明治大学の教授陣が社会のあらゆるテーマと向き合う、大学独自の情報発信サイト

Meiji.net 探していた、答えがある。
magazine50_s

世界が注目する折紙工学~明治大学の折紙工学研究拠点~

  • 明治大学 研究・知財戦略機構 特任教授/先端数理科学インスティテュート所長 博士(工学)
  • 萩原 一郎

1.はじめに

 特定課題研究ユニット「折紙工学研究拠点」ができたのは2013年の秋。MIMSの中の活動として実施しています。特任の私のほかは、「折紙工学」の外部資金で来ていただいています研究員6名と博士課程学生4名で研究を進めています。本学の理工学部機械工学科の石田祥子助教もいわば本ユニットから巣立った強力な共同研究者です。

 昨年11月には、「世界が注目する折紙工学」と題し、生田図書館のギャラリーで関連の成果を展示し、NHKの首都圏ニュースなどで取り上げられています。現在は、外務省からの取材やNHKのスゴ技の収録中。折紙工学から発生した、明治大学発〝折紙式プリンター〟の汎用化のため、コンソーシアム活動も始まります。有名な〝近畿大マグロ〟に負けないくらいの産業化を目指すべく、いわば明治大学発祥の折紙工学で、一大産業を興そうと奮闘中です。生田研究知財の方々の強力な支援をいただき、このところようやく火が付き始めました。

2.折紙と折紙工学

図1 自動車エネルギーの吸収材図2-1 アサガオのつぼみのモデル
図2-1 アサガオのつぼみのモデル図2-2 ヒマワリの種の配列のモデル
図2-2 ヒマワリの種の配列のモデル
 紙を折ること自体は、日本独自のものでは勿論ありません。しかし、折紙は立体感覚に著しく優れる日本人特有の叡智によって得られています。例えば、折り鶴を見ても本物の鶴ではありませんね。1枚の紙で手軽に美しく折れるよう近似されているのです。この近似の仕方は色々ありますので、個々の折紙の生き残りも実は容易ではありません。結果、生き残っているのは、ほとんど日本人のものとの理由で、〝ORIGAMI〟は既に国際語となっています。一方、2003年当時、折紙で産業化されていたのは、重量当たりの曲げ剛性が最も高いという特長のあるハニカムコアのみでした。勿論、ソーラーセイル等は折紙の展開収縮機能が使われているのは事実ですが、これはいわば、製造にいくらでもコストが掛けられる一品生産方式のものなのです。皆様、ハニカムはご存知ですね。ハチの巣の形状をしていますので、この形状が素晴らしいのだろうということはギリシャ、ローマの時代から知られていました。しかし、産業化されたのは第二次大戦後、英国のエンジニアによって日本の七夕飾りをヒントに大量生産方式が得られてからなのです。このハニカム構造の成形法が技術大国日本から誕生しなかったのは、わが国では、江戸時代に著しく発展した折紙は遊びや芸術として捉えられ、産業化の努力がされなかったからです。これは「我が国の技術者、科学者は反省すべき」の掛け声のもと2003年に折紙工学が筆者らによって提唱されました。折紙の産業化には、折紙の二つの特性、「軽くて強い」、「展開収縮できる」のどちらかの機能を最大限に活かす設計と安価な製造法の検討が必要となります。ここで後者の例について紹介しましょう。

