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新しいコミュニティ「手作り自治区」と経済再生へ – NPOなども含め1000人以上の若者が農村村を支援しています。時代の潮流を感じます。 –

明治大学 農学部 教授 小田切 徳美

新しいコミュニティ「手作り自治区」と経済再生へ

連携テーマ
全国の農山村
農山村の再生

Summary
● 農山村の再生は、あくまで地域の主体的な努力がベース。そこに外部からの人の力を加えることが有効。
● 学生や大学教員の取り組みである「域学連携」や「地域サポート人」によって、地域がもう一度なんとかしよう、と元気になる。
● 「手作り自治区」と「小さな経済」が農山村再生のキーワード。

地域主体の取り組みを支える外部の力

フィールドとしての地域すべてが連携先であり、昨日は高知、明日は和歌山、長野や新潟というようにこまめに地域と関わることで研究を進めています。
フィールドとしての地域すべてが連携先であり、昨日は高知、明日は和歌山、長野や新潟というようにこまめに地域と関わることで研究を進めています。
 研究者として全国の農山村を調査してきましたが、日本各地の中山間地域は、現在非常に厳しい状況におかれています。高齢化が進み、人口の流出によって集落の機能が著しく衰え、農林業も立ち行かない。65歳以上の高齢者率が100%という超高齢化集落も少なくなく、特に西日本では、その傾向が顕著になっています。
 日本の農山村を支えてきた昭和ひと桁世代が、まもなく全員80歳以上になり、今は下りのエスカレーターを一生懸命上っている状態とも言われています。そこに上りのエスカレーターを築くことが重要ですが、そのためには地域主体の取り組みだけでは限界があります。
 これまでの議論では「政策や国がダメだから再生が進まない」という考えと、「地域の人の努力で何とかしなければ」という両極の意見があって、時の政権によっても、その比重が揺れ動いていました。しかし、現在は、集落の維持再生には、地域の主体的な努力をメインに、外部からの人による支援を加えることが有効だという、一つの道筋が見えてきています。もちろん政策は重要ですが、より重要なのが外部の人間の力、つまり、人が地域に入って支え、応援することだとわかってきました。
 その担い手として期待されているのが、実は若者です。

「域学連携」という発想を体現するゼミ生

学生たちのほとんどは、夏休みの間、インターンという形でフィールドに入り、農作業などの手伝いをしながら過ごします。学生によるインタビュー調査もそれ自体が地域にとっては大きな刺激になります。
学生たちのほとんどは、夏休みの間、インターンという形でフィールドに入り、農作業などの手伝いをしながら過ごします。学生によるインタビュー調査もそれ自体が地域にとっては大きな刺激になります。
 ひとつは総務省が3年ほど前から打ち出している「域学連携」という考え方です。これは大学生と大学教員が地域の現場に入り、地域の住民やNPOなどとともに、課題解決や地域づくりに継続的に取り組み、地域の再生支援をめざして活動することを言います。
 こうした考え方は、私達の専門である食料環境政策学の基本的なスタンスであるフィールドワーク中心の研究スタイルと良くなじみます。実際、明治大学農学部食料環境政策学科では、総務省がそのような政策を打ち出す以前から、学生とともに多くの農村実習を行ってきました。私の研究室の「地域ガバナンス」とは一般的に「協治」と呼ばれるもので、地域の住民、行政、NPO、大学などその地域に関わるいろいろな人の力を集めて、協働して行うことをさしています。なかでも若い学生が、課題を抱えている地域に入り、住民とともに地域の課題解決や地域おこし活動を実施することは、学生にとっては地域の実態を学ぶことであり、地域にとっては新たな視点や刺激を得ることにつながります。
 実習に参加する学生を見ていると、素直に感動し、地域の人々にもストレートに思いを寄せることができます。また、学生は情報発信力を持っているため、インターネットなど無縁の集落の取り組みを即座に世界に伝えることもできます。

