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1.はじめに

 3Dプリンタに代表されるデジタルファブリケーション技術の発展により、一般の人が、物体の製造を比較的簡単に行うことができるようになってきました。しかし、既成の形状データをそのまま使うのであれば簡単ですが、自分の好みの形に物体をデザインし、3Dプリンタで出力することは依然として困難な状況です。このように、人が心から満足できるものを自分でデザインし、3Dプリンタ等で作るためには、どのような技術革新が必要であるかという観点から、総合数理学部先端メディアサイエンス学科の教員が中心となって、2013年文部科学省および科学技術振興機構「革新的イノベーション創出プログラム(COI STREAM)」に申請したプロジェクトが、COI─T(トライアル)として採択されました。プロジェクト名は、『感性に基づく個別化循環型社会の創造』です。同時に、この研究活動の実施母体として、本学に特定課題研究ユニット「クリエイティブインタラクション研究所」を開設しました。COI─Tでの活動は高く評価され、2014年度グッドデザイン賞を受賞しました。また2015年4月には、COIに昇格し、本研究所では慶應義塾大学、関西学院大学、山形大学などと連携して研究を進めております。COI昇格後のプロジェクト名は『感性とデジタル製造を直結し、生活者の創造性を拡張するファブ地球社会創造』です。ここでは、感性に基づき、人が自分自身で満足できるものをデザインして作り、それを使って満ち足りた生活を送ることができる創造的生活者になるための要素技術の研究開発と、社会実装を行っています。本稿では、この「クリエイティブインタラクション研究所」の活動内容について、紹介します。

2.受動的消費者から創造的生活者へ

 私たちは元々、自分が使うものは自分で作るという自給自足の生活を送っていましたが、第一次産業革命以降、製造者と消費者に分かれることになりました。製造者は、大量生産により効率化された製造を行い、消費者は、製造者により提供された品物から、自分が必要とするものや欲しいと思うものを購入する受動的消費者になりました。ここで、製造者側では、少ないコストで、できるだけ多くの売り上げを出すために、大多数の人が平均的に満足するものを作ろうとします。一方の消費者は、製造者が提供する平均的に良いものを、十分満足できなくてもある程度我慢して受け入れることになります。その結果、消費者は購入するものにあまり愛着が湧かないので、次々と新しいものに買い替え、大量な廃棄が生じます。

 このような大量生産・大量消費社会を打破し、人それぞれが心から満足するものを取得し、無駄なものを作らないようにするためには、人それぞれのニーズや嗜好に応じ、心から満足できるものを一つずつ必要なだけ作れば良いわけです。このように、自分に必要なものや心から満足できるものを自分で(あるいは周りの人の手をかりて)作って生活する人達を創造的生活者と呼びます。

3.人々を創造的生活者に変えるクリエイティブインタラクション

図1:感性フィッターとそれを用いた和菓子のデザイン(宮下芳明、中村美惠子)
図1:感性フィッターとそれを用いた和菓子のデザイン(宮下芳明、中村美惠子)図2:対話型進化計算による物体デザイン(荒川薫、五十嵐悠紀)
図2:対話型進化計算による物体デザイン(荒川薫、五十嵐悠紀)
 ここで問題となるのは、どのようにすれば受動的消費者が創造的生活者になれるかです。私たちはこの研究ユニットで、人の好みや要求を反映しながら創造活動を支援する技術として、クリエイティブインタラクションの研究を行っています。

 ここでは、人の感性の数理モデルに対して、対話的な技法を導入し、各個人の嗜好を反映した最良の物体デザインを行うための方式を研究開発しています。感性評価値と物体の物理量の関係式から、人の好みの形状や色を推定すると共に、各個人の意思を効果的にコンピュータに入力して対話的にデザインを行います。このデザインに基づき、3Dプリンタで物体を出力します。この感性評価値の解明については、共同研究を行っている関西学院大学が担当しています。さらに、得られたデザインを評価し、最初に用いた感性評価値と物理量の関係式が適正かを判断して、補正を行います。大勢の人達がこのシステムに参加してデザインを行ったり評価を行ったりすることにより、感性評価値の精度が上がり、より効果的に個人の満足度を上げる物体デザインを行うことができるようになります。

 ここで行われている具体的な研究内容について紹介します。

(1) 対話的手法による物体の色・形状デザイン

 感性評価値と物理量の関係から人の好みを直接的にデザインに反映させる感性フィッターを研究開発しました。これは、図1(a)のようなスライダーにより、軽い感じ、鋭い感じなど、言葉で表される各感性評価の度合いをパソコン上で設定し、それらの感性評価値に対応付けられた物理量を反映した3Dモデリングを行うものです。図1(b)はこれを用いて得られた和菓子のデザインと、それに基づいて作られた和菓子の例です。

 一方で、人は自分の好みを言葉でうまく定義できなかったり、自分が本当に好むデザインがどのようなものかわからない場合があります。例えば、「素敵な靴」が欲しいと思ったとき、どのような靴が「素敵」なのか、うまく表現できない場合が多いです。そのような場合に、その人が本当に好むであろうものを推定して提案してくれるシステムとして、対話型進化計算によるデザインシステムを研究開発しています。図2(a)は化粧品コンパクトケースの蓋デザインを、図2(b)はネックレスのデザインを対話型進化計算で行った例です。対話型進化計算は、物体の色や形状を生物の染色体に相当する情報で表し、遺伝的アルゴリズムに基づいて十分望ましいデザインが生成されるように物体の染色体情報を更新するものです。このシステムは、最初は左側にあるように様々なデザインサンプルを人に提示します。人がその中から自分の好みのものをいくつか選択する操作を繰り返していくと、次第に、右側のように利用者の好みのデザインが得られます。

(2)機能のデザイン

図3:Webから簡単に制御できる高性能IoTモーター「Webmo」(渡邊恵太)
図3:Webから簡単に制御できる高性能IoTモーター「Webmo」(渡邊恵太)
 デザインは物の色や形だけではなく、動き方など機能も重要です。そこで、Webから簡単に動きを制御できるモーターを開発しました。これは、機械工学などの知識が無くても、ウェブをデザインする感覚でモーターの動きを制御できるものです。このモーターは「Webmo」と名付けられ、本研究所メンバーである渡邊恵太氏(総合数理学部先端メディアサイエンス学科准教授)が立ち上げたベンチャー企業・シードルインタラクションデザイン株式会社から発売されます。図3は「Webmo」の写真です。
 本研究所の研究活動には、他にも、即興性のあるデザインを行ったり、柔らかさや折り畳み易さなどの構造を設計する造形方法など、3Dプリンタに関する様々な研究を行っています。

4.まとめ

 3Dプリンタなどのディジタルファブリケーション技術の発展により、ものづくりは私達にとって身近なものとなりました。また、自分で作ったものには、通常、愛着を持つことが多く、修理しながらでも長く使おうとするため、自分の必要なものを自分で作ることは、ものを簡単に廃棄しないという観点で、持続可能な社会の実現にもつながります。さらに、各個人が望む形や特性のものを作ることができれば、障がい者、高齢者などの少数の人達も満足できるものを容易に手にすることができます。クリエイティブインタラクション研究所で推進するCOIプロジェクトは、現代の大量生産・大量消費社会の在り方を見直し、持続可能な社会を築くと共に、個々の人が満足して生活できる社会の実現に貢献するものです。

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