 図1に自動車の現行の、サイドメンバーと称されるエネルギー吸収材と、私たちの提案する折紙式吸収材を比較して示します。現行のものは、同図(a)に示しますように、1枚の平板とハット型に折り曲げられた板材とを溶接で結合したもので中空となっています。“ORIGAMI”を崇拝する欧米人は、曲げただけで折紙と称するケースもありますので、同図のハット型材も折紙と称するのかもしれませんが、同図(a)のものは、展開収縮しません。1枚の紙や平板の左右を結合し3次元構造にして、なおかつ折り畳めるためには、同図(b)のように、螺旋状で伸びていく展開図となることが条件です。これは図2に示しますように、ヒマワリの種の配列のモデルやアサガオのつぼみのモデルを折紙で表現して、改めて植物は螺旋状で成長していくことが分かり、これがヒントとなりました。図1(a)、(b)は軽量化のため中空です。中空でも、軸方向には強いのですが、曲げには弱いです(1枚の紙を丸めて左右をホッチキスなどでとめて試してみてください)。従って、前面衝突の際は、車軸方向の左右のサイドメンバーが重要な役割を演じます。詳細は省きますが、同図(a)に示されているように、軸方向に丁度(a+b)/2の倍数のところで折れ曲がるようにすれば、エネルギー吸収が良いのですが(実は座屈の半波長長さ)、曲げに対しては、(b)に比し、(a)は圧倒的に弱く、その規則性を得るのは実に難しいのです。これを克服するために、丁度、座屈波形の凹部に図1(a)に示すような凹ビードを、凸部に凸ビードを置くという筆者らの、自動車会社時代の特許は有力なものとなりました。このような筆者ら発明のビード(切り欠きのようなもの)をつけて確実に理想的な変形の形状が得られましたが、メンバー自身の嵩張りが邪魔になり、自長の7割程しか潰れません。図1(b)の折紙構造にすれば9割以上潰れ、エネルギー吸収量も多くなります。このように、図1(a)の構造より同図(b)の折紙構造の方が、1枚も2枚も上位の特性を持ちますが、問題は成形法です。残念ながら、(b)の方が(a)より成形が困難で高価なため、本格的な採用は未だありません。しかし、他の例もそうですが折紙構造が優れることを示せたことで成形法の検討がなされれば、折紙構造は、ますます利用されていくことでしょう。

3.折紙式プリンターと積層型プリンター

図3 折紙式3次元プリンターシステム
図3 折紙式3次元プリンターシステム
 上述のように、折紙工学の推進にとって重要なことは、より安価な成形法の発明であることから、新しい成形法にチャレンジすることにしました。それが折紙工法(折紙式プリンター)です。折紙は、1枚の紙で折れるように近似することですが、実際の設計では、実物通りのものを作ることが要求されます。オバマ大統領も革命を起こすとまで言っている積層型のプリンターも理論上、限りなく実物に近いものが得られます。そこで筆者らはリバースエンジニアリング(現在では人工物はCADデータを基に造られますが、他社の車のように、CADデータがない場合、計測から逆にCADデータを作る技術)で使用される、境界線などの特徴線を抽出し、それを基に構造を適切に分断する技術を援用し理論上は厳密な3次元構造物の実物コピーを得る手法を開発し特許化しました。これは、各部分構造物が可展面になるように分割し、それぞれを山線、谷線、糊代部付きの2次元に展開したものを印刷プリンターで出力し、それぞれを3次元に組立て接合するものです。この折紙工法は、どんな大きなものも、どのような色合いも計算機の出力用紙から容易に自分の手で精度よく作れることで、一体成形故に装置によって作れる大きさが決まり、自由な色合いの再現が難しい、高価である積層型の3次元プリンターの欠点を解消しています。この方法は紙だけでなく樹脂、天然繊維から鋼板まで同様の方式で得られます。この場合、高価な型は不用となり、安価にできることからオーダーメードの車も提供出来るかもしれません。勿論、樹脂よりかたいものの製造には折り曲げ加工機は必要となりますが。今、産学協同というか、いわゆるアベノミクスでは大学の研究で得られた成果により産業を創出することが期待されています。

 折紙工学を提唱して10年、それを何としても実用化したいという思いから開発した折紙式プリンターは、折紙工学と共に早晩、新しいイノベーションを起こすという信念で日夜検討を進めています。もう少し折紙式プリンターの意義を述べますと、設計者は、自分の設計したものがどの程度のものかCAD画像で確認しますが、画像画面は2次元ですのでもう一つ臨場感がありません。そのため、型設計は高いですから積層型あるいは折紙式プリンターで作ってみることが今後主流になるでしょう。積層型3次元プリンターでは、自分の手で作れないという欠点があります。自分の手で作ってみるとそれだけ非常によくその構造が理解できますし、3次元どころか、部品と部品の境界の角度を変えたりすると4次元構造、すなわち動きも分ります。図3に示しますように、折紙式プリンターは、設計の現場は勿論、教育の現場、医療の現場にも有効に使用されるかと思います。更に、もう自分の手で作るのは御免といった時もあろうかと思いますので、世界初の折紙ロボットも開発しています。