政策提言によって実現した「地域サポート人」

 若い力への期待を表す、もうひとつの取り組みが「地域サポート人」です。私たちの政策提言によって実現した、この地域サポート人とは、総務省における「集落支援員」「地域おこし協力隊」、農林水産省における「田舎で働き隊」など、地域の支援を行う人たちの総称です。域学連携はその一端と見ることもでき、ゼミ生たちもそうした動きの一翼を担っているとも言えるでしょう。
 地域サポート人は、それぞれの知識や経験を生かしたお手伝いができると考えて地域に入る場合が多いのですが、最初は見ず知らずの若者を見て、いぶかしむ向きがほとんどのようです。しかし、困りごとはないか地域をまわる中で、次第に交流を深め、やがて彼らは、地域ブランドのマーケティングに乗り出したり、農産物のネット販売を軌道に乗せたりといった取り組みによって、地域の力になりつつあります。
 彼らの大きな役割はつなぐことです。話し合いの場を設けてもらうよう役場に働きかけたり、人と人、地域と産業などをつないでいった結果、彼ら自身の生業にしてしまう例もあります。そして、外部から来た人間が、他人事にしないで活躍しているのを見れば、地域に仕事がないからとあきらめていた人にもやる気が生まれます。それが今、各地で次々に芽を吹きはじめているところです。

「手作り自治区」と「小さな経済」による農山村再生

例えば総務省による「地域おこし協力隊」は現在約1000名に達しており、その8割以上が20〜30代の若者です。
例えば総務省による「地域おこし協力隊」は現在約1000名に達しており、その8割以上が20〜30代の若者です。
学生は農村での実習を何度も体験します。お世話になった地域の特産物を、生田キャンパスの学園祭で販売することも。
学生は農村での実習を何度も体験します。お世話になった地域の特産物を、生田キャンパスの学園祭で販売することも。
 問題を別の角度から見ると1990年代以降、農山村は経済の危機とコミュニティの危機が並進している状態にありました。これを解決するためにコミュニティの再生と、地域経済の再生を同時に行うキーワードが、「手作り自治区」と「小さな経済」です。平成の市町村合併によって行政の目が行き届きにくくなった集落を運営していくために、例えば小学校学区単位で「手作り自治区」をつくり、集落の自治機能を担いながら、売店やガソリンスタンド、特産品開発などの経済活動も行う、いわば「攻め」の自治組織です。手作りで自らの幸せを、未来をつかみ取っていくという意識が重要で、その具体的な方法のひとつが手作り自治区であると考えています。
 また、「小さな経済」とは、私たちの調査で『月当りどのくらいの追加所得が必要ですか』という設問に対し、「3〜5万円」という回答が最も多かったことから生まれた発想です。この規模ならば、女性や高齢者の手でも十分実現可能であり、農産物直売所や農産物加工などの6次産業はもちろん、グリーンツーリズムや農家民泊といった形で、都市と農村部の交流を提供するなど、方法はいくつも考えられます。また、小さな経済を安定化させるためには、商品をブランド化することやマネージメントが必要になりますが、ここでも地域サポート人などの若い人の力が役立ちます。特に、地域の人にとってはありふれたものが、外部の視点から見ると魅力あふれるものであることも多く、地域資源を掘り起こす意味でも、地域サポート人は適任と言えるでしょう。
 いずれにしても地域の内発的努力と外部からの人の力で支えるという組み合わせが、コミュニティと経済の両面から地域を再生する方法として、今ようやく大きな潮流になろうとしていることを感じます。

農山村の再生は日本の将来にもかかわる課題

 農山村の再生は、東京への一極集中のリスクを分散し、将来世代の居住可能地域を維持することにもつながります。また、もっと重要なことは、食料、水、エネルギー(バイオマス)とCO2吸収源である森林、この4つを国内においてはすべて農山村が供給しているということです。これらはみな21世紀のグローバルマネーの投機先であり、そうした見地から言えば、農山村は今後、日本の将来を考える上でも、重要な国内戦略的地域と言えます。
 小さな事実から、世界が見えることがあります。今、自分に何ができるか足元から考え、地域の人々に寄り添うことが、大きな視野から捉えれば、世界と日本の平和に貢献しているということもあると知ってほしいと思います。

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