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地域の結束を高めることもツーリズムの持つ力です – 人が交流し、つながっていく。ツーリズムは新たな連携を生み出すきっかけにもなります。 –

明治大学 国際日本学部 専任講師 佐藤 郁

地域の結束を高めることもツーリズムの持つ力です

連携テーマ
台東区 浅草
ツーリズムによる地域情報発信

Summary
● 「プレイスブランド」の構築にツーリズムは重要な役割を果たす。
● 地域の資源をもとにした、地域主導による「着地型」の観光がこれからの主流に。
● 日本のさまざまな文化を世界に発信するうえで、ツーリズムは大きな役割を果たす。

プレイスブランドという考え方

ツーリズムを専門分野として、教育・研究に取り組んでいます。私自身はもともとイギリスやヨーロッパにおけるツーリズムを専門に扱ってきましたが、その中で重要性を増しているのが「デスティネーションブランド」から「プレイスブランド」へという考え方です。観光地間の競争が激しくなるなか、競争力のあるアイデンティティである「デスティネーションブランド」を構築することがますます要請されています。しかしさらに近年は、多くの国や都市が観光目的地(デスティネーション)として「訪れたい」と思われるだけでなく、「住みたい」「学びたい」「働きたい」そして「(起業・投資・購買などの)経済活動をしたい」と思われるような「場所」(プレイス)となるために、より広く「プレイスブランド」の構築をめざすようになっています。そして、競争力のある「場所」になるために特に重要な役割を果たすのが、ツーリズムであるという考え方です。ツーリズムは、既存の境界線を越えて人が交流していくことで、次々と新たな連携を生み出し、そして最終的にプレイスブランドを構築するための価値の共有を促す「みちしるべ」となるのです。

「着地型」のツーリズムが地域結束を推進する

プレイスブランドを各ステークホルダーが共有し、地域に一体感をもたらすためにも、観光という外部の視点は有効です。とにかく観光客をたくさん集めようという発想から脱却し、その地域に住む人やすべての関係者がハッピーになることがこれからの観光の目標です。
プレイスブランドを各ステークホルダーが共有し、地域に一体感をもたらすためにも、観光という外部の視点は有効です。とにかく観光客をたくさん集めようという発想から脱却し、その地域に住む人やすべての関係者がハッピーになることがこれからの観光の目標です。
「世界から見た日本:浅草」をテーマに台東区文化産業観光部の方々にプレゼンテーションを行った。
「世界から見た日本:浅草」をテーマに台東区文化産業観光部の方々にプレゼンテーションを行った。
 これまでの観光は出発地側の旅行会社が主体となって企画する「発地型」の発想で成り立っており、どうしても地域という視点を欠きがちでした。その場合、行政の支援があったり、旅行業者が熱心にツアーを販売したりする間だけは集客があっても、何らかのきっかけで彼らが手を引けば、地域は一気に衰退してしまいます。しかし近年、旅行者の受け入れ地域側が主体となって自分たちの地域の資源を発掘し、企画・運営する、いわば「着地型」の観光が徐々に主流になってきています。
 行政もこうした地域主導のツーリズムを後押しするように、「観光地域づくりプラットフォーム」形成の支援事業などに力を入れはじめました。なぜプラットフォームが必要かと言えば、地域をツーリズムの視点から捉えたときには、行政区域にとらわれない組織体によって、さまざまな関係者が取り組みを活性化させていくことが重要だからです。ツーリズムには、国や地域が協働するプラットフォームとなり、地域のアイデンティティを掘り起し、日本を見直し、再発見する手段としての役割も期待されています。このプラットフォームがうまく形成されれば、プレイスブランドの確立につながります。地域のさまざまなステークホルダーが、それぞれの立場からツーリズムに関わり、その交流の中でその「場所」の価値の共有をめざす。ツーリズムはゴールではなく、むしろきっかけなのです。それをきっかけとして、外からの視点を地域に呼び込み、自分たちの地域への誇りと結束を高めることがツーリズムの大きな役割のひとつだと思っています。