4.まとめ

 我々が提唱した折紙工学は特に米国において関心が持たれ、巨額の研究費が投じられており、折紙工学の研究者数は日本より多いです。しかし、まだまだ日本はアドバンテージを有しています。折紙式プリンターの成果から、折紙工学の新たな展開も期待できるようになっています。このところ、色々なところから声をかけられるようになりました。積層型プリンターは日本人が最初に発明しながら「このようなものは役に立たない」との声もあり、研究は加速されませんでしたが、米国では「これはいける」との確信から、努力が重ねられ、もはや揺るぎない地位が確立されました。折紙式プリンターも必ずしも関係者全員が「これはいける」との判断はまだありませんが、少なくとも筆者らは確かな手ごたえを感じています。イノベーションが正夢となるよう頑張っていきます。ご支援宜しくお願い致します。

広報誌「明治」
明治大学の教育・研究内容をはじめ、広く学術、文化、教養に関する情報を盛りだくさんに掲載した広報誌「明治」。100ページで1、4、7、10月に発行。
購読のお申し込み・お問い合わせ
広報誌「明治」ご購読のお申し込みは、こちらのページをご覧ください。
http://meidaigoods.net/SHOP/50005.html

プロフィール

萩原 一郎

明治大学 研究・知財戦略機構 特任教授/先端数理科学インスティテュート所長 博士(工学)

専門
折紙工学、計算科学
学位
工学博士
略歴
1946年生まれ大阪府出身
1972年4月~1996年3月 日産自動車(株)総合研究所
1996年4月~2000年3月 東京工業大学機械科学科教授
2000年4月~2012年3月 東京工業大学機械物理工学専攻教授
2012年4月より明治大学研究・知財戦略機構特任教授、「先端数理科学インスティテュート」所長、「明治大学折紙工学研究拠点」代表
所属学会等
米国機械学会
日本機械学会
日本応用数理学会
自動車技術会各フェロー会員
日本シミュレーション学会会長
主な著書等
  • 萩原一郎、宮崎興二、野島武敏 監訳:デザインサイエンス百科事典―かたちの秘密をさぐる―、朝倉書店(2011.4)
  • 野島武敏、萩原一郎編、折紙の数理とその応用、共立出版(2012.9)
  • 萩原一郎編“人を幸せにする目からウロコ!研究”、岩波ジュニア新書(2014.1)

知の集積の関連記事

クリエイティブインタラクション研究所

2016.6.29

クリエイティブインタラクション研究所

  • 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科教授、クリエイティブインタラクション研究所長
  • 荒川 薫
野生の科学研究所 – 科学を生命や人間に寄り添えるものに再生する –

