:大学という点で言えば、学生が地方で学び、地方で就職する、東京で学んで地方に帰ってきて就職するという部分を強化したいと考えています。具体的には、大学進学のための経済的負担を軽減するため、奨学金の返済免除などを文部科学省とも詰めています。また、その大学でなければ学ぶことのできない「地域学」という学問も推進していきたいですし、農業、工業分野においても地場産業とリンクできることが多いと思います。

キーワードは「驚き・感動・本物」

小田切:石破大臣はまさに国民運動を起こそうとされていると理解しました。集落の端々から霞が関までの各段階への国民運動です。この国民運動の勝算はどうでしょうか。
石破:「ない」と言ったら大変なことになります(笑)。全国津々浦々巡って、どこに行っても必ず一つ二つ素敵な取り組みに出会います。例えば、鹿児島県鹿屋市の「やねだん(柳谷)」の町おこしの事例や、JR九州が展開している各駅停車よりも遅いリゾートトレイン「ななつ星in九州」など、「驚き・感動・本物」が日本国中にたくさんあります。小田切先生がおっしゃるように、地方創生は国民運動です。ただ、これを成功させるためには、次の時代のために、経団連や同友会や商工会議所の方々、民間、学問の世界で一体何ができるだろうということを、それぞれの立場で考えるというのが、国民運動のカギではないかと思っています。
小田切:最後に力強いメッセージをいただきました。東京オリンピックの頃に「過疎」という造語が生まれました。つまり、日本の国土で過密と過疎という現象が生まれて、半世紀が経ちました。そして今、地方創生が始まろうとしています。まさに、これからの半世紀が問われているように思います。そういう意味で、現在が大きな転機にあることを今日の対談で実感することができました。本日はどうもありがとうございました。

(これは4月17日に実施した特別対談の様子を抜粋して採録したものです)

News&Opinionの関連記事

Meiji.netとは

新着記事

2017.11.22

AIと共生できない人は生き残れない!?

2017.11.15

TOEFL スピーキングスコアがアジア最下位の日本は、変われるか?

2017.11.08

暴走するのは核を保有した北朝鮮か? トランプか?

2017.11.01

「アメリカらしさ」に逆行する白人至上主義

2017.10.25

腸内フローラを活用すれば、人はもっと強く美しくなる

人気記事ランキング

1

2014.12.01

【特別号】箱根駅伝優勝を夢見て ―競走部に懸けた20年間の奮闘の軌…

2

2017.11.15

TOEFL スピーキングスコアがアジア最下位の日本は、変われるか?

3

2014.09.01

緊急提言、人口減少社会に歯止めをかける ―方策は少子化対策、社会…

4

2015.02.01

公共政策から社会問題を考える ―物事を相対化し、多角的に考えるこ…

5

2013.09.01

少子化問題を斬る ―原因は、未婚化・晩婚化・晩産化にあり―

Meiji.net注目キーワード

【注目!】連載コラム