ゼミで浅草をフィールドにした企画を提案

合羽橋道具街を取り上げた企画。急須をプランターに、箸をかんざしにするなど、外国人向けに日本の「道具」の新しい使い方を紹介し、新しいお土産として生まれ変わらせるアイディアを募集。それをSNSを通じて発信し、購買を誘うしくみを提案した。
合羽橋道具街を取り上げた企画。急須をプランターに、箸をかんざしにするなど、外国人向けに日本の「道具」の新しい使い方を紹介し、新しいお土産として生まれ変わらせるアイディアを募集。それをSNSを通じて発信し、購買を誘うしくみを提案した。
 一方、目を転じると、訪日外国人観光客が1000万人を超える中、2020年の東京オリンピック開催も決まり、日本という国が世界の中でどうブランドを作るかに強い関心が寄せられています。学生が、関心を持って取り組める素材や機会も増えている中で、ツーリズムを実践的に学ぶため、私のゼミでは2013年の後期に「浅草エリアにおける訪日外国人観光客向けプロジェクト」に取り組みました。
 目的はツーリズムを通して地域の課題を見つけ、解決策を提案することにありました。ゼミ生には、あまりに現実的で、おもしろみにかけるものではなく、まずは学生ならではのユニークなひらめきや新しい視点を含んだプランを考えるように指導しました。明治大学の国際日本学部は、「世界の中の日本」という視点に立って積極的に世界に価値ある情報を発信できる人を育てることを目標のひとつとしており、ツーリズムで外部の視点を取り入れて考えることで、日本の地域の見えなかった魅力や資源を見つけ出すきっかけになることを期待していました。
 浅草は、外国人観光客の受け入れ態勢が、かなり成熟している地域であり、新しい視点を探すのには苦労したようです。いろいろ考えて、調べてみると、すでに類似した取り組みが行われているということも多かったのですが、私たち日本人が常識と思っていることを捨て、当たり前と思っていることを視点を変えて見ることで、世界の中の日本、日本から見た世界をあらためて考え直す体験にもなったのではないでしょうか。
 2014年1月にはその成果をもとに、台東区文化産業観光部の方々に対して「世界から見た日本:浅草」をテーマに台東区浅草エリアにおける訪日外国人観光客集客・地域活性化のためのアイディアのプレゼンテーションを行いました。こんなこと本当にできるのだろうか? というような提案に対し、どうすれば実現性が上がるかについて観光課の方々にアドバイスをいただくとともに、学生たちの柔軟な発想や意見が、良い刺激になったと評価していただきました。

観光によって地域に貢献できる人を育てたい

街での滞在時間を延長するため、浅草を一つのテーマパークに見立て、周遊させる企画。印籠がそのPASSになっている。日本の「見立て」の文化は観光プロモーションで大いに活用できる。
街での滞在時間を延長するため、浅草を一つのテーマパークに見立て、周遊させる企画。印籠がそのPASSになっている。日本の「見立て」の文化は観光プロモーションで大いに活用できる。
 学生は今回の取り組みを通して、地域の課題を肌で感じながら学ぶことができました。それまでは観光客側の視点しかなかったことについて、旅行会社や地域住民、外国人観光客などの視点からはどう見えるかという、多面的な思考もできるようになっています。柔らかい発想ができる学生のうちに、そうした経験を積み、異なる視点を一つでも多く自分のものにしてほしいと思いますし、そのためにも、ツーリズムは絶好の教材だと思っています。
 また、国際日本学部は、日本の伝統文化やポップカルチャー、日本のものづくり、多文化共生、メディア、国際理解など、多様な研究分野を有しています。その研究対象にツーリズムという視点を加えることで、新しいテーマが生まれてくる可能性は十分にあります。私の講義では、学生にコメントペーパーを書いてもらっていますが、ある学生が「この学部で世界のこと、日本のことをいろいろ学んできたが、ではそれをつなぐものは何だろうとずっとモヤモヤしていた。でも今はツーリズムがそれなのではないかと思っている」というコメントを残してくれました。
 日本は今、観光立国をめざしています。観光が日本の主要な政策の柱として明確に位置づけられたことで、観光によって地域に貢献できる人財を育てることも重要になっています。「世界の中の日本」、「世界から見た日本」を考え、人と人のつながりやコミュニティづくりを大事にしながら、同時にビジネスとして成立させることのできる人を一人でも多く育て、ネットワークを形成することができたら、それはきっと日本という地域にとっても、大きな力になるに違いありません。

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