2013.10.1

野生の科学研究所 – 科学を生命や人間に寄り添えるものに再生する –

  • 明治大学 野生の科学研究所所長
  • 中沢 新一
日本古代学研究所 – 日本列島の文明化を究明する古代学の国際的構築を目指す –

2013.7.1

日本古代学研究所 – 日本列島の文明化を究明する古代学の国際的構築を目指す –

  • 明治大学 文学部教授 日本古代学研究所所長
  • 吉村 武彦

明治大学からのお知らせ

  • ニュース
  • プレスリリース
  • メディア掲載
  • イベント

お知らせ一覧

2017年1月23日
明治大学体育会卓球部の丹羽孝希選手・酒井明日翔選手が男子ダブルスで日本一
2017年1月20日
「明治の“いま”がこの1冊に!」 季刊 広報誌『明治』第73号を発行
2017年1月20日
情報コミュニケーション学部 カリキュラム変更のお知らせ
2017年1月17日
明治大学がスポーツ功労団体として表彰されました
2017年1月17日
【理工学部】当舎勝次元教授が日本ばね学会功績賞を受賞しました
2017年1月16日
明治大学硬式野球部OBの星野仙一氏、故・郷司裕氏が野球殿堂入り
2017年1月16日
入学試験実施に伴うリバティタワー内事務取扱時間の変更について
2017年1月23日
大学をあげて学生の就職活動を応援「出陣式」を実施 ~「就職の明治」ならではの就職活動直前セミナー~
2017年1月23日
『国際武器移転史』第3号刊行 イスラム国への武器移転から戦間期軍縮交渉、16世紀の軍事行使権論まで 英語論文掲載開始・ウェブサイトにて無料公開中
2017年1月19日
震災復興支援センター 福島県新地町と震災復興に関する協定の更新 —1月25日(水)駿河台キャンパスで協定締結式実施-
2017年1月10日
日本での就職活動について考えよう! 外国人留学生向けOB・OG就職キャリアセミナー
2016年12月22日
総合数理学部 宮下芳明教授~手書きの図面で簡単に3Dプリントできる~3Dプリンタを開発
2016年12月21日
真核微細藻類ユーグレナを使った「バイオコハク酸」の生産に成功
2016年12月21日
国際武器移転史研究所研究叢書1 横井勝彦編『航空機産業と航空戦力の世界的転回』2016年12月刊行
2017年1月23日
情報ライブ ミヤネ屋(読売テレビ系列・1月23日放送)/トランプ米大統領就任演説についての特集に、海野素央教授(政治経済学部)がゲスト出演しました
2017年1月23日
産経新聞(1月22日朝刊)/トランプ米大統領就任演説についての記事に、海野素央教授(政治経済学部)による解説が掲載されました
2017年1月23日
東京新聞(1月22日朝刊)/アメリカのTPP離脱についての記事に、作山巧准教授(農学部)のコメントが掲載されました
2017年1月23日
産経新聞(1月22日朝刊・大阪版)/トランプ米大統領のスピーチの特徴を分析した記事に、海野素央教授(政治経済学部)のコメントが掲載されました
2017年1月23日
スポーツニッポン(1月21日)/トランプ米大統領の発言についての記事に、海野素央教授(政治経済学部)のコメントが掲載されました
2017年1月23日
WEDGE Infinity(1月20日付)/海野素央教授(政治経済学部)による記事「利益相反とトランプインターナショナルホテル」が掲載されました
2017年1月20日
Pedia News(1月20日付)/小沢聖特任教授(農場)へのインタビュー記事「IT/IoTが、農業と人・地域を日本から世界へつなぐ...明治大学小沢特任教授が語る、日本の農業の現状と未来の姿」が掲載されました
2017年1月19日
【富岡市連携事業】明治大学・クリスチャン・ポラック コレクション展 —資料が語る富岡製糸場の日仏交流—
2017年1月08日
ふくしま震災遺産保全プロジェクト「震災遺産とふくしまの経験 -暮らし・震災・暮らしー」を開催
2016年12月22日
2017年3月15日(水)に「鳥取国際メタンハイドレートフォーラム」を開催します。
2016年12月21日
古くて新しい錯視の世界 — わかっているのになぜ脳は迷走するのでしょうか —(※12月28日~1月4日は休館)
2016年12月20日
情報コミュニケーション研究科フォーラム「日韓交流レクチャー公演」開催のご案内
2016年12月12日
国際交流スタッフセミナー「EU化および離脱の兆しにみるドイツ行政法の憲法化と脱憲法化」開催(1月31日)のお知らせ
2016年11月04日
第7回企画展 「『登戸』再発見—建物と地域から追う登戸研究所—」

Meiji.netとは

新着記事

opinion123_s

トランプ氏の勝利によって高まるhateの潮流にストップ!を

opinion122_s

“問題発見力”が魅力あるものづくりにつながる

opinion000_s

ノーベル賞の大隅先生のラボは自由と好奇心に溢れていた

opinion119_s

移民の急激な受入れ、反民主主義体制のままではEUは瓦解の危機に直面する

trend2_6B

#6 子育ての悩みや不安の解決のために

人気記事ランキング

1

opinion100_s

NAFTAの経験から何を学ぶのか、TPPへの示唆

所 康弘

2

opinion46-s

緊急提言、人口減少社会に歯止めをかける ―方策は少子化対策、社会…

加藤 久和

3

opinion09-s

少子化問題を斬る ―原因は、未婚化・晩婚化・晩産化にあり―

安藏 伸治

4

opinion116_s

少年法適用年齢、引き下げて大丈夫ですか?

上野 正雄

5

opinion26-s

アベノミクスを斬る ―「三本の矢」は的を射るか、日本経済は再生す…

田中 秀明

Meiji.net注目キーワード

明治大学