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1.はじめに

 特定課題研究ユニット「折紙工学研究拠点」ができたのは2013年の秋。MIMSの中の活動として実施しています。特任の私のほかは、「折紙工学」の外部資金で来ていただいています研究員6名と博士課程学生4名で研究を進めています。本学の理工学部機械工学科の石田祥子助教もいわば本ユニットから巣立った強力な共同研究者です。

 昨年11月には、「世界が注目する折紙工学」と題し、生田図書館のギャラリーで関連の成果を展示し、NHKの首都圏ニュースなどで取り上げられています。現在は、外務省からの取材やNHKのスゴ技の収録中。折紙工学から発生した、明治大学発〝折紙式プリンター〟の汎用化のため、コンソーシアム活動も始まります。有名な〝近畿大マグロ〟に負けないくらいの産業化を目指すべく、いわば明治大学発祥の折紙工学で、一大産業を興そうと奮闘中です。生田研究知財の方々の強力な支援をいただき、このところようやく火が付き始めました。

2.折紙と折紙工学

図1 自動車エネルギーの吸収材図2-1 アサガオのつぼみのモデル
図2-1 アサガオのつぼみのモデル図2-2 ヒマワリの種の配列のモデル
図2-2 ヒマワリの種の配列のモデル
 紙を折ること自体は、日本独自のものでは勿論ありません。しかし、折紙は立体感覚に著しく優れる日本人特有の叡智によって得られています。例えば、折り鶴を見ても本物の鶴ではありませんね。1枚の紙で手軽に美しく折れるよう近似されているのです。この近似の仕方は色々ありますので、個々の折紙の生き残りも実は容易ではありません。結果、生き残っているのは、ほとんど日本人のものとの理由で、〝ORIGAMI〟は既に国際語となっています。一方、2003年当時、折紙で産業化されていたのは、重量当たりの曲げ剛性が最も高いという特長のあるハニカムコアのみでした。勿論、ソーラーセイル等は折紙の展開収縮機能が使われているのは事実ですが、これはいわば、製造にいくらでもコストが掛けられる一品生産方式のものなのです。皆様、ハニカムはご存知ですね。ハチの巣の形状をしていますので、この形状が素晴らしいのだろうということはギリシャ、ローマの時代から知られていました。しかし、産業化されたのは第二次大戦後、英国のエンジニアによって日本の七夕飾りをヒントに大量生産方式が得られてからなのです。このハニカム構造の成形法が技術大国日本から誕生しなかったのは、わが国では、江戸時代に著しく発展した折紙は遊びや芸術として捉えられ、産業化の努力がされなかったからです。これは「我が国の技術者、科学者は反省すべき」の掛け声のもと2003年に折紙工学が筆者らによって提唱されました。折紙の産業化には、折紙の二つの特性、「軽くて強い」、「展開収縮できる」のどちらかの機能を最大限に活かす設計と安価な製造法の検討が必要となります。ここで後者の例について紹介しましょう。

 図1に自動車の現行の、サイドメンバーと称されるエネルギー吸収材と、私たちの提案する折紙式吸収材を比較して示します。現行のものは、同図(a)に示しますように、1枚の平板とハット型に折り曲げられた板材とを溶接で結合したもので中空となっています。“ORIGAMI”を崇拝する欧米人は、曲げただけで折紙と称するケースもありますので、同図のハット型材も折紙と称するのかもしれませんが、同図(a)のものは、展開収縮しません。1枚の紙や平板の左右を結合し3次元構造にして、なおかつ折り畳めるためには、同図(b)のように、螺旋状で伸びていく展開図となることが条件です。これは図2に示しますように、ヒマワリの種の配列のモデルやアサガオのつぼみのモデルを折紙で表現して、改めて植物は螺旋状で成長していくことが分かり、これがヒントとなりました。図1(a)、(b)は軽量化のため中空です。中空でも、軸方向には強いのですが、曲げには弱いです(1枚の紙を丸めて左右をホッチキスなどでとめて試してみてください)。従って、前面衝突の際は、車軸方向の左右のサイドメンバーが重要な役割を演じます。詳細は省きますが、同図(a)に示されているように、軸方向に丁度(a+b)/2の倍数のところで折れ曲がるようにすれば、エネルギー吸収が良いのですが(実は座屈の半波長長さ)、曲げに対しては、(b)に比し、(a)は圧倒的に弱く、その規則性を得るのは実に難しいのです。これを克服するために、丁度、座屈波形の凹部に図1(a)に示すような凹ビードを、凸部に凸ビードを置くという筆者らの、自動車会社時代の特許は有力なものとなりました。このような筆者ら発明のビード(切り欠きのようなもの)をつけて確実に理想的な変形の形状が得られましたが、メンバー自身の嵩張りが邪魔になり、自長の7割程しか潰れません。図1(b)の折紙構造にすれば9割以上潰れ、エネルギー吸収量も多くなります。このように、図1(a)の構造より同図(b)の折紙構造の方が、1枚も2枚も上位の特性を持ちますが、問題は成形法です。残念ながら、(b)の方が(a)より成形が困難で高価なため、本格的な採用は未だありません。しかし、他の例もそうですが折紙構造が優れることを示せたことで成形法の検討がなされれば、折紙構造は、ますます利用されていくことでしょう。

3.折紙式プリンターと積層型プリンター

図3 折紙式3次元プリンターシステム
図3 折紙式3次元プリンターシステム
 上述のように、折紙工学の推進にとって重要なことは、より安価な成形法の発明であることから、新しい成形法にチャレンジすることにしました。それが折紙工法(折紙式プリンター)です。折紙は、1枚の紙で折れるように近似することですが、実際の設計では、実物通りのものを作ることが要求されます。オバマ大統領も革命を起こすとまで言っている積層型のプリンターも理論上、限りなく実物に近いものが得られます。そこで筆者らはリバースエンジニアリング(現在では人工物はCADデータを基に造られますが、他社の車のように、CADデータがない場合、計測から逆にCADデータを作る技術)で使用される、境界線などの特徴線を抽出し、それを基に構造を適切に分断する技術を援用し理論上は厳密な3次元構造物の実物コピーを得る手法を開発し特許化しました。これは、各部分構造物が可展面になるように分割し、それぞれを山線、谷線、糊代部付きの2次元に展開したものを印刷プリンターで出力し、それぞれを3次元に組立て接合するものです。この折紙工法は、どんな大きなものも、どのような色合いも計算機の出力用紙から容易に自分の手で精度よく作れることで、一体成形故に装置によって作れる大きさが決まり、自由な色合いの再現が難しい、高価である積層型の3次元プリンターの欠点を解消しています。この方法は紙だけでなく樹脂、天然繊維から鋼板まで同様の方式で得られます。この場合、高価な型は不用となり、安価にできることからオーダーメードの車も提供出来るかもしれません。勿論、樹脂よりかたいものの製造には折り曲げ加工機は必要となりますが。今、産学協同というか、いわゆるアベノミクスでは大学の研究で得られた成果により産業を創出することが期待されています。

 折紙工学を提唱して10年、それを何としても実用化したいという思いから開発した折紙式プリンターは、折紙工学と共に早晩、新しいイノベーションを起こすという信念で日夜検討を進めています。もう少し折紙式プリンターの意義を述べますと、設計者は、自分の設計したものがどの程度のものかCAD画像で確認しますが、画像画面は2次元ですのでもう一つ臨場感がありません。そのため、型設計は高いですから積層型あるいは折紙式プリンターで作ってみることが今後主流になるでしょう。積層型3次元プリンターでは、自分の手で作れないという欠点があります。自分の手で作ってみるとそれだけ非常によくその構造が理解できますし、3次元どころか、部品と部品の境界の角度を変えたりすると4次元構造、すなわち動きも分ります。図3に示しますように、折紙式プリンターは、設計の現場は勿論、教育の現場、医療の現場にも有効に使用されるかと思います。更に、もう自分の手で作るのは御免といった時もあろうかと思いますので、世界初の折紙ロボットも開発しています。

4.まとめ

 我々が提唱した折紙工学は特に米国において関心が持たれ、巨額の研究費が投じられており、折紙工学の研究者数は日本より多いです。しかし、まだまだ日本はアドバンテージを有しています。折紙式プリンターの成果から、折紙工学の新たな展開も期待できるようになっています。このところ、色々なところから声をかけられるようになりました。積層型プリンターは日本人が最初に発明しながら「このようなものは役に立たない」との声もあり、研究は加速されませんでしたが、米国では「これはいける」との確信から、努力が重ねられ、もはや揺るぎない地位が確立されました。折紙式プリンターも必ずしも関係者全員が「これはいける」との判断はまだありませんが、少なくとも筆者らは確かな手ごたえを感じています。イノベーションが正夢となるよう頑張っていきます。ご支援宜しくお願い致します